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医食同源の心

「敵はたったの3000です。英雄クラスの将軍がいる気配もありません。籠城する必要もありません。俺とジン様の二人で倒せるのでは?」

「3000だったらな。だが――」


 俺はある予感がしていた。

 だから、斥候の可能な兵に指示を出して調べさせていた。

 その斥候の兵が戻って来た。


「陛下の仰った通りでした。大森林側にレスハイム王国の兵が展開されています。森の中なので正確な数はわかりませんが、少なく見積もっても2000」


 やはりな。

 砦の敵兵の数が、シヴを救出に来た時と比べて遥かに減っていた。


「敵の狙いは挟み撃ち、そして陛下の命ですか」

「いや、敵の狙いは俺をここで足止めして、その隙にガーラク砦を奪うことだと思う」

「ガーラク砦ですか?」

「どういうことです?」

「まず、捕虜の扱いだ。本来、この防衛砦は捕虜を捕えているには向いていない。実際、捕らえられていた捕虜は地下牢だけでは収まりきらず、四カ所に分けて閉じ込めていただろ? 国際法を守って捕虜を生かしておくにしても、レスハイム王国の立場からすれば、捕虜はモスコラ魔王国内に送るはずだ。だが、捕虜のほとんどは砦の中に残っていた。いなくなっていたのは、治療魔法を専門とする衛生兵のみ」


 数が数だけに全員を送ることはできないはずなので、何人かは砦の中に残っていると思っていたのだが、まさか全員砦の中にいるとは思わなかった。


「そして、俺たちをここで殺そうと思っていたのなら、食糧庫の食糧が多すぎる。わざわざ挟み撃ちにするんだ。だったら、敵はまず兵糧攻めを狙うはずだろ? なのに、食糧庫の食糧は十分にあった。俺たちがこの砦に運んできた物資もほぼ手付かずの状態でな」


 何故、兵糧攻めをしなかったのか?

 もしも食糧が無かったら、俺は兵を率い、脱出を図っただろう。

 何人が犠牲になったとしても、籠城すれば食糧が尽き全員死ぬ。

 だが、食糧が十分あったら?

 俺には選択肢が与えられた。

 籠城するか、脱出するか。

 ここでネックになるのが、捕虜となっていた兵だ。

 彼らの体調は万全ではない。

 毒は命を奪うものではないが、しかし強力なものだった。

 斥候に向かわせた兵のように走れるものも何人かはいるが、大半は歩くのがせいぜいだ。

 逃走劇を繰り広げるには無理がある。

 俺が守りながらでも、逃げられるのはせいぜい二割、いや、一割か。

 九割の兵を見殺しにしてしまう。

 だが、時間があれば?

 一カ月、いや、二週間あれば治療魔法を使わなくても毒は完全に抜ける。

 その期間の食糧は十分にある。


「俺をここに二週間足止めすることができれば、ガーラク砦を占領できると思ってるんだろうな」

「陛下、その紙には何を書いているんですか?」

「こっちの現状と指示を伝えようと思ってな。日本語――俺のいた世界の言葉で書いているから、アイナ以外には読むことはできない。わざわざ暗号とか解読表もいらないから楽でいいよな」


 俺はそう言って、伝書鳥の足に括り付けて放つ。

 この鳥は鳩よりも帰巣本能が強い魔物の一種だ。

 九割以上の確率で王都にある自分の巣に戻ってくれる。

 それを十羽も放つのだ。

 一羽くらいは届くだろう。


「さて、ちょっと寝るか」

「お休みですか?」

「ああ。敵の狙いが時間稼ぎだったら、もうあれ以上は近付いてこないだろう。とはいえ、俺たちを疲れさせるために嫌がらせのような小規模の攻撃をしてくるかもしれないから警戒は怠らないように言っておいてくれ。俺はハルナビスの部屋を……いや、あのデブが使っていた布団を洗わずに使うのはイヤだな。どっか空いている部屋を使って寝させてもらうよ。イクサも指示を出し終えたら休めるうちに休んでおけよ」


 俺はそう言って、欠伸をかみ殺した。

 今日は今朝から動きっぱなしだったな。

 果報は寝て待てっていうが、敵の動きも寝て待つのが一番だ。


 一週間が経過した。

 敵は時々思い出したように砦を攻めて来るが、攻めて来るのはせいぜい数十人から百数十人で、こちらが矢を射たら逃げていく。

 そして、ニブルヘイム英雄王である俺――ジン・ニブルヘイムはというと――


「料理できたぞ! さっさと運べ!」


 防衛砦の料理長に就任していた。

 王城にいたときから、アイナ専属のパティシエのようなものだったし、そう考えてみれば王城にいても防衛砦にいてもやってることは変わらないと思うべきか?

 面倒な貴族の相手をしなくてもいいだけこっちの方が楽かもしれない。

 身体を動かしたくなったら、イクサや体調がよくなった兵と模擬戦もできるし、窮屈だって思ったら、たまに攻めて来る敵兵をぶん殴って連れ帰って牢屋に押し込めるというストレス解消法まである。

 それに、この料理は単純に趣味というわけではない。

「どうだ? 今日の飯は」

「はい、とても美味しかったです」

「陛下の料理を食べたら、段々と元気になっていく気がしますよ」

 元気になっていう気がする……か。

 気分ではなく、本当に元気になってもらっていないと困る。

 そのために料理を作っているのだから。

 俺の次元収納には多種多様の食材が入っている。中には薬としても使えるものもあり、

 ドクダミのような、身体の毒素を外に排出する手助けのある薬草を料理に使用することで、少しでも皆の体力を回復させようというのだ。

 医食同源ってやつだ。

 これが結構効果が出ている。

 これならば、思ったより早く計画に移せる気がするな。

 と思ったとき、イクサが一枚の紙を持って俺の元に訪れる。

 なるほど、あっちも思ったより早く行動に移していたな。


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