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プロローグ

「はあはあ」

 

 ──薄暗い路地裏の奥、行き止まりの壁にもたれかかり僕は息を切らしていた。コンクリートの壁のひんやりとした感覚を背中に感じながら、僕は自分のうかつさに嫌気が差す。


 僕、三秋優はゴーストという怪物を倒すゴーストイーターであり、その責務を負っている以上学校帰りだろうとなんだろうと襲撃は想定していなくてはならないのだ。ゴーストイーターは専用の精霊をその身に宿して戦う。


 しかし、今は精霊を宿した依り代を学校に忘れてきてしまっている。そして目の前にはこちらを嘲笑うかのように見つめる人型のゴースト。黒衣のローブに魔女のようないでたちをしている。


「さあ、坊や鬼ごっこは終わりみたいね、安心しなさい一瞬で養分にしてあげる」


「ふん、そう簡単にやられるかよ」


 もちろん去勢である。精霊のいないゴーストイーターなんて刀を持たない剣士のようなものだ。しかし、依り代には信号を送ってある。勝算があるとすれば、依り代が手元に来るまっで耐えきる持久戦しかない。


 僕は隣にある鉄パイプを手に取り正面に構える。それを見たゴーストは更に笑って言った。


「あはは、鉄パイプで戦うゴーストイーターなんて見たことないわね。面白いわ。じゃさようなら」


 見た目からして遠距離系の攻撃が来るかと思いきや、ゴーストの両足の筋肉が隆起する。そして目にもとまらぬ速さでコンクリートを蹴りぬき、距離を詰められる。


 しまった、いきなり予想外を作られてしまった──次の瞬間ゴーストの振り上げた右腕の筋肉が隆起する。そして僕の頭目掛けて振り下ろされる。


 僕はなんとか間に鉄パイプを挟みガードする。足が地面にめり込むほどの衝撃と腕の骨がきしむ音がする。

「へえ、その鉄パイプで私の拳を受け止めるなんてやるじゃない」


「感心してくれてありがとう、ついでに拳をどかしてくれないかな?」


「どかすわけないじゃない」


 ゴーストの右腕が更に隆起し、力が加わる。僕は片膝を付きなんとか受け止めていた。


「ぐうう....」


 不味いこれ以上は素の身体強化では受け止めきれない....。鉄パイプを握った手からは赤い血が滴り落ちる。


「おーい、お間抜けなご主人大丈夫ですか?」


 茜色の空の下、路地裏に建つビルの上にそいつは居た。制服姿で口にはチュッパチャプスをくわえ、冬でもないのにマフラーを掛けた少女。


 彼女の名はミア。人間の姿をしているが、刀を依り代にしている僕の精霊だ。


「・・・・大丈夫なわけないだろ!早く助けろ」


 ミアは口にくわえたチュッパチャプスを出してクルクル回しながら意地悪そうな笑みを浮かべて言った。


「えーご主人が間抜け過ぎるから、私がこうして学校からはるばる来たんですよ?お願いしますってちゃんと懇願してくれないとね」


 ああそうだ、ミアはこういう性格なのだ。しかも今回はぐうの音もでない。


「お願いします、ミア様助けて下さい!」


「よーし、助けてしんぜよう」

 そう言ってミアの青い目は真紅に変わる。ふわりとビルの上からゴースト目掛けて飛び降りた。


「とりあえず吹き飛べキック」


 ミアはゴーストの頭に思い切り横蹴りを叩きこんだ。ゴーストは回転しながら吹き飛んでいく。拳から解放された僕は両膝をつく。そこへミアが手を差し伸べる。


「情けないですよご主人、立てます?」


 僕はミアの手を借りなんとか立ち上がる。腕や足からはズキズキと激痛が走り続けている。


「ミア、来るぞ」


 僕がミアにそう告げると、真っすぐ視線を向けた先から鋭い雄叫びと共に足の筋肉を隆起させたゴーストが弾丸のように突っ込んでくる。


「鬱陶しいですね」


 そう言ってミアは片手を前に出し、オーラのバリアを展開する。ゴーストの振り下ろした腕がバリアで防がれ、止まる。ゴーストは怒りで我を忘れたような顔をしながら何度も隆起した腕を叩きつける。


「ミア、憑依だ」


 僕がそう告げるとミアはこちらを見て頷く。


「アイアイサー、ご主人ド派手に切り倒しちゃって下さい!」


 ミアが日本刀の姿に変わり、僕の手元に装備される。その瞬間──傷や痛みはたちどころに癒え、身体はいつもの数倍軽くなる。


 バリアが解け、僕の頭上に再び拳が高速で襲い掛かる。

 

 見える、刀で受けることもできるが、それより上に飛ぶ。そうして僕は大きく上に飛んで拳をかわす。空を切った拳はコンクリートの地面に突き刺さり抜けない。


 ──生まれた一瞬隙ありだ。


 僕は日本刀に手を掛け、腰を少し捻ってからゴースト目掛けて居合を放った。目にも止まらぬ速さで放たれた斬撃はゴーストを上下に両断していた。


 地面に着地し、刀の状態のミアを人型に戻す。ミアは僕の隣に立つやいなや汚れた制服の裾を引っ張った。


「ご主人、ご褒美はなにかあるんですよね?期待していいんですよね?」


「ああ、帰りにミアの好きなアイス屋の宇治抹茶ソフト買ってやるよ」


「やった、ご主人分かってる!」


 子供のようにはしゃぐミアを見て緊張が解ける。今回は本当に危なかった。


 ゴースト、それは突如として現れる現代の怪物。人を養分とするその怪物に対抗すべく生まれたのが僕たちゴーストイーターだ。数多いるゴーストイーターの中で僕ら二人は討伐速度がトップクラスであることから神速のゴーストイーターと呼ばれていた。

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