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9話

──特別任務当日、僕は制服に着替え、日本刀の姿に変化しているミアを手に取る。四季から特別任務の詳細について電話で聞かされた。今回の任務は青龍院と千寿院が現代のゴーストイーターを指揮および監視する協会から請け負った任務であること。


 そして、任務の目的は当初より荒っぽいものに変わっていた。ただの調査から二か所ある教団支部の破壊作戦に変わり、二人一組のチームでそれぞれ二か所を襲撃する。


 チーム編成は協会側の事前調査で危険性が高いとされる方に僕と四季が、もう一か所に健吾と静香が配置される。


「三秋くん、今回の任務に青龍院家と千寿院家の両家はあまり良い反応を協会に示していません。アンメルツ教団は表向きは普通の宗教団体として機能していることから、噂や協会の調査を大袈裟だと捉えています」


 元々二大名家と称される両家はプライドからか依頼を出してくる協会を良く思っていないというのはゴーストイーターの中では良く知られた話だ。それゆえにそんな協会からの真偽が分からない依頼なら高校生ゴーストイーターである僕らで充分対処可能と決めつけているのかもしれない。


「私はとても胸騒ぎがします。三秋くんはどうでしょうか?」


 四季は直感でアンメルツ教団の支部の襲撃という任務の危険性を感じ取っているのが電話越しの声で分かる。


「僕もミアも同じ胸騒ぎを感じているよ」


 ミアは警戒からか常時武器状態でいるし、アンメルツ卿の存在を知っている僕に至っては危険を確信している。


「病み上がりで大変な任務ですが、私が三秋くんをどんな脅威からも守ります。必ず」


 その決意のこもった言葉と共に電話が終了する。


 今回、四季といく支部はこの街の港から船に乗って向かう。孤島にあり、厳重な警備システムによって部外者の侵入を許す隙がないという。

 病院を出てバスに乗り、街の南にある港へ着く頃には千寿院家の船と四季が待っており、僕らはその難攻不落の支部に向けて出発した。


 船はそこそこ大きく孤島に着くまで休めるように人数分の個室が船内には完備されている。ミアは警戒が一時的に解けたのか人間の姿に戻り船から見える街の景色をぼんやりと眺めていた。僕は戦いに備えて休むため、個室のベッドに横になっている。


 しばらく横になっているとコンコンとノックの音がした。ミアかそれとも四季か、僕は扉を開ける。


「お邪魔してもよろしいですか三秋くん」


 そこにやや遠慮がちに立っていたのは和服姿の四季。


「ああ、丁度いまいち寝付けなくて、暇だったから入ってくれていいよ」


 そうして、僕はベッドの上に腰を掛け、四季はこじんまりとした机の近くにある椅子に腰を掛けた。


「あの、三秋くんはもしかして今回の任務について特別なにか思うところがあるのではないかと、私は勝手ながら推測しているのですが」


 図星だ、いきなり僕が任務に参加した理由の核心に触れる疑問をしてきた。これが四季の直感の恐ろしいところなんだ。


「うん、でもミアにも言ってないし、気付かれなかったのによく分かったね」

「三秋くんは出会った時からなにか抱え込んでいる時に特徴的な雰囲気があるんですよ」


 自分では全く気付かない・・・・純粋にどんな雰囲気なのか気になる。僕がそれについて質問しようとすると、四季が先に口を開く。


「どんな雰囲気かというと言葉にはできませんけど、それより、良かったら私に話していただけますか?」


 僕は四季に夢のことやアンメルツ卿のことを吐き出しても良いのか迷った。考えて任務に関わるアンメルツ卿と夢の一部を話すことにする。なるべく簡潔にだ。


「心肺停止状態の時に夢を見たんだ、その夢の中でアンメルツ卿という存在を知った。四季は聞いたことないか?」


 知らないとは思うけど、一応聞いてみると四季はなにかを思い出すように言った。


「生に執着し、死を超越したアンメルツ。千寿院家にはゴーストに関する書物や資料が多く保管されています。私は千寿院家の人間の中で一番それらを読んできました。その中で無許可で読むことが禁止されている書物があるんです」

「その、死を超越したアンメルツというのはその書物のタイトル?」

「いえ、その禁書の一つに書かれていた架空のゴーストを表した一節です」


 アンメルツ卿とそのアンメルツが同じだとしたら、少なくともその書物の中ではあくまで架空の存在として扱われているのか。しかし、夢の中で宮浦はそれと戦い、敗れて封印されていたと言っていた。一体どういう・・・・。四季は「でも三秋くん」そう言って胸に手を当てる。その仕草を見て、四季はなにか違和感を感じていると思った。


「四季が胸騒ぎを覚えたのは今回の教団の名前がアンメルツだったから?」

「それもあります、しかしそれ以上にアンメルツ教団の噂の実験、信者の人間をゴーストに変える。それはまるで書物の中で登場する架空の存在アンメルツが死を超越するために自らに行った実験と繋がるものがある気がして・・・・」


 アンメルツの実験、ゴーストの根源、教団の実験、人型のゴーストの増加。今の話しに関連するワードが頭の中で渦巻く。


「もしかしたら私たちはかつてない何かに巻き込まれている。三秋くんが発したアンメルツ卿という名前を聞いて私のその胸騒ぎがさらに強くなりました」


 そこで四季は椅子から立ち上がりこちらに微笑んで言った。


「貴重な情報ありがとうございます。私は外に居るミアさんとお話してこようと思います」

「ああ、構わないよミアも丁度退屈してきてる頃かもしれないし」

「ではまた」


 四季が部屋から出て行った後、僕は再びベッドに横になる。孤島への予定到着時刻は深夜で現在時刻は午後の四時。少しだけ仮眠できるくらいの時間はありそうだ。僕は目を閉じて頭に渦巻く情報を一時的に意識しないようにして眠りについた。


 ──三秋くんの部屋を出て私は外で夕陽を眺めているミアさんの隣に行きました。


「ミアさんが三秋くんと離れてぼんやりとしているなんて珍しいですね」

「それを言うなら四季ちゃんこそ積極的にご主人から秘密を聞き出そうとするのも珍しいと思うけど」


 どうやら三秋くんと深くリンクしているミアさんには全てお見通しのようです。三秋くんは気付いていないようですが、ミアさんにはあまり隠し事などは通用しません、ただ普段は知らないふりを徹底しているだけ、三秋くんに対しても恐らく私に対しても。


「ミアさん、私は千寿院家の神降ろしの継承者として一族の期待と重圧を背負って生きてきました。だからでしょうか、三秋くんも大きな何かを背負って生きているそんな感じがするんです」


 ミアさんはそれを聞いて、私の方を向いて何かを見透かすような目をしてから小さく頷いて話し始めました。


「ご主人も四季ちゃんも境遇が似ているからかも知れないね、ご主人の父親は協会からの依頼で生計を立ててたプロのゴーストイーター、ご主人も幼い時から任務に同行したり、手ほどきを受けてた」

「なるほど、三秋くんが戦闘慣れしているところがあるのはそのせいなんですね」

「うん、それでもご主人はたまにドジをしでかす時があるけどね」


 そういうところも私が三秋くんに親近感を抱く要素なのかしれない。ミアさんは言葉を続けました。


「でも妹が生まれる直前、ご主人の父親は任務の負傷で戦えなくなった。以降、ご主人が代わりにゴーストイーターとして仕事を請け負うようになったんだ。神速のゴーストイーターって呼ばれるようになったのも仕事をこなす中で自然とって感じだね」


 ミアさんは一通り三秋くんの過去を語り終えたあと唐突に質問をしてきました。


「四季ちゃんはご主人のことが好きなんだよね?」

「はい、私は多分、恩義以上の感情を抱いています」


 驚くほど自然に私は認めてしまいました。ミアさんはその言葉に大きく頷いてこちらに微笑んでから私の肩にポンっと手を当てて言いました。


「私は四季ちゃんのこと応援するよ、ご主人には私以外にも傍で支えてくれる人が居た方がきっと良い」

「私はそんな存在になれるでしょうか?」

「それは、四季ちゃん次第かな。それじゃガールズトークもしたし、私も船内に入るね」


 ミアさんが居なくなった後、私は三秋くんに話した書物のゴーストアンメルツの記述を思い返します。男は生まれながらに孤独だった。周囲は彼に冷たくどこまでも非情だった。男の内なる憎悪とそれを晴らさんとする執念はついに男を死を超越したアンメルツへと変えたのだ。


 ──私は例え相手がどんな脅威でも三秋くんを守る。もう何度もしている決意をより強く心に刻んだ。

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