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ガス抜きのはずの模擬試合

「あれ? ご主人様に食堂に呼ばれたからおやつだと思ったのですが――」


 流石に場の空気がおかしいと思ったのか、アイナが俺たちを見て言う。


「違う。いまからアルモラン王国との同盟について話を詰めていくから、宰相のお前が参加しろってことだよ」

「そういうことですか」


 アイナがガッカリと肩を落とす。

 まったく。

 マール姫相手だったからよかったようなものの、他の国の要人相手だったらちょっとした問題になるぞ。


「ジン様、私だったからよかったようなものの――とか思ってますよね」

「思ってるぞ。別に気にしないだろ?」

「俺も気にしないぞ。おい、そこの兄ちゃん、エールもう一杯持ってきてくれ」


 俺の言葉を継ぐようにダルクがそう言ってエールのおかわりを要求すると、マールは大きくため息をついた。


「国賓として呼ばれた以上、王女として……とか思っていた私がバカみたいですね。ところで、どこかで会ったことがあるかしら?」

「おう、それな。俺もどっかで声を聴いたような気がしたんだが――」

「いえ、初対面です! 私はご主人様の忠実な願いの魔神、アイナです」

「「願いの魔神っ!?」」


 さすがにダルクもそれには驚いたようだ。

 アイナが偉そうに胸を張る。


「いまは魔力切れで何の願いも叶えられないただの宰相だよ」


 つい最近、世界樹の若木を成木に成長させるために、数千年の間貯めに貯めた魔力の全てを消費した。

 その結果、彼女はいま魔力が全く無い無力になってしまった。

 しかし、普段はバカな言動ばかりしているが、数千年前の国で王の補佐をしていた経験を活かし、宰相としてはそれなりに働いてくれている。

 

「しかし、あの遺跡ダンジョンに本当に魔神がいたとはな――」

「財宝も山ほどあったぞ。全部使っちゃったがな」

「くそっ、俺が行けばよかった……」


 ダルクが露骨に残念がった。


「その時はそちらの蜥蜴人族の方が私のご主人様になっていたわけですか――」


 とアイナはダルクの食べている白蟻を見て顔を青ざめさせて、「ご主人様がご主人様でよかったです」と心から安堵している様子だった。

 アイナにとって主人との契約とは食事の提供だからあんな顔をするのも仕方がない。

 その後、アイナはマールと同盟について話したあと、先史文明時代について話をした。

 マールはとても興奮していた。

 アイナの持っている知識が事実なら、歴史書に刻まれていない時代の様々な謎が一気に解明されるからだ。

 日本人の感覚で言うのなら、そうだな。

 邪馬台国が近畿地方にあったのか九州地方にあったのか議論が割れている中で、実際に邪馬台国に住んでいた人間が直接教えてくれる――と言ったところか。

 マールは冒険者に憧れている根本は、そういう歴史や遺跡が好きだからだった。

 もっとも――


「その時アイナがびしっと言ったのです! その時、風が吹いたと!」



 アイナの奴、やけに自慢げに話しているから誇張表現が盛り込まれていそうだな。

 このようにして、歴史は嘘と偽りで塗り固められていくのかもしれない。


「ぷはぁ、食ったし飲んだ! いやぁ、ここまで来る間、碌な飯が食えなかったからな。久々にいい飯だったぜ。ジン、どっか身体を動かせるところはねぇか?」

「それだったら鍛錬場――」


 と後ろにいるイクサを肩越しに見て――


「いや、うちのイクサと模擬戦でもしないか? ちょっとくらいなら本気でやり合ってもいいぞ」

「ん? あぁ、それはいいな。どうだ? 兄ちゃん」

「私は構いませんが、陛下、よろしいのですか? 国賓に怪我を(・・・・・・)負わせてしまっても(・・・・・・・・・)


 イクサが煽ってる。

 よっぽど腹に据えかねたのだろうな。

 ダルクは気付いていないが、碌な飯が食えなかったってつまり、国内の主要な宿場町の飯がマズいって言っているようなものだ。


「俺は構わないぜ。多少の怪我も姫さんが治してくれるからよ」

「へぇ、つまりガランドマラフンの争乱の原因はポエム論争だったと……え? 私ですかっ!?」


 アイナと話していたマールは突然話を振られて声を上げる。

 マールはああ見えて回復魔法の使い手としては上位の部類に入る。


「ああ、いいだろう?」

「あの、回復魔法でしたら私ではなく、この国の医官に任せたほうが」

「近衛兵長と国賓が殴り合って大怪我するなんて国内外に知られるわけにはいかないから極秘にするに決まってるだろ? 医官を使ったら記録に残るじゃないか」

「他国の王女に知られるのは別にいいわけですか――回復魔法は疲れるのですが……わかりました。やらせていただきます」


 マールが観念したように回復役を受け入れてくれた。


 五人で鍛錬場に移動する。

 イクサは剣、ダルクは槍とそれぞれ使い慣れた武器を使用。もちろん殺し合いではないので刃は落としている。下手な者同士で戦えばそれでも命を落とすことがあるが、あの二人ならその辺は間違えたりはしない。

 俺たちは鍛錬場の横で、それぞれ菓子と茶を用意し、試合を見守る。


「よぉ、兄ちゃん。試合形式は冒険者流と騎士様流、どっちでやりたい?」

「冒険者流でかまいませんよ」


 ダルクとイクサが試合前の取り決めを行う。


「ご主人様、冒険者流とか騎士流ってなんですか?」


 アイナが爪楊枝でおはぎを半分に切り分けながら尋ねる。


「簡単に言えば、冒険者流は目潰しや噛みつき、金的攻撃なんでもありの実戦形式。相手が気絶するか降参したら負け。騎士流は武器と武器の試合形式だから、こっちは武器を落としたり、膝が地面についても負けになる」

「へぇ、じゃあイクサは冒険者流は不利ですね」


 そう言ってアイナはおはぎを食べた。


「そうなのですか?」

「ああ。イクサは剣士としては一流だ。ただ、実戦経験は少ない。純粋に剣と槍の腕前だけなら互角だったが、これでダルクの方が有利になったか――」


 俺が色々と試合の行く末を考えている中、勝負が始まった。

 結果、俺の予想に反して互角の勝負が続いていた。

 俺の前に置いてあったおはぎが無くなっていることに気付かない程に俺は試合に夢中になっていた。

 とりあえずアイナは明日のおやつは抜きだ。

 決してダルクが手を抜いているわけじゃないが、絶対に負けられない覇気をイクサは纏っている。

 イクサのガス抜きのつもりで誘ったのが申し訳ないほどに。


「お互い、満身創痍ですね」

「ああ、次の一撃で勝負が決まるな」


 マールと俺が戦いを見守っていたその時だった。


「ジン様、夕食用のワイルドボア獲ってきた!」


 とシヴが鍛錬場に入ってきた。


「おぉ、よくやったな。ガジラに持っていけ」


 シヴを褒めてやったその時だった。

 ダルクがこちらを見て一言呟く。


「あれ? あいつはあの時のチビ――」


 刹那、シヴが跳躍し、ダルクの鳩尾に飛び蹴りをかましていた。

 満身創痍だったダルクはその一撃でノックアウト。

 シヴの奴、一体何をやってるんだ?

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