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信賞必罰

後書きにお知らせがあります。

 俺が魔王に就任して一週間が過ぎた。

 最近は面会の人数もだいぶ減り、俺の仕事も減ったように思える。


「へ、陛下。お目覚めのお時間です」


 モーニングコールとして専属メイドのモニカがカーテンを開けながら俺にそう言った。

 モニカはこの城内でも数少ない人間族の女性で、同じ人間族の俺に相応しいメイドとして宛がわれたが、突然の抜擢に一番困惑しているのは彼女自身だろう。

 まだ俺に慣れていないらしく、ビクビク怯えている。

 ちなみに、夜の仕事はメイドの仕事には含まれていない。

 正妻も世継ぎもいない状態でメイドが身籠ってしまったら大変だからだそうだ。

 その代わりに縁談の絵姿が何通も届いている。

 蜥蜴人族や蛙人族の女性の絵姿が届いたときは何の冗談かと思ったよ。

 俺は頭を搔いて起き上がる。

 彼女が入って来る前――正しくは部屋の前に立ったときから気配に気付いて起きていたので、俺は誰かに起こされるのには向いていないなって思うよ。

 モニカが持ってきたお湯で顔を洗い、着替えを手伝ってもらう。

 一人で着替えた方が早い気がするが、王というのはこういうものかもしれない。

 トイレまでついてこられるのは勘弁してもらった。


 部屋を出て、食堂に向かう。

 朝食は自由参加と伝えていた。

 既にシヴとイクサが座って待っていた。

 ローリエとサエリアはいない。

 淫魔族は朝が苦手で、最初に会ったときは無理して現れたが彼女が活動をするのは昼から夜中までだ。

 淫魔族は食事の必要もないからな。

 ダークエルフ族は自然の中で食事を摂るのが基本で、普段は庭園で食事をしている。


「……おはようございます、ご主人様」


 アイナが遅れてやってきた。

 寝ぐせにあくびとだらしない恰好だが、昨日はぐっすり寝る事ができたということだろう。


「よぉ、アイナ。お疲れ様。仕事が終わったようだな」

「はい、終わりました。これ、資料です」

「ありがとう。じゃあ、朝飯にするか」


 全員で食事をする。

 シヴは朝から大きな肉のステーキ。昨日のボア肉だろうか?

 イクサは意外にもパンとスープとサラダというシンプルな食事だった。鬼族と言ったら人の肉を食べるって話もあったが、所詮は噂か。

 そして、アイナは蜂蜜たっぷりのハニートーストが半斤。彼女はかなりの甘党だった。

 俺はイクサと同じでパンとスープとサラダで済ませる。


「ジン様のご飯少ない! シヴのお肉半分食べます?」


 とシヴが肉の塊をフォークに突き刺して俺に差し出してくる。

 肉汁が垂れて、テーブルクロスに茶色い染みを作った。


「い、いや、朝はこれでいいよ。うん、昼に食べようかな?」

「わかった!」


 シヴが頷いて肉の塊を食べる。

 元気だ。

 俺はパンを食べて、アイナが一週間かけて作った資料を見る。

 うん、中々よくできている。


「イクサ、読んでみろ」


 食事を終えたイクサに資料を渡す。

 イクサはそれを見て、眉間にしわを寄せる。


「これは酷いですね」

「なに? シヴも見たい!」


 シヴがイクサの後ろに回って覗き込むと、彼女も眉間にしわを寄せたが、きっと彼女の場合、イクサと違って内容を理解できなかったからだろう。


「イクサ、頼みがあるんだが――」




 昼食後、集まったのは城で勤める者たちの約四割。

 そして、部屋の奥には金銀煌びやかな財宝の山が置かれている。

 アイナが封印されていたダンジョンの中で見つけたものだ。

 魔道具の類は一切ない。

 アイナが王様の願いによって生み出した財宝らしく、歴史的価値云々は考えなくてもいいため、換金するしか価値はない。

 部屋に入った皆は最初はその財宝を見て圧倒されている。


「さて、よく集まってくれた。時間がないから始めるぞ。名前を呼ばれた奴は俺の前に出てくれ。キュロス」

「はいっ!」


 キュロスが俺の前に出て跪く。

 何を言われるのかわかっていないので、彼は震えていた。


「いつも美味な食事を作ってくれて感謝している。魔王時代からの未払いの給金を纏めて支払う。これを――」

「え? は……ありがたき幸せです」


 俺は純金の短剣をキュロスに渡した。

 魔王軍時代の給金はかなり大雑把で、下働きや見習い兵士たちの給料は支払われていなかった。

 それがこの国の通例になっていたので、本来なら払う必要はないのだが、これから雇う人材には最初から給金を支払うつもりだ。

 その時、今働いている者が「自分たちが新人の頃はその日の食事と寝床を貰えるだけで満足していたのに、こいつらは最初から給金を貰えるんだ?」と恨みを持っては困る。

 それだけじゃなく、人間族が新王になったことで、城内では不安の声が密かに上がっていた。こうして金をばら撒くことで、俺の下で働くことも悪くないと思ってもらう算段だ。

 飴と鞭の飴だな。

 国庫を使おうと思ったが、そっちは別の使い道が決まってるから、仕方なく私財を使った。元々あぶく銭だし、このくらいはいいだろう。


「次は馬丁カジラ」


 名前を呼ぶと、ホブゴブリンの男が前に出た。


「はっ、しかし陛下。私はしっかり給金を頂いております」

「わかっている。だが、お前は病気になって働けない軍馬を私財を投じて世話をしていただろう? 本来、それは国費で行うべき事業だ」


 騎士たちにとって軍馬とは相棒も同じ。

 病気になったからといって、安易に殺処分していいものではない。

 だが、前魔王はそれを断行しようとした。

 働けない馬は要らない。さらには、働けないなら馬肉にして売ってしまえと言っていた。病気の馬を食肉にするとか何考えているんだと言いたい。

 なんとか、それは免れたが、それでも病気の馬のための予算が出ず、カジラが一人で世話をしていたらしい。


「いままでご苦労だったな」

「はっ、ありがたき幸せ」


 カジラがそう言って金の塊を受け取る。

 さて、次は――


「ロペス」

「はっ!」


 宰相のロペスが前に出る。


「ジン様、私もカジラと同じです。給金は十分に頂いておりました」

「ああ、だが、ロペスには個別に言いたいことがあった。ロペスは前魔王時代から、十三年間宰相を務めてくれていたな」

「勿体なきお言葉」


 ロペスが深く頭を下げる。

 その顔の端が醜く歪む。

 貰える褒章の金勘定をしているのだろう。

 その表情を見て俺も思わず笑い、続ける。


「その十三年間で、公費の使い込み、魔王城の調度品の無断売却。役人との癒着、貴族からも賄賂を貰って自分たちに有利な法律を作らせていたみたいだな」

「なっ」

「あとは魔王軍に配属予定の戦闘奴隷を一部自室に連れ込んでストレス解消のサンドバッグ代わりにしていたみたいだな――人間族を贔屓するつもりはないが、さすがにこれはどうかと思うぞ? 軍に配属された戦闘奴隷は国の資産だったから、お前のやってることは業務上横領だ」

「ジン様! それは何かの誤解です! いったいどこにそのような証拠がっ!?」

「証拠ならここにあるぞ」


 俺はそう言ってさっきアイナから貰った書類をロペスの前に置いた。

 ロペスはそれを見て顔が青ざめる。


「な、何故これが――」

「暖炉で燃やしたはずの書類がなんであるのかって言いたいのか?。燃やしたから満足してそのままにしたのがいけなかったな。アイナに願って書類を復元してもらったんだ」


 どんな願いでも叶えることができる魔神アイナ。

 その力を甘く見たか、それとも俺が気付かないと思ったのか?


「まぁ、前魔王の時のことだし、咎めるつもりはなかったが、俺が英雄王に就任してからも命令に背いて奴隷の解放をしなかったし、なんならさらに奴隷を増やしていたよな? クメルから受け取っていたんだろ?」


 最初の面会の日に、ガレーシャの都市長のクメルが訪れた。他は王都にいる貴族だったのに、クメルだけ初日の面会を許されたのかというと、ロペスが賄賂として奴隷を受け取っていたからだ。

 人間族の解放とか言っていながら、賄賂として同じ人間を奴隷として引き渡すとは。

 クメルと組まなかったのは正解だ。


「ロペス、お前の宰相の任を解く。クビだ」

「ジン様、お待ちください」

「『陛下』と呼べ。お前はもう家臣ではない。立場を弁えろ」

「何かの誤解です!」

「誤解? 彼女たちに聞いてみるか?」


 俺は部屋の入り口を見た。

 すると音を立てて扉が開かれ、イクサが入ってきた。

 その横には三人の人間族の女性が立っていた。


「お待たせしました、陛下。仰ったとおり、ロペス宰相の邸宅の地下に捕らえられていました。それと、アイナ殿が不正の証拠も山のように見つけておりました」

「ん? 書類を見た感じだと奴隷は十人以上いたはずだが――」

「申し訳ありません。間に合いませんでした」


 そうか、死んでいたか。


「貴様っ! ワタシの家に入ったのかっ⁉ 無断でっ!?」

「俺が許可を出した。本来なら殺された人たちの恨みをここで晴らしてやりたいところだが、お前は国の法によって裁かれる。誰か、ロペスを牢に連れていけ。絶対に逃がすなよ」

「はっ!」


 近衛兵がロペスの腕を掴み、牢へと連れて行く。


「離せ! 離せ! 誰がこの国を支えてきたと思っているんだっ!?」


 と抵抗していたが、イクサの力に敵うはずもなく連れていかれる。

 本来なら直ぐに死刑といきたいが、長い間宰相をしてきたから、あいつしか知らない情報もある。それを全て聞き出す前に死なれては困るからな。


「モニカ。彼女たちに温かい食事と着替えの服を用意してくれ」

「か、かしこまりました」


 モニカが困惑しながらも女性たちを別室に連れていく。

 そして、残った人にも褒章を渡した。

 信賞必罰は人心掌握の基本だが、こういうやり方はやっぱり疲れるな。

 でも、これで終わり……いや、まだ一つ残っていたか。


「イクサ、よく頑張ってくれた。お前にも褒美をやらないといけないな」

「いえ、全てはジン様の手柄です。私はただ言われたままに動いただけで」

「いいじゃないか。褒美として、コアクリスタル抜きで俺と戦う権利をやる。一対一、己の力と力で模擬戦をしようじゃないか」


 俺はそう言って、次元収納から一本の剣を取り出し、イクサに渡した。

【お知らせ】

いつも『世界の半分が欲しいって誰が言った!? 最強勇者の王国経営~せっかちな魔神の力で膨大な国土を手に入れたので国民を守るため残り半分の世界と戦います~』をお読みくださりありがとうございます。


突然ですが、私の作品がアニメになることになりました!

ただ、この作品ではなく、アルファポリスで連載している

『勘違いの工房主~英雄パーティの元雑用係が、実は戦闘以外がSSSランクだったというよくある話~』

という作品で、来年の四月から放映予定になります

詳しくは活動報告及びX(旧twitter)で報告させていただきます

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