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マールとの出会い(前編)

 マールについて改めて話そうと思う。

 最初に彼女と出会った場所は、アルモラン王国の冒険者ギルドだった。

 その時は俺は既に冒険者として既に名が通るようになっていて、指名依頼もいくつか受けるようになっていた。

 ある日、アルモラン王国の冒険者ギルドに、砂漠の岩山の洞窟を根城にしている盗賊団の一斉摘発の依頼が舞い込んできた。

 生死は問わず。

 ただし、一人も逃がさないことを条件とした依頼。

 盗賊団を壊滅させるだけなら、俺一人、もしくはダルクと二人で対処できる案件だったが、しかし一人も逃がさないというのは厄介な話だった。

 というのも、砂漠の洞窟は複雑に入り組んでいて、出口も一つや二つではない。

 全ての出口を塞ぐには戦える人間を集める必要がある。


 厄介な依頼だ。


 相手は名うての盗賊。その中には高ランク冒険者に匹敵する者もいる。

 冒険者の数を集めて出口を塞いだとしても、弱い冒険者がいる場所に強い盗賊が逃げられたら、その冒険者を倒して盗賊に逃げられる。

 俺は洞窟の中で暴れる役、ダルクは出口の一つを担当するとして、残りの洞窟の出口全てに盗賊を退治できるレベルの戦力を配置する必要がある。

 そのため、力のある冒険者が必要だった。


 その中にいたのがマールだった。

 彼女は王女としての肩書きを隠し、魔術師としてソロの冒険者として活躍していた。

 そして決戦の当日。


 俺は予定通り一人で盗賊のアジトに突入。

 たった一人の冒険者の出現に、盗賊たちは油断していたが、三人くらい斬り殺したところで俺の実力を悟った。

 そして、盗賊たちは逃げに徹することにした。

 財宝も溜め込んでいたし、中には女も捕まっていた。

 バカな盗賊団だったら、財宝やお気に入りの女をなんとか連れ出そうとして脱出が遅れる、そうなったら逃げる前に倒せる、そう思っていたのに、盗賊たちはそのすべてを捨てて逃げたのだ。

 敵ながら見事だと思った。

 かつてレスハイム王国から逃げるしかなかった俺と重なるところも感じた。

 とはいえ、情けをかけることはしなかった。

 盗賊はどうせ捕まえても鉱山送りで死ぬより辛い労働の後、病気で死ぬだけだ。それどころか、盗賊が豪商や国の貴族と繋がっている場合、その伝手で釈放され、再び別の場所で盗賊として罪を犯す可能性もある。

 逃げる盗賊を斬り殺していった。

 その数は二桁に達していた。

 その時、俺は妙な違和感を覚えていた。


 最初に倒した奴らはただの盗賊だったが、後から倒した、つまり逃げに徹していた盗賊たちの戦い方が、妙に盗賊らしくない。

 正規の訓練を受けた兵、いや、どこかの国の騎士のようだと思った。


 嫌な予感がした――その時だった。

 洞窟の中に爆弾が設置されていることに気付いた。

 そして俺はその爆弾に巻き込まれた。


 中に突入したのが俺でなかったら確実に死んでいた。

 俺だったからかすり傷でよかった。

 落盤にも巻き込まれたが、そのくらいの岩なら当たっても死なないし、次元収納に入れることもできる。

 問題なく洞窟から脱出した。

 盗賊たちもあらかた捕まっていたが、妙なことが起きた。

 盗賊の首魁及び幹部たちの姿がどこにもなかったのだ。

 どうやら、盗賊たちが掘り進めた別の出口があったらしい。


 俺は気配を頼りに、盗賊の首魁を追った。

 そして、同じく盗賊を追っていたのが馬に乗ったマールだった。

 無謀な女だと思った。

 魔術師風のローブを着た金色の髪の若い女。

 魔術は確かに強力だが、連発できない。

 大勢を相手にするのは不利だ。


 マールとは作戦会議の時にも出会っていたが、本当の意味での出会いはこちらだろう。


「随分と鼻が利くんだな」


 俺は馬と並走しながら言った。


「あなたは冒険者ジンですね。敵はきっとこの先です。力を貸して下さい」

「言われなくても。あんた確かマールだったな。危ないから後ろで見てろよ」

「そうはいきません。敵はタダの盗賊ではないようですから。可能なら首魁だけは生きたまま捕らえたいですね」

「何か理由ありのようだな」


 厄介事に巻き込まれるのは御免だが、しかし、爆発のせいでお気に入りの服が破れてしまった。

 その復讐には生け捕りの方が都合が良さそうだ。

 そう思った俺は、彼女の案に乗り、盗賊の首魁たちを追いかけた。

 

 逃げている盗賊を見つけたとき、奴らは三方向に散開した。


「首魁は左だ」

「わかるのですか?」

「声は聞こえなかったが、一瞬だけ、盗賊たちが左の先頭を走る男の顔を見た。あいつの指示を聞いて分かれたんだろう。ということで、真ん中と右の敵には退場してもらうぞ」


 このまま逃げられたら依頼を反故することになる。


「マールは首魁を追いかけろ! 俺は先に逃げた真ん中と右の盗賊を潰してくる」

「ま、待ってください! 追いかけるって――」


 とマールの言葉を聞かずに、俺は敵を追いかけるため、足を速めた。

明日、4月21日、この本の第一巻が発売します。

電子書籍でも発売されます。

書き下ろしもありますので、よろしければご覧になってください。

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