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6話

──そこは建物も何もない広大な草原だった。建物がない分、星々で輝いている空はやたらと壮大で大きく見える。サーっと暖かい風が草花を揺らす。


 ここは・・・・どこだろう。僕は確かショッピングモールで意識を失って。

 身体がなく、意識だけがある。ということは夢・・・・?。それにしては目の前の景色は鮮明だ。すると後方から足音が聞こえて、二人組の女の子が僕を通り越して行った。


 二人が誰か理解するのに時間はかからなかった。ミアと同じ白い髪にマフラーをかけ、ブルーの瞳の少女。ミアと違うのは雰囲気が少し柔らかいところ。穂波の精霊シアと隣に並ぶのは穂波本人だ。


 二人は草花が生い茂る地面に腰を降ろした。どういう原理か分からないが、僕は穂波の記憶を見ているようだ。


「ご主人はここが本当にお好きなんですね」


 シアが穂波の方を向いて穏やかにそう言った。穂波は少し表情を柔らかくして星空を眺めながら答える。


「うん、出来ることならお兄ちゃんにも紹介したいくらいね」

「しないのですか?」


 穂波は首を横に振ってから目を細めて言った。


「そんな時間もないのよシア。分かるでしょ?」

「ご主人は・・・・どうしてそんなに自分の危機に平然としていられるのですか?」


 穏やかだったシアの語気が少し強くなる。それでも穂波の口調はひどく落ち着いていた。


「そうね、諦めに近いかな。でも私が駄目でもお兄ちゃんとミアちゃんはこうはさせない」

「それにシア、あなたもよ。私が私じゃなくなったら離れる。約束だからね」


 穂波が穂波じゃなくなる・・・・僕は両親を襲撃した時の虚ろな目を思い出す。あの時既に穂波は何か違うものになりかけていたのか?。

 シアは何か言いたいことを必死に飲み込み。頷いた。穂波はシアに微笑む。


「シアは私の組織でも聞き分けの良い子だから期待してるね」


 その時、また一人別の足音が聞こえてきて、穂波に近づく。その人物は黒いローブを着ていて、手には短刀を持っていた。あれは宮浦。


「穂波様、三秋家周辺の偵察終了いたしました。アンメルツ卿は約束通りゴーストを送り込んでいないようです」

「ご苦労様、宮浦さん」

「本当に実行なさるのですか?アンメルツ卿をゴーストの根源を信用するのは私個人的に推奨致しかねます」


 宮浦は納得が出来ないといった感じで穂波に詰め寄る。


「何度も言わせないで時間がないのよ。でも、宮浦さんの気持ちも分かるわだってあなたは遥か昔にアンメルツ卿と戦った伝説のゴーストイーターですもんね」


「伝説なんて・・・・大昔の話です。結局私は大切な人も守れず、アンメルツ卿にも敗れて百年も封印されてしまったのですから」


 宮浦が百年前の伝説のゴーストイーターだって、僕はあの悪魔のような強さを思い出して納得した。


「だからこそ、理解してほしいのよ。私は私の大切な人をお兄ちゃんを守りたいの。あなたの封印を解いた時、私に協力するって言ってくれたじゃない?」

「それは・・・・いえ失礼いたしました」


 一通り会話が終わると、穂波は立ち上がり制服のスカートを手で払い、そのまま目の前にゲートを出現させる。


「シア」


 穂波が名前を呼ぶとシアはその身を黒剣に変えて手に納まる。


「どうかご無事で帰ってきて下さい。これは我々全員の願いです」


 穂波は振り返り、静かな口調で言った。


「そうね、でも祈りや願いがいつも叶うとは限らないのよ」


 その時の穂波の目は濁っていて、光を失っているように見えた。そこで僕の意識は再び途切れ、目の前が暗転した。


 目を開けるとそこは病室だった。上半身を起こすとミアが椅子に座ったまま寝ていた。

 病室の窓からは、朝日が差し込んでおり、照らされる街をしばらく眺めていた。下には校門が見えることからここは学校附属の病院で間違いないだろう。


「わあ、ご主人が息を吹き返した!」


 ミアは若干大袈裟なんじゃないかというぐらいの勢いでナースコールを押しまくる。そんなに連続で押さんでもよろしい。そうたしなめようとした時、ミアはこちらに抱き付いてくる。その目には涙を浮かべている。


「ちょっと疲労で倒れただけで大袈裟すぎないか、まあ嬉しいけど」

「なにを言ってるんですか! ご主人は一時心肺停止状態で予断を許さない状態だったんですよ」


 おいおい、訳が分からなくなってきたぞ。戦闘のダメージが命に届くものではなかったのは間違いない。何故そんな危険な状態になったんだ。あの夢は一種の臨死体験だったのか?。


 僕が首をかしげていると、メガネを掛けた白衣の医師とその後ろに健吾と静香がこちらを覗いていた。医師がこちらに近づいて言った。


「三秋くん、どうやら意識ははっきりしているみたいだね。良かった一時は本当に危なかったんだよ」

「その、僕はなぜ危険な状態になったのでしょうか?」


 医師はその質問に首を横に振って答えた。


「分かりません、搬送時には既に心肺停止状態でした。確かに命に届くような外傷はありませんでした。なぜでしょう・・・・」


 すると、健吾が前に出て僕の肩に手を回して言った。


「細かいことは良く分からんが、俺の親友が戻ってきてくれて嬉しいぜ」


 それを見た静香が健吾の耳を思いっ切り引っ張って、健吾を引き離した。


「こら、元はと言えばあんたが役に立たなかったからでしょ、脳筋すぎるのよ」

「なんだと、お前だって派手に登場した癖に全然精霊使えてなかっただろうが」


 バチバチと二人の間に火花が散る。この二人の仲の悪さは相変わらずだ。見かねた医師がたしなめる。


「三秋くんはまだ絶対安静の重傷者ですよ、ほらほら面会終了です。出ていきなさい」


 そうして睨み合う二人を病室からつまみ出す。この医師も中々に鍛えられているようだ。


「三秋くんなにかあったらコールしてください。外には出ないように」


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