親友のダルク
俺はアルモラン王国の王女のマール・アルモランと蜥蜴人族のダルクにこれまでの事情を説明した。
「つまり、お前は異世界の勇者だったわけか」
「おう、敬え!」
「なんで黙ってたんだよ」
「言う必要あったか?」
ダルクに尋ねると、ダルクは改めて考え、頷いた。
「いや、ないな」
「だろ?」
アルモランは多種族国家で、しかも王都以外の町では訳ありの人も多い。
流浪の民や他国で罪を犯した者も多い。
そして、そのことについていちいち詮索しないのがルールだ。
異世界の勇者だとかそういう事情も言いたくなければ言う必要はない。
ダルクは俺が勇者であることは知らなくても、俺がかなり強いことは知っている。
一緒に戦うならそれで充分だ。
「マール殿下は賓客だからな。歓迎するよ」
「ありがとうございます、ジン様」
「俺も賓客だぞ!」
頭を下げるマールの横でダルクが悪態をついた。
「わかってるって。お前には白蟻の炒め物とエールを樽で用意してる」
「いや、白蟻の炒め物は好きだが、高級肉と葡萄酒を用意しろよ」
「悪いが、うちの国は財政難なんだよ。まぁ、積もる話もあるから食堂に行こう。そろそろ戻らないと俺の護衛が煩いんだよ」
俺が謁見の間の入り口を見る。
ダルクも気付いていたのだろう。さっきから俺の方を見ないで部屋の入り口を見ている。
「強いな」
「自慢の護衛だよ。入ってきていいぞ」
俺がそう言うと、近衛兵長の鬼族――イクサが入ってきた。
いつもは冷静なイクサが今日は怒っている。
ダークエルフの族長たちの裏切りを聞いたときもここまでの怒りを表に出したことはなかった。
「なぁ、ジン。この兄ちゃん、俺を殺しそうな目で見ているんだけど気のせいか?」
「気のせいじゃねぇよ。イクサは俺の忠臣だからお前が俺のことを殴ったことに腹が立ったのだろう」
俺はダルクにそう言って、このままイクサがダルクを殺してもいけないので宥めるように告げる。
「イクサ。ダルクとは友だちで、何年もこういう関係でやってきたんだ。それに、ガーラク砦のピンチに駆け付けてくれた蜥蜴人族の英雄だからな。怒るのはやめてくれ」
「……はっ。陛下がそうおっしゃるのであれば」
不承不承という感じでイクサが言った。
「お前にダチって言われると少し照れるな」
「一緒に盗賊団をぶっ潰した後、返り血を洗い流しながら親友の契りを交わしただろ? 蜥蜴人族の儀式だって、一本の酒を交互に飲み合ったじゃないか」
同じ釜の飯を食う仲――みたいなもんだって勝手に納得した。
「あれはその場で適当に考えた嘘八百だ。お前の強さがわかったから、囲い込もうとしてな」
「マジかよっ!? 俺、ずっと騙されていたのか?」
少しショックだ。
まぁ、あの儀式がなかったとしてもダルクとは仲良くしたいと思ったが。
さて、飯を――
「つまり、この男は陛下の友でもなんでもないということですね」
「だから、殺気を抑えろ」
本当はイクサともそういう関係になりたいのだが、上下関係は一生抜けないだろうな。
俺たち三人をマール姫は温かい目で見守っていた。
「アルモラン王国の宮廷料理に比べると質素かもしれないが、味は確かだぞ」
「期待しています」
「おう、味さえよければ俺はなんでもいいぞ」
料理が運ばれてくる。
白蟻の炒め物が運ばれてきたとき、後ろのイクサが引いていた。
「そういえば、マールも最初にこれを見たときは悲鳴を上げてたな」
「懐かしいですね。あの時は庶民の食べ物を全く知らなかったので」
「本当に失礼な話だよな。俺の大好物だっていうのに」
いや、俺も異世界に来て辛酸を舐めさせられるような人生を過ごしていなかったら悲鳴上げていたかもしれない。
キュロスも「本当に賓客にこんなもの出していいんですか? 怒られませんか?」って言ってたけど、ダルクは満足そうに食べている。
さて、この後はアルモラン王国との同盟関係について詰めていくと――
「ご主人様、お腹空きました。おはぎください」
思ったところで、願いの魔神アイナがノックもせずに食堂の中に入ってきた。