好感度100の獣狼娘
俺は魔法師団のいる塩田にアイナとシヴを連れて行った。
この二人と移動していると、子連れのパパみたいな感じになるな。
とはいえ、俺はまだ二十三歳。
二人の見た目は中学生くらいなので、見た目だけなら少し年の離れた兄妹という感じかもしれない。
「アイナ、干し肉食べる?」
「はい、食べます! もぎゅもぎゅ……美味しい!」
「よかった」
「シヴ、私の方がお姉さんなのだから、ご主人様にそうしているみたいに私にも敬語を使ってください」
「アイナ何歳?」
「一万年は生きています!」
「凄い! アイナお婆ちゃん!」
「お婆ちゃんはやめてください。永命種にとって年齢は考慮しないものなのです」
「わかった。年齢をコーリョしない。だったら、お姉さんじゃないね」
「え? あれ? そうなのでしょうか」
アイナがシヴに丸め込まれていた。
シヴが意外に頭がいいのか、アイナがやっぱりバカなのかはわからないが、仲がいいな。
塩田の数は現在四枚に増えていた。
火魔法が得意なグループと風魔法が得意なグループ、土魔法が得意なグループに分かれ、海水がいっぱいあるときは火魔法を使って海水温を上げて蒸発させて塩分濃度を上げ、ある程度煮詰まったら、風魔法を使って蒸発を促し、最後に残った塩を乾燥させる。
土魔法が得意なグループはゴーレムを作って操り、塩を採取している。
幸い、三属性全てに適性のない魔術師はうちの魔法師団にはいないため、誰かがどこかに所属している。
塩田の様子を見た商会からは「贅沢な魔法の使い方」と絶賛なのか皮肉なのかよくわからない評価を受けているそうだ。
「ジン様、お疲れ様です」
サエリアが出迎えてくれた。
「好調のようだな」
「はい。塩田、釣り堀、ともに好調です」
「塩田はわかるが釣り堀ってなんだ?」
「あちらです」
サエリアが見た方向には、王都に住む魔族たちが釣りをしていた。
貸し竿に餌の販売もしている。
「魔王様が流した海水の中に魚が混じっていたので、どうせならばと中にいる魚を網で引き上げ、一枚に纏めて釣り堀として王都に住む住民の娯楽として提供しています」
娯楽のために一枚利用したいって要望があって二つ返事で許可をした覚えがあるな。
てっきりプールか何かの代わりに使うかと思っていたのだが、釣り堀にするためだったのか。
次元収納は無生物だけでなく、魔力をほとんど持たない魚や虫などが入ってしまうことがあるから、海を収納するときに紛れ込んだのだろう。
最近の食卓によく海の魚が並ぶことがあるなって思っていたが、もしかしたらここの魚が使われていたのかもしれない。
「しかし、なんか申し訳ないな。魔法師団といったら国の中でもエリート集団なのに雑用を押し付けているみたいで」
「いえ、陛下の魔法を見て、魔法師団一同、目標となるものを見つけたと誠心誠意努力しています。どうせ魔法を使うのなら、このように国力増強の礎に使っていただいた方がよろしいかと」
「そうなのか?」
「我々王都魔法師団は初めて他の者が使う魔法を見たのだと思います」
「魔王軍ってしょっちゅう人間の国に戦争を仕掛けていたよな? 魔法師団は戦争には行かなかったのか?」
「行きましたが、基本、遠方から儀式魔法を一発放って、それで終わりですよ」
この世界の戦争は、数ではなく質が物を言う。
戦える人間と戦えない人間の差が、地球よりも激しい。
地球ならば、どんな強靭な肉体を持つ男であっても数十人の武器を持った兵に囲まれたら生きて帰るのは難しいが、こちらではそのくらいの数の差は簡単に覆る。
特に魔術師の数と質は重要だ。
だが、魔法の使い手が貴重で、どの国も魔術師の損耗を避ける。
なので、開戦直後に一発どでかいのを敵軍のど真ん中にぶち込んだあとは、後方待機。
魔法使いが死ぬときは国が終わるときとまで言われている。
「儀式魔法では、個人の魔力がどのくらいかわからないのです。たとえ戦争で相手の魔法の方が強力であっても、それは相手の魔術師の数が多いからであって、自分たちが劣っているという考えには至りません。我々は身内同士で魔力を高め合うしかなかったのです。しかし、先日のジン様の圧倒的な魔法を見て、考えを改めました。遥か高みを見た以上、それを目指すのは当然のことです――もっとも、高すぎて挫折しそうですが」
冗談なのか本気なのか、サエリアは淡々と語った。
先代の魔王は魔法を使うところを見せなかったのだろうか?
いや、これまでのこの国での話を聞いていると、魔王が人前で戦ったり魔法を使ったりはほとんどしなかったのだろう。
「ところで、イクサ殿はまだ訓練場ですか?」
「自分を高めているよ。あれから三日、ずっとだ」
ロペスを更迭して牢屋送りにした後、イクサに模擬戦を申し込んだ。
俺はてっきりそのまま試合になるのかと思ったが、イクサが試合までの猶予とその間の休暇を申請してきた。
俺との戦いに自分の全力を出すため、己を高めたいとのことらしい。
「凄いやる気だな」
「イクサは前魔王とは戦えませんでしたから、その分もあるのだと思います」
サエリアが言った。
シヴが続ける。
「ん。鬼族も獣人族も、自分を負かした相手に仕える。それが本望です。でも、魔王は家臣とは戦わなかった――です。」
「模擬戦もしてくれなかったのか? そのくらいしてくれたらいいのに」
魔王はそれほど強くなかったけど、コアクリスタルの力を使えばイクサ相手にも一方的に勝てただろうに。
「聞いた話によりますと、先代の魔王は勇者との戦いに備え、ずっと力を蓄えるため、無駄な力の消費を控えていたそうです。」
「魔王は勇者の存在を知っていたのか?」
確かに魔王は死ぬ間際、俺のことを勇者と言った。
その時から少し疑問だった。
勇者の存在は実は公にされていない。
レスハイム王国が勇者召喚を行った結果、その勇者に逃げられたということは恥だと思っていたようだ。
だから、俺のことも
「はい。五年前、草により勇者が召喚されたこと、その勇者が城を逃げ出したことは共に知らされていました。その時のジン様の行動力、そして逃走時に見せた身体能力、ともに脅威になると報告されました」
「優秀な間諜がいるんだな。人間国の情報も知りたいし、一度会ってみたいもんだ」
「もういません。前魔王により殺されました」
「は? なんで?」
むしろ勲章ものだろ。
勇者が召喚されたことが知らされたから、魔王はその対処ができたのに。
「勇者の暗殺に失敗したからです。彼女は勇者が召喚された後、その勇者に近付き、隙を見て勇者を毒殺することが義務付けられていました」
「ああ、俺が逃げたから失敗だったと。だけど、逃げなくても一緒だったぞ。俺には毒は効果がないからな」
「そのようですね。元敵地で毒見役を付けずに警戒をせず食事をするジン様を見て確信しました」
毒見役については俺が断った。
毒だけでなく、風邪などの病気にもかからないらしい。
地球人の俺はこの世界のウイルスに免疫がないだろうから非常に助かった。
ちなみに、アイナも毒は効かないらしい。
前の主人に仕えていたときは面白半分に毒キノコを食べさせられていたとか笑って語っていた。それどころか、ちゃんと調理した毒キノコは美味しかったらしく、また食べたいと俺に要望してきたくらいだ。
ただ、毎回アイナが毒キノコを美味しそうに食べるものだから、それを毒キノコだと聞かされていなかった料理を運ぶメイドがつまみ食いをしてしまい、生死の境をさまよったという話を聞いたので、その要望には応えてやらなかった。
「そうか、だからイクサは魔王と模擬戦すらできず、魔王の下についてからずっともやもやした気持ちのまま働いていたのか……」
と俺はシヴを見る。
「シヴも俺と戦いたいのか?」
「模擬戦ならしたいです! でも、本気で戦うのはイヤ! 模擬戦より一緒に狩りに行きたい!」
シヴが尻尾を振って言う。
本当になんでこんなに懐かれているのかわからない。
一目惚れって感じでもなさそうだし。
やっぱり俺が魔王を倒せる強さを持っているからだろうか?
「なら狩りに行くか?」
「ん、行く」
よし、じゃあ行くか。
幸い、今日の執務は特に無いから時間もあるだろう。
「アイナ、後は任せた。緊急事態があったらどうにかして俺に知らせてくれ」
「はい、ご主人様の願い。願いの魔神アイナが叶えます!」
「ただし、魔力は極力使わない方向で」
「はい……え? 魔力を使わないでどうやって――ご主人様っ!?」
俺とシヴは二人で王都の城下町に繰り出した。
ただ、国王が町に出ているとバレたら騒ぎになるので、軽い変装をしている。
髪の色を変える髪飾りの魔道具を使い俺の髪の色が白に、シヴの髪の色が黒に。
そして、認識誘導の腕輪をつけて俺の顔を意識させにくくする。
顔を見ても、どこにでもある顔だって意識させるわけだ。
これで俺がこの国の王とバレる確率は低い。
「ジン様――」
「待て、ここでは俺のことはジンではなく、ジーノって呼んでくれ。シヴのことは……そうだなシルヴィって呼ぶから。じゃないと変装している意味がない」
「ジーノ様……シルヴィ……ん、わかりました。ジーノ様、どこに狩りに行く?」
シヴ――シルヴィもわかってくれたようだ。
「それじゃ、冒険者ギルドに行くぞ」
「冒険者ギルドで狩りをするです?」
「いや、どうせなら人の役に立つ狩りをしようと思ってな。討伐依頼とかあればそれを受けようと思うんだ。シルヴィは冒険者ギルドに行ったことはあるか?」
「ない!」
「だったら行こう」
場所は既に地図で把握済み。
だいたい冒険者ギルドなんてどの国もやってることは同じだし、大丈夫だろう。
ありがとうございます。
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