05 不協和音
ある日。
私がお兄ちゃんのベッドで昼寝をしすぎて一階に降りていくとお兄ちゃんの声ともう一人の声が聞こえた。
お兄ちゃんの声は酷く無感情だった。
胸からする異音が鳴り止んだ後のように何も感じられない声音に私は酷い焦りを感じた。
慌てて駆け寄ってみれば、お兄ちゃんの顔は真っ白で、その目は誰を見ているわけでもなくどこか遠くを見ていた。
未だに誰かと話している。
最後に「お前がいなければ」という言葉と共に誰かはどこかへと出ていった。
「あぁ、そら。煩かったね。ごめんね」とお兄ちゃんは笑った。
いったい何に対してのごめんねなのか私には分からなかったが、ごめんねを口にしたお兄ちゃんは私を見てはいなかった。
「今日は・・・」
今日は、一人でいたいからとお兄ちゃんは二階の部屋に上がっていった。
去り際にもう一度ごめんなさいと誰にともなく謝るお兄ちゃんの背中は同年代の中でも一際小さい私よりも小さく見えて怖かった。
このままどこかに行ってしまいそうで不安だった。
その不安を弟二人に話をした。
りくは傍にいようと駆けだそうとしたのをなんとか押しとどめた。
かいは下を向いたまま何も言わない。
どうするべきか。
いつの日だったか。
はじめてお兄ちゃんの胸の異音に気が付いたときに掛けた大丈夫?の言葉がまた頭の中を駆け巡る。
自分の力の無さがいやになる。
してもらってばかりで、なにも返せていない。
「やっぱりそばにいるべきだよ」とかいがいう。
いつの間にか自分の足に視線を落としていた私が顔の顔を見る。
いつものかいとは違うしっかりとした顔つきでかいは私とりくを見て言った。
私は頷いた。
妹としても姉としても情けなかったが、そんな私の感情よりもお兄ちゃんが心配だ。
私たちはお兄ちゃんの部屋に行き、ベッドの隅で丸まっているお兄ちゃんのそばに寄り添う。
胸に嫌な痛みを感じながら。




