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蜥蜴人族の英雄

二章開始です

 ニブルヘイム英雄国に向かう馬車の中で、彼はアルモラン王国の姫と一緒にいた

 彼の名前はダルク。

 アルモラン王国の冒険者ギルドに所属する蜥蜴人族の戦士だ。

 蜥蜴人族の英雄だなんて呼ばれてはいるが、所詮はただの戦士。戦うことしか能がないというのが彼の談。

 そんな彼が、何故かアルモラン王国の姫と一緒にニブルヘイム英雄国に行くことになった。

 護衛としてなら仕事として割り切るが、国賓として招待されているのだから面倒なことこの上ない。

 先の戦争において、ニブルヘイム英雄国の危ないところを助けた褒章を授けたいそうだ。


(本来、こういう面倒な仕事はジンの仕事なんだが、あのバカ、新しく発見されたダンジョンに行ったきり戻ってこないんだよな)


 恐らく死んだとダルクは予想していた。

 一緒に仕事をした冒険者が次会ったときには死体になっていたなんていうのは冒険者界隈ではよくある話だが、しかしジンとは長い付き合いだし、死線を共に潜り抜けたことも何度もある。

 自分が紹介したダンジョンに行ったせいで死んだのだとしたら責任も感じている。


「ん?」


 ダルクは窓から外を見た。

 馬車の揺れが急に穏やかになった。

 街道が整備されたのだろう。

 どうやら王都に近いらしい。


「まさか、この国を捨てて冒険者になった俺が、国賓としてまた王都に訪れるとはな。巡り合わせってのは妙なもんだ」

「ダルクさん。王都に来たことあがるのですか?」


 姫がダルクの独り言に反応して尋ねる。


「ああ。里で採れた魔物の毛皮を売りに一度だけな。と言っても、毛皮を売った金で芋を買って直ぐに村に戻ったから道案内とかできねぇぞ」

「かまいませんわ。観光は英雄王と謁見した後で彼にしていただきたいですわ」

「英雄王……か」


 異世界から召喚された勇者ジン・ニブルヘイム。

 彼が魔王を退治し、魔王が所有する国土を手中に治めたという世界半統一宣言が行われたのは記憶に新しい。

 何しろ、世界中の人がその宣言を耳にしたのだから

 ダルクのいたアルモラン王国の町にも声だけだが、その宣言が届けられた。

 若い女の声だった。


「姫さんのところには映像付きの宣言が送られたんだろ?」

「はい。ニブルヘイム英雄国の国内とそれ以外の国の王族、有力貴族のところには映像付きの宣言がなされました」

「その英雄王ってどんな男だった?」

「とても素敵な殿方でしたよ」


 姫が扇で口元を隠して言った。

 彼女がそういう風に異性を褒めるのは珍しい。

 てっきり、姫はジンに惚れているとダルクは思っていたが、死んだ人間には興味がないのか?

 ダルクは内心舌打ちをした。

 王都の門に来た。

 馬車が一度止まる。

 そして中に入った。


「どうですか? 久しぶりの王都は」

「別に。頭が挿げ替えられたところで、民衆ってのはそれほど変わったりしねぇよ」


 ダルクはそう語った。

 王族に対して言うことじゃないと思うが、このくらいの軽口で不敬罪にならないくらいには友好関係を結んでいる。

 以前と変わらないが、首輪をしていない人間が歩いていることは気になった。

 奴隷の解放か。

 英雄王は人間の勇者だというが、国が保有していた人間奴隷の解放以外は人間を優遇していないという。

 きっと、人間でありながら、英雄王は亜人と人間の差別をしないのだろう。

 そういうところは、ジンに似ているとダルクは思った。

 だが、同名であってもジンが英雄王である可能性はない。

 何故なら、アルモラン王国から魔王のいたこの王都まで、馬車を乗り継いで二週間。

 だが、ジン・ニブルヘイムが魔王を倒して世界半統一宣言を行ったのはジンが行方不明になったその日のことだ。

 時間的にあり得ない。

 馬車が王城の前に着いた。


「ようこそおいでくださいました、マール殿下。英雄ダルク殿。陛下より皆様の案内を命じられたルクノアと申します」


 鬼族の男がダルクたちを出迎えた。


(中々の腕前だな。戦うとしたらどう出る?)


 どうやって倒そうかダルクは考えた。

 本当に戦うわけではなく、癖のようなものである。

 いざとなったら姫を守って戦うことになるから、それに備えてのことだった。


(勝てそうだが、戦っている間に援軍が駆け付けるな)


 そして、いざとなったら自分に待っているのは死だとも思った。


「ん? おぉ、ダルクじゃないか」

「ジンっ!?」


 そこにいたのは行方不明のはずのジンだった。

 一瞬幻かと思ったが、そうではない。

 本物のジンだった。


「お前、なんでここにいるんだよっ!?」

「いろいろあってな。ここで働いてるんだよ。知らなかったのか?」

「知ってるわけないだろ。生きてたなら連絡くらいしろよ」


 ダルクはそう言ってジンの肩に自分の腕を回した。

 嬉しい話だった。

 これから謁見じゃなかったら、このまま酒場に繰り出して潰れるまで飲みたい。


「マール姫も久しぶりだな」

「ご無沙汰しています。話には聞いていましたが、ご健勝のようでなによりです」

「なんだ、姫の嬢ちゃん。ジンがここで働いてるの知ってたのかよ」


 まんまとしてやられたとダルクは思った。


「あぁ、ルクノア! こいつらの案内は俺がするから――」

「しかし――」

「久しぶりに旧友に会えたんだ。察してくれよ」

「……かしこまりました」


 ルクノアが頭を下げて下がる。

 妙な光景だった。

 国賓を案内するレベルのルクノアなら、きっとかなり偉いのだろう。

 そのルクノアに畏まられるとは。

 ジンの腕前なら、将軍レベルに出世しているのかもしれない。

 ダルクはそう思った。


「ここに転職して正解だったようだな」

「いや、ぶっちゃけ厄介事だらけで、もうアルモランに帰りたいよ」

「そうか。俺はいつでも歓迎だぜ? お前と一緒に戦ったほうが稼げるからな」


 とダルクが言ったところで、ジンが大きな扉に手を掛けた。

 ノックもせずにいいのか?

 と思ったが、扉が開いた先は謁見の間で、誰もいなかった。

 玉座も空だ。


「なんだ、英雄王はいないのか。せっかく来てやったのによ」

「ん? ダルク、何言ってるんだ? いるじゃないか」


 ジンはそう言うと、空の玉座に座って言った。


「よく来たな、俺の国に」


 ダルクはジンの言葉を吟味する。

 そして、ジンに近付いていき、跪くように屈むと――


「こんの馬鹿野郎!」


 アッパーを繰り出した。

 油断していたジンの顎にダルクの拳が当たる。


「痛いじゃねぇか!」

「お前、バカだろ! 勝手に玉座に座るのは大罪! 下手したら死刑だぞ!」

「なんで罪になるんだよ。俺は――」


 とジンが文句を言おうとしたが、それを遮るように姫が言った。


「ダルクさん。ジンさんこそが、英雄王ジン・ニブルヘイムですよ」

「…………は?」


 ダルクは間抜けな声を上げ、そして――


「はぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!?」



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