クリぼっちな友人のために女装してデート行ってあげたら伝説になってた
第1章 クリぼっち回避&クリスマスENJOY大作戦!
「なぁ、陽太。俺、今年もクリぼっちなんだけど……。いまからでも彼女できるかな?」
「――が~んばればいけるんじゃね~? 」
「おい! 棒読みすぎるだろ! お前は良いよな。彼女いて」
俺の名前は中野陽太。県内トップの偏差値を誇る名門高校の生徒会長でイケメン、つまりは完全完璧なエリートって訳だ。
そんな俺は今、勉強をしながら、勝手に人の家に入り、人の部屋に許可もなく入室してきた馬鹿という名前の伊藤健介ってやつの愚痴を優しく聞いてあげている。
基本的にコイツの話は右耳から左耳へとそのまま横流しにするのだが、今のは聞き流せない。
「――彼女いないけど? 」
「は? いやいや、だって……。なんかごめんな……」
「いや、別に良いけど」
ほう。こいつも多少は気遣いというものができるらしい。
もっとも今回の件は、まったく気にしていないのだが……。
「ん? ってことは今年はお前もクリぼっちか? 」
いや、前言撤回だ。こいつには気遣いというものはまだ早いようだ。
「ん? 俺の顔になんかついてるか? 」
「いや、なんでもない。まぁ、そうだな」
「だったら、クリスマスは二人でどっか遊びに行こうぜ。それならクリぼっちじゃないからな」
「………………:」
「ダメか? 」
「――いや、クリスマスなんて、どこ行ってもデート中の奴ばかりでどこも混んでるし、イラつくだけだ。遊ぶなら別の日でも良いだろ」
「いや、クリぼっちじゃないことに意味があるんだろ! いや、だったら、アレしようぜ。それならいいだろ?」
はぁ……。正直めんどくさい。
涼しいこの時期は、勉強がとてもはかどるので、そんな馬鹿らしいことに時間を使いたくない……のだが……。まぁ、アレなら良いか。ただし……!
「……はぁ、いいよ。でも、いいか? 行くからには““全力で””だぞ」
「お! いいねぇ。それでこそ陽太だ! 」
「健介、俺はひらめいてしまった。素晴らしい作戦をな」
「ん? なんだ、教えてくれ」
「――ヒソヒソヒソヒソヒソ……」
「はぁ!? マジで言ってんのか? いや、でも確かに楽しめそうだな。陽太らしいって言うか、なんていうかだが、いいぜ。25日に、駅前の時計大集合な。直前になって怖じ気づいて、やっぱやめるとかなしだからな!」
「あぁ、もちろんだ。男……いや、女に二言はないからな!」
第2章 私いや……僕、俺に惚れちゃったのかな!?
「お~い、けんすけくん待った? 」
長い黒髪を冷たいクリスマスの夜風になびかせる少女は俺に向かってそう言った。
その少女は、ウエディングドレスのような純白の衣装で身を包み、黒色の小さなバックを肩からかけ、小走りでこっちに駆け寄ってくる。
「――ッ! まじか……。あぁ、いや……。ぜんぜん待ってないヨ」
「そっか。よかったぁ。それじゃあ、けんすけくん行こっか」
「あ、あぁ」
俺の名前は伊藤健介。年齢=彼女いない歴の俺は、クリスマスの今日、クリぼっちを回避しようとある作戦を実行中なのだが……。まじか……。あいつ……。
「ん? どうかした? 」
「あっ! いや、なんでもないヨ……」
““じゃなくて!!!””
「――キャッ! いきなり壁ドンだなんて……」
おい! そんな声を出されるとこっちが悪いことをしているような気持ちになるのだが……!それにしても、なんでこんな声を出せるんだか。女の子そのものじゃないか。いつもの声とのギャップがヤバい。
おい! やめろ! そんな目でこっちを見るな。……そして、諦めたように目をつむり……って! 違う違う! お前、マジでやめろ!
「いや、ちち、ちがう……じゃなくて、お前やり過ぎだろ」
「え? なにが!? 」
「いや、その、なんていうか。ほら、話は聞いてたけど、ここまでとは思わなくて、なんかな」
「いやだって、やるからには本気でって言ったじゃん」
「それはそうなんだけど、ここまで本格的とは思わなくて……。ほら、こんなに本格的だと他の人にバレたらヤバいだろ。下手すれば人生終了しかねない……」
「そんなの覚悟の上だよ。っていうか本格的だろうがどうだろうが、バレたら人生終了には変わりないんだし……。」
まぁ、それもそっか。
「――あ、分かった。私が思ったよりもずっと可愛すぎて惚れちゃいそうになったんでしょ。そりゃ、私いや……僕に惚れたらいろいろとヤバいもんね」
「いや、 んな訳……」
「あ、図星かな? 」
くぅ! 手玉にずっととられてるようで悔しいが。あいつに非は全くない。
直前になって怖じ気づくなっていといて、俺の方が怖じ気づいてしまっただけで、こいつが悔しいが正しい。
ここまで来たら作戦続行だ。
「はぁ、降参だ。なんでもない。お前がやっぱ正しいわ。それじゃあ、作戦続行するか」
「うん。そうしよ! 」
「あ~、そうだ。お前のことなんて呼べば良い? お前呼びで良いか?」
「いや、お前って呼ばれるのなんか嫌だし、ひなって呼んで」
「ひな、ね」
ひなたからたを取ってひなってか? なんとも安直だが、悪くない。
「じゃあ、行くか、ひな! 」
「うん、頑張ろうね!」
第3章 伝説の人になりました
「おい! お前、これ!!」
「あぁ、知ってる」
「なら、もっと焦れよ!」
「なんでだよ。焦ったって何も始まらんでしょ」
「いやいや、でも、これは……」
「ま、まぁ。確かに僕もここまでになるとは思わなかった。でも、別に僕の正体がばれたわけじゃないし、まぁ、大丈夫だろ」
俺の名前は、中野陽太。別名、中野ひな。そう、今SNSで話題沸騰中の謎の1万年に1人の逸材としてバズり中の女子高校生である。
なんで、こうなったのだろうか。
「おい! これ見ろよ! ひなちゃんを紹介してくれた人に報奨金で1000万くれるってよ」
「は? おかしいだろ。意味分からん、意味分からん」
「あ、この人も、この人も……。あれ、これこういう投稿してる奴ら全員にお前のこと紹介したら俺億万長者になるんじゃね!? 」
「ハハハハハ、オモシロイネ、ソノジョウダン……」
ま、まさかだよな。冗談に決まってるよな。
このことが他の奴らにバレたらマジで笑えん。人生終了だ。
「あの日は、お前にいろいろとからかわれたしな……。億万長者に……」
「本当に申し訳ありませんでしたッ! 許してください! 」
「冗談に決まってんだろ。将来、金に困ったら、別だけど……」
「やっぱ、俺らは親友だよな……。あれ? お前、何つった? 」
「………………」
「い、いやぁ、それにしても、まさか、おまえがでんせつになるとはな」
「本当だよ。なんであれくらいで伝説になるんだか……」
クリスマスの日俺は、コイツと一緒に遊びに出かけた。女装をして。
そして、その流れで駅前の人の密集地路上ライブを開いた。
その結果……伝説になった。
““マジでなんでだよ!””
実はこいつと俺は、高校生の匿名バンドとして活動していて、路上ライブハンドかやったことがある。
クリスマスだったこともあるのか、その日はいつもと比べものにならないほどの多くの人が立ち止まって曲を聴いてくれた。
いや、分かってる。俺、いや私が原因だろな。
そして、歌ってるところがSNSで拡散され、まさかの1万年に1人の逸材という言葉がトレンド入り。
結果、伝説になった。
「はぁ、なんでひなちゃんがこんなににんきになるんだか……。おんなじ曲をおんなじ人間が歌ってるって言うのにな」
「本当、それだよな」
「あ! そうだ、もう、こうなったら今後ずっとひなちゃんでいけばいいんじゃね! 」
「は!? お前、何を言って」
「だって、世間はひなちゃんを必要としてる。俺たちは人気になりたい。ならそうするしかないだろ」
「そ、それは……」
「だって、こんな伝説になるなんてめったにないんだぜ。お前は伝説の人になれるんだぜ」
「………………」
「けんすけくん、つぎはいつどこで路上ライブしよっか? 」
俺、いや私の伝説伝はまだ続く。
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