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4話 圧倒的強者

僕は地面を蹴り、ヒュっと高速で男との距離を潰しにかかる。男はハハっと笑って短刀で迎撃しようとする。


「二人揃って真正面から来るか、本当に単細胞だね」


 間合いに入ったつもりだったが、男の反応は異次元に速く、間合いに入る前に凶刃が僕の身体を真横に切り裂く。一瞬真っ二つになったかに見えた。しかし、横に切ったと同時に僕の身体は消えた。


「へえ・・・・ただの単細胞じゃないみたいだね」


 男がどこか愉快そうに呟いた次の瞬間──男の背後に僕は刀に手を掛けて現れる。


 それは超至近距離で絶対避けられない位置。僕は初めから正面から攻撃出来るなんて期待していなかった。一度だけ自分の残像を切らせて受けた攻撃を無効にする技。


 本来は緊急の回避技だが、今回は攻撃に使い相手の予想外を作ろうとした。


「終わりだ」


 僕は本気の速さで勢い良く抜刀し男に袈裟を落とす。しかし、袈裟を落とす瞬間、男の口角が大きく上がった気がした。


「ねえ、安心して全力で斬りかかるにはまだ速いんじゃないのかな」


 男の言う通りだったかもしれない。全力の袈裟は男を斬る前に男の周りの空間を避けるように軌道が曲がり外れた。しかも全力で振り切った僕は隙だらけだった。


 しまったこの男は空間を操作出来るんだった。男はシュッと目にも止まらぬ速さで短刀を僕のがら空きの心臓に突き立て、寸でのところで止め、笑みを浮かべてこちらに耳打ちする。


「これで君は一回死んだね」


 僕は、縮地で男と距離を取る。男は何故かそれ以上反撃してこなかった。


「いやー面白い策だったけど、詰めが甘かったね。惜しい惜しい」


 男はまるで戦っているというより軽く遊んでいるようだった。その子供をあやすような態度が僕をイライラさせる。すると日本刀のミアがテレパシーで話しかけてくる。


「落ち着いてご主人、感情的になって勝てる相手じゃないですよ」

「ああ・・・・悪い。しかしどうするミア。あの空間操作をなんとかしないと皮一枚も斬らせてもらえないぞ」


 さっきので分かった、男を避けるように軌道がズレたのは刀だけじゃない、近づいた僕自身も影響を受けていた。僕が頭を回している中、ミアの方はなにか考えがあるようで、それを僕に伝えてくる。


「あの空間操作、一度に対象に出来る数に限りがあったりしないでしょうか。だとしたら、打開できるかもしれません。良いですか私を一度自律戦闘モードに切り替えて、合図をしたら踏み込んで下さい」


 意思を持つ人型の精霊には精霊が自身で考え宿主の身体を借りて戦うモードがある。

 ミアの案に確信はないが、やってみるしかない。僕はミアを自律戦闘モードに切り替える。男はあくびをしながらこちらを見て退屈そうに言った。


「作戦会議は終わったかい?眠くなってきたよ」

「ええ、終わりましたよ」


 僕の身体でミアが男にそう返すとミアは抜刀し、その場で刀を連続で振った。そして振った分だけ斬撃が無数のかまいたちのように男に向かって飛んでいく。


 それと同時ミアが合図する。


「今ですご主人」


 一瞬身体の主導権が戻った僕は思い切り前に踏み込んだ。特殊攻撃だとミアが上手だが、純粋な身体操作は宿主である僕が上手だ。


「また、面白い攻撃だね。でも当たってやらない」


 男は自分の周囲の空間を操作し斬撃を全て外す。しかし、ミアの狙いは飛んだ斬撃を当てる事ではない。男が空間操作で斬撃を外したのと同時、僕が刀を振る体勢で距離を詰めていた。

 ミアの考えは的中した。どうやら男の空間操作は一度に影響を与えられる数に上限があるようだ。僕は影響を受けることなくついに男との距離をほぼゼロにし、横一文字に刀を振った。


 ──これは完全に捉えた。そう確信した。しかし刀が男を斬ったと同時に男の実体が消えた。これはさっき僕がやった技じゃないか・・・・一体どんなカラクリなんだ。


「危ないね、まさか空間操作のキャパシティーの限界を突かれるとは、久しぶりに少し驚いたよ」


 男の姿が消えたまま声だけが広場に響き渡る。僕は振り終わりの体勢を立て直して刀を構える。


「少しばかりの敬意を表して、次はこっちから行こうか。死なないでくれよ?」


 次の瞬間──男が短刀を構えた状態で突然目の前に現れる。そしてとてつもない速さで短刀の連撃を放つ。僕も連撃を放ち、迎え撃つ。そのまま壮絶な斬り合いへとなだれ込む。

 互いの刃が甲高い金属音と共に火花を散らす。最初に斬られたのは僕だ。


「ファーストヒットは頂きだ」


 男の太刀筋は速いだけではなかった上下左右色々な角度から攻撃が飛んで来る。最初こそ僕も斬撃を返していたが、男はそれを短刀でいなし、カウンターを飛ばして来る。


 すぐに防戦一方になり、男の猛攻にひたすら急所を外すことしか出来なかった。


「短刀に意識が向きすぎているよ」


 男はそう言って、斬り合いの間に蹴りを叩きこんできた。


「ぐう・・・・」


 僕はその蹴りをもろに食らい、後方に大きく吹き飛ばされる。それでもよろけながらなんとか立ち上がる。


「君も中々のタフネスだね、でもミアちゃんの方はそうでもないようだよ?」

「はあ、はあすみませんご主人・・・・」


 ミアはさっきの猛攻で大きく刃こぼれしていた。人間の姿に戻り、片膝をつく。


「ミア・・・・!」


 僕がミアに駆け寄ると、ミアは苦しそうにしながらも懸命に立ち上がろうとしていた。


 ──どうするミアのこのダメージから見るにもう戦えそうにない。

「さて、楽しく運動したところで、特別に君たちの疑問に答えてあげよう。僕は気分屋だからね」


 男は短刀を床に落として武装を解除する。この男の目的は僕らを殺すことではないらしい。


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