魔力を回復する術
後書きにお知らせがあります
模擬戦の途中にシヴが乱入して、ダルクを沈めると引きずってどこかに走り去った。
どうもダルクとシヴは以前からの知り合いだったらしい。
ダルクはアルモラン王国に行くまではこの国にいたそうだし、出会っている可能性はあるか。
世界の半分の国土を持っていても、世間は狭いなぁ。
「ダルク、もう怪我はいいのか?」
「最後に殴られたところ以外は平気だよ。いちち、バカ犬。少しは手加減しろよ」
「シヴをバカ犬って呼ぶな、です。シヴは誇り高き狼です。ダルクが余計なことを言うから悪いです」
なんでこんなに喧嘩してるんだ?
ただ、仲が悪いって感じじゃないんだよな。
どういう関係か尋ねても、昔の知り合いとしか教えてくれない。
人には言えない秘密の一つや二つあるものだろうけれど、俺の親友と忠臣の関係だ。
気になる。
「まぁ、このバカ犬のことはもういいとして、そっちの鬼の兄ちゃん。どうする? もう一度戦うか?」
ダルクがイクサに尋ねた。
彼の返事次第では、先程の試合が再び始まることになる。
しかし、イクサは首を横に振った。
「いえ、結構です。あなたの実力は十分理解致しました」
「そうか。なら、まぁ、仲良く――」
「とはいえ、あなたが陛下に対してあまりにもなれなれしく接するのとは別問題です。陛下とあなたは御友人のようですから、プライベートでは構いません。しかし、現在のあなたはアルモラン王国からの国賓としていらっしゃっているのですから、それ相応の態度でいていただかないと困ります」
イクサが丁寧な口調で言う。
彼の言っていることはもっともだ。
俺も公私の使い分けができていなかった。
そこは反省する。
だが、俺の護衛であるイクサが、その国賓を説教するのはいいのか?
あと、シヴとダルクについては?
尋ねると藪蛇になりそうだし、黙っていよう。
「イクサ様にシヴ様。ジン陛下には優秀な家臣がいらっしゃるのですね」
「ええ、自慢の二人ですよ」
謙遜する必要もないので俺は言った。
アルモラン王国の兵の質は知っている。
正直、ダルクに匹敵する実力を持つ兵士は育っていないからだ。
過去には何人かダルクレベルの将軍がいたのだが、その全員が謀反を起こして断罪された。その事件には俺とダルクもガッツリと関わってしまったので、いまのアルモラン王国の兵士の質はイヤというほどにわかっている。
そもそも、アルモラン王国がニブルヘイム英雄国との同盟に乗り気になってくれたのも、俺とマールがかつてからの知り合いだったからではなく、英雄不在というその防衛力に不安があったからだろう。
今現在、レスハイム王国がアルモラン王国に進軍したら、その動きを止める力がアルモラン王国には存在しない。
「それにしても、私の国の遺跡にアイナさんのような魔神がいらっしゃったとは」
「アルモラン王国の遺跡にいたんだから、アルモラン王国の所有物とか言うなよ?」
「言いませんよ。ダンジョンで見つかったものは見つけた冒険者の物であることは百も承知です。ただ、これからの防衛を考えると、アイナさんの魔力の復活は必要不可欠ですね」
「だったら、ドルイドに相談したらどうだ? ……ですか?」
イクサに睨まれて言葉遣いを訂正しながらダルクが提案する。
「ドルイド?」
「ドルイドはこの国に暮らす祭司です」
イクサが言った。
「遥か西の森の中、自然の中で暮らし、様々な奇跡の力を起こす者たちだと言われています」
「ドルイドには失われた魔力を回復させる術を扱う者もいると聞く。アイナの嬢ちゃんの魔力を回復させられるんじゃないか? ですか?」
ダルクが言葉を選んで説明を継いだ。
そんなものがいたんだ。
自然の中で暮らしていると言ったらダークエルフを思い出すが。
「誰か、この国の地図を持ってきてくれ」
「はっ……よろしいのですか?」
近衛の一人が返事をしてから確認をする。
「マールとダルクなら大丈夫だ」
この世界だと国で管理しているような地図は機密扱いになっている。
他国の要人においそれと見せていいようなものではないが、二人なら心配はない。
暫く待っていると先ほどの近衛が地図を持って戻ってきた。
それを広げる。
王都があるのは国の東部にある。
そして――
「ドルイドのいる森ってどの辺だ?」
「この辺りかと言われています」
イクサが指をさす。
大きな森で、道もなければランドマークのようなものもない。
「未開領域か」
ニブルヘイム英雄国の国土はとても広い。
そして、その国土の大半は開発が行き届いていない未開の地だ。
そんな未開の地でも国土として認められるのは、初代魔王が作らせたと言われる国を横断する街道と、そして、海岸沿いをぐるっと半周するように作られた二本の街道とその周辺に作られた村や町のお陰だろうが。
「しかし、ドルイドを探すっていってもこれは無理だろ」
森の広さを改めてみる。
ダークエルフの住む森も広かったが、せいぜい関東地方が一つ丸ごと入る大きさだ。
しかし、このドルイドの住むという森はその比ではない。
そして、そのような大きな森なのに、周辺にまともな町や村がないってことは、その森での狩りや森林伐採による材木の確保が難しいということ。
つまり、その森には狂暴な魔物が生息しているということになる。
となると、まともな情報も見つからないだろう。
ドルイドの情報について、「言われている」とか曖昧な言い方をするのは、そのドルイドに関する情報が少ないからだろう。
仮にかつてはそういう者たちがいたとしても、いまはもう全員死んでいるかもしれない。
僻地の集落とかだと普通にあることだ。
「なぁ、ジン。ここからは国賓としてではなく、友として話したいんだが――」
「別にいいぞ。どうした? 敬語が面倒になったか?」
「そうじゃなくてよ。この森の近くに、あるんだよ」
「あるってなにが?」
「俺たち蜥蜴人族の隠れた集落が――そいつらならドルイドのことも知ってるかもしれない」
ダルクはバツの悪い表情を浮かべてそう言った。
この作品の書籍化が決まりました!
発売日は4月21日。
成長チートやアイテムコレクターと同じ、モーニングスターブックスからの出版になります。