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10話

前方に孤島が見えてきた。僕は日本刀のミアをいつでも抜けるように手を掛け。隣の四季も宙に精霊の折り紙を漂わせて前方を注視している。僕たちが島に到着する前に臨戦態勢を取っているのには理由がある。まず今見えている孤島には協会の事前調査と異なり支部と思われる建物もなければ、警備システム存在しなかった。ただなにもない広場のような陸地があるだけ、そしてその島の海岸付近に異質な殺気を放つ人型のゴーストがこちらを見ていた。そのゴーストは人の姿をしているが、その身体は包帯で覆われている。


「ご主人、四季ちゃん来ます!」


 ミアがそう言うと、海岸付近から鎖鎌が船に向かって飛んで来る。船に当たる前に刀で弾き返す──そう思って構えを取った瞬間、一本だった鎌は途中で二本三本と分裂して雨のように無数の鎌が襲い掛かる。しかも刀で弾き切れないように前方だけでなく上下左右全方向から一気に飛んでくる。


「三秋くんが縮地で潰せる距離に船が近づくまで私が鎌をしのぎます」


 四季が手をかざすと宙に舞う折り紙が急速に枚数を増やし、船をドームのように覆い隠して飛んでくる鎌の猛攻を防ぐ。千寿院の折り紙型の精霊は攻防一体だ。見た目は紙でもその耐久性はミアの単一方向バリアと同じくらいだ。そして紙の生成量に制限はない。


 しかしあのゴーストの武器は増殖量に上限があるのか、鎌の雨は一瞬止んだ。その隙を四季は見逃さない。高速で船を守っていた折り紙をナイフの形に変えて、ゴーストに放つ。


 新たな鎌を生成したゴーストは即座に鎌を投げ増殖させて四季の攻撃を弾く。


「流石、四季ちゃん。ご主人、縮地で移動可能な範囲に入りましたよ」


 僕が踏み込む直前、四季がギアを一気に上げ、ゴーストの鎌の防御を崩しナイフの雨を降らす。しかし、あのゴーストも並みではない。四季の攻撃の雨の僅かな隙間を見つけて被弾を最小限にして致命傷を避ける。余裕ではないのかゴーストの意識は完全に四季に向けられている。踏み込むなら──今。


 僕は縮地を使い船からゴーストの懐までの距離をゼロにする。不意を突かれたゴーストだったが反応が僕の予想より速く、即座に鎌で僕の斬撃を防ぎにかかる。


 ──やっぱりこのゴースト今まで戦った中でトップクラスに強い。特に対応力の高さは宮浦のようだ。


「聞いていた通りスピードは飛びぬけている。しかし、相手が悪い」


 僕の横一文字の斬撃をゴーストは完全に見切り防いだかに見えた。振り切った僕の手に刀が握られていないことにゴーストが気付いた瞬間、背後から人間の姿になったミアが強烈な蹴りを叩きこむ。


「むう・・・・!」


 これは完全に予想していなかったらしくミアの蹴りはノーガードで入った。大きく吹き飛ばされるゴースト。


「ミア」


 僕はミアを刀に変え、立ち上がろうとするゴーストに縮地でを使い距離を潰す。


「ややこしいが、対応可能」


 僕が袈裟を落とそうとする動作に合わせて、素早く体勢を立て直したゴーストは鎌を振りかぶって空いている胴目掛けて横に走らせる。ここで僕は宮浦に使った緊急回避を使う。


実体が消えた僕に振るったゴーストの鎌は空を斬る。


 振り終わりで隙が出来たゴーストを僕から後方に少し離れた場所に居る四季が折り紙で出来た巨大な龍を放ち襲う。


 轟音と共に衝撃で激しく砂ぼこりが舞う。


「やったか」


 四季の隣についた僕がそう呟くとミアが否定する。


「いえ、残念ながらまだです」


 砂ぼこりの中からゴースト鎖鎌が飛んで来る。


「それは通じません」


 四季は再び折り紙のバリアで鎌を防ぎ、同時に砂ぼこりの中の薄い影目掛けてナイフの雨を振らせようとした。


「あれ・・・・」


 四季は攻撃を放つ前に片膝を付く。その瞬間バリアが崩れ、僕たちに鎌の猛攻が襲い掛かる。僕は手に持っているミアを再び人間の姿に戻して言った。


「ミア、全方向にバリアを!」

「はい、ご主人。でも四季ちゃんと違って長くは持ちませんよ」


 ミアは手を前に掲げて僕らを覆うようにバリアを展開する。


「四季大丈夫か?」

「すみません、三秋くん急に力が抜けてしまいました」


 一体どういうことだ?四季の能力には使用限界はないはず。四季の身に起きたことはミアが猛攻を防ぎきった後に僕の身体にもあらわれた。身体から急激に力が抜け、立っていられなくなる。


「ご主人!」


 心配そうに駆け寄るミアの背後からゴーストがゆっくりと姿を表す。


「後ろだミア」


 ミアが振り返った時、ゴーストは既に鎌を振り下ろしていた。不味い・・・・かばおうにも身体が動かない。


「ミアさんはやらせません」


 四季は懐から人型の紙を鎌にぶつける。ゴーストの斬撃がミアを捉えることなく無効化される。ミアは一瞬動きを止めたゴーストに蹴りを入れて吹き飛ばして距離を離す。


「危なかったですね・・・・ミアさん・・・・」


 隣で四季は力なくそう言い倒れた。確かにあの斬撃がミアを捉えることはなかった。肩代わりの力で四季が代わりに受けたからだ。


「ミア、四季に治癒をこの傷はまずい」


 ミアは四季に駆け寄り傷に手をかざして治癒の力を最大出力でかける。相当深く斬られたのかそれでもすぐには回復出来そうにない。


「どうしてかばったの、精霊の私ならこんなにダメージは受けないのに・・・・」

「でも三秋くんの武器としては機能出来なくなる・・・・ほら私は良いからあのゴーストを・・・・」

「四季ちゃん・・・・!」


 前方には立ち上がったゴースト。意識を失った四季の容体は・・・・厳しい。ミアの治癒でなんとか命を繋ぎ止めている状態だ。つまり今、かろうじて動けるのは僕だけ。


「言ったはずだ相手が悪かったと、この鎌は精霊に当たることで宿主を弱体化させる代物でな、幹部クラスに与えられる特別な武具よ。とはいえ流石は千寿院、増加の上限まで我の攻撃を防ぐとは」


 ゴーストは再び鎖鎌を構える。


「さあ、どうする? 千寿院を見捨てて精霊を使い戦うか、抵抗せず死ぬかせめてもの慈悲に選択を待ってやるぞ小僧」


 過去一追い詰められているな・・・・それにこのゴースト、まるで宮浦と同じくらい戦いに余裕を持っている。


「四季ちゃんはご主人を守ろうと私をかばったんです、うかつでした四季ちゃんのその思いは最初から自己犠牲も視野に入れているくらい強いものだと私は気付けなかった」


 それは僕もだ・・・・思えば皆が僕を守ろうと傷ついていく。穂波も四季もそしてミアも。恩を返せてないのは僕の方だ。僕が弱いから。


「ミア、強度はそこそこでいい治癒を妨げない程度の力で武器を作れるか?」

「短刀程度なら・・・・まさかご主人は私なしで戦うつもりですか? 無謀です生身の肉体でゴーストと戦うなんて」


 それでも僕はミアから急ごしらえの短刀を受け取る。よく分かった宮浦がゴーストイーターとして完成形である理由、僕が期待外れと判断された理由も。


「ミア、僕は普通じゃないんだろ?だったら戦えるはずじゃないか」


 ミアは顔を雲わせてためらうように言った。


「今のご主人はまだ・・・・」


 ミアが言い終わる前に僕は二人の前に立つ。


「四季を頼んだよミア」


 胸に強くあるのはある覚悟、それを強く持って僕は短刀を構える。


「面白い、実に愚策だが、付き合ってやる」


 瞬間、僕は地面を蹴りぬきスタートを切る。ミアの力である縮地も強力な身体強化もない踏み込みはあまりに遅かった。気付けば、後に動いたゴーストに間合いを潰されている。


 躱せない──なら。斬らせる。


「ほう、気でも狂ったか?」


 血しぶきを上げ、激しい痛みと熱を感じる。ゴーストの一撃は僕の胸を斜めに切り裂いていた。それでも僕は強引に短刀を振る。振り終わりの隙を狙っても強引かつ遅い一撃は容易く見切られ躱される。仕掛けて外されれば飛んで来るのはカウンターだ。


 躱す余裕なんてない肩を貫かれ、胸をもう一度斬られる。


「ぐう・・・・」


 僕の足元には血だまりが出来ていた。


「楽になるといい」


 最後、腹を深く斬られる。僕は確信したこの一撃は命に届いたと。ミアが悲鳴にも似た声で僕を呼ぶ。


「ご主人!」


 ここで倒れたら、ミアは僕に駆け寄ってきてしまう。でも不思議なことに傷が命に届いてもなお、僕の意識は途切れなかった。負傷していない足でゴーストに蹴りを放つ。


「むう・・・・」


 その蹴りは驚くほど速く鋭い、ゴーストは後方に吹き飛ぶもすぐに距離を潰して再び鎌で斬りかかる。

 ──躱さない、いくらでも斬れらせる。


 僕は身体を斬らせながら、肩を貫かれていない方の手に短刀を持ち替えて斬撃を飛ばす。


 無意味な捨て身の攻撃だった。荒らしのように飛んで来る攻撃に身を削られながら、僕は覚悟を何度も思い起こす。それはここで死ぬ覚悟、協会に救難信号を送った。それでもここは孤島、時間がかかる。それまで命を燃やして時間を稼ぐ。生に執着し生まれたのがゴーストなら僕は生への執着を極限まで断つ。


「なんと・・・・その耐久、人間とは思えん・・・・」


 形勢は徐々に傾き始める。僕の刃がゴーストを斬り始めた。痛みも恐怖も薄れていく。その度に僕の攻撃は鋭くなり、相手を激しく斬る。


「むう得体の知れぬ意思、これ以上は付き合ってられん」


 ゴーストは劣勢と迫る死への焦りからか振りの大きい決めの攻撃を放つ。僕は躊躇なく前に出て懐に飛び込み、短刀を突き刺す。ゴーストは激しく吐血し、たまらず距離をとった。その顔に浮かぶのは余裕ではなく恐怖。その時、ミアが声をあげる。


「ご主人、四季ちゃんの容体が安全圏に入りました」


 僕はボロボロの短刀を捨て日本刀に姿を変え、向かってくるミアを手に取る。傷が少しづつ塞がっていく。通常憑依による治癒は絶命レベルの負傷を治すことは出来ない。


「回復の暇など与えん」


 ゴーストは今までで一番の速さで踏み込んできた。僕は迎え撃とうとするも、大規模な再生の影響か、一時的に身体に力が入らない。


「あいつを三秋くんから離れさせて」


 かろうじて意識を取り戻した四季がそう言って手を祈るように合わせる。直後ゴーストに落雷が落ちる。


「ここで神降ろし・・・・まずい痺れが」


 四季の技を食らいゴーストの動きが完全に止まる。同時に身体の再生が終わった僕は決めの一撃を入れるべく縮地で距離を潰す。それは今までのものとは比べ物にならないほど速かった。ゴーストは抵抗出来ず、もろに袈裟斬りを食らい斜めに切断された。

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