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捕虜救出作戦

 もう一人、中隊長クラスの兵を尋問しても同じ答えが得られた。

 砦の中は相変わらず人の気配が感じにくい。

 途中、砦の中を移動しているレスハイム王国の兵をやり過ごしながら、俺は一番近い第三倉庫に移動した。

 砦の中で見かけるのはレスハイム王国の兵ばかりで、ダークエルフはほとんどいない。

 砦の周囲には何人かいたが、やはり数が少ないのだろう。

 先ほど尋問した上に殺した兵の話では、砦内で裏切ったのはハルナビスと数十名のダークエルフのみ。全体の一割にも満たない。

 そんな数でよく砦を制圧で来たなと思う。

 危険な状態のシヴから詳しく聞き取ることはできなかったが、その制圧術は見事だ。

 そんな中、何故、ハルナビスはシヴだけを逃がしてしまったのか?

 シヴの身体能力が優れているからというのはわかる。だが、だからこそ本来ならシヴの逃走には最も警戒し、絶対に彼女だけは逃がさないように計画を練るはずだ。


「ここだな?」


 イクサは上手にやっているだろうか?

 第三倉庫はここだな。

 扉を開けた途端、中から敵が襲い掛かって来る可能性もあるので、扉の正面には立たずに開けた。

 敵が出てくる気配はない。

 中では、鎖に繋がれた兵たちがいた。

 うちの歩兵団の連中とダークエルフが半々か。

 獣人族の一人は無理やり鎖を外そうとしたのだろう。

 縛られている手首と足首の部分の皮が捲れて悲惨なことになっている。


「陛下っ!?」


 捕まっていた獣人の一人が俺を見て声を上げた。


「しっ、静かに! 見張りはいないのか?」

「はい。我々だけです」

「陛下はどうしてこちらに?」

「シヴが決死の想いで知らせてくれたんだ。お陰で即座に動くことができた」

「シヴ隊長が……隊長は無事なのですね」

「ああ。いま城で治療を受けている」


 鎖の鍵は見つからなかったので、剣で全員の鎖を切る。

 そして、次元収納の中に入れていた武器と回復薬、食糧を全員に渡した。


「合図があるまでここにいてくれ。騒ぎになると他の部屋の救出に支障が出る」

「合図とは?」

「騒ぎになったら合図だ」


 恐らく、第五倉庫はイクサが向かっているはずだ。

 となると、俺が次に目指すのは食堂の横の食糧庫と地下牢。

 食堂には多くの人がいそうだし、地下牢は構造上警備をしやすい形になっている。

 どちらも厄介だが、俺は地下牢を目指すことにした。

 騒ぎになったとき、敵に立てこもられる恐れがあるし、重要人物がいるとしたらまずそこだ。

 歩兵団の中でも指揮官クラスの連中は第五倉庫にはいなかった。さすがに大隊長クラスの兵なら俺も顔と名前と階級くらいは覚えている。

 命の価値は平等と言う人もいるが、ニブルヘイム英雄国の士気を考えるとそういう人材の救助を優先するべきだろう。

 地下牢の位置は一応聞いてはいるのだが、言葉での説明だけでは伝わらないところもある。

 いっそのこと床をぶち抜いて一気に地下に行きたいが、ぶち抜いた先が地下牢だった場合、捕虜たちが生き埋めになってしまう。

 素直に地下に続く階段を探すが、聞いた通りに進むと見張りとぶつかり、それを避けて移動すると話に聞いた場所がどこかわからなくなる。

 館内見取り図とかないのかよ――と文句を言いたい。


 だが、やはり妙だ。 

 敵の数もそうだが、もっと気になるのは練度の方か。

 ここまで俺が侵入しても気付かないこともそうだが、やる気の問題だ。

 自軍以上の数の捕虜を砦内に抱えるということは、自分の身体に爆弾を埋め込まれているようなもの。

 だというのに緊張感をまるで感じない。

 先ほどの尋問した中隊長も、情報を漏らす速度が速い。

 拷問された結果だったとしても、自軍の情報を漏らせば軍法会議で処刑になる。

 そして――その疑問はさらに重なる。

 地下に続く階段――そこの見張りが酒を飲んで寝ていたのだ。

 寝ているフリではない。

 いくら気配が読みにくくても、そのくらいわかる。

 俺を誘い込むためにわざと酔いつぶれた? いや、違う。

 酒をやめられず、仕事中でも一人になったらこっそり酒を飲んで酔いつぶれる前科を持っている兵をわざと一人にして配置しているのか?

 罠の可能性は高い。

 だが、罠だとして、どんな罠を仕掛けている?

 中に待ち伏せ? そのくらいだったら可愛らしい。

 いろんな可能性を感じる。

 天井が崩落してきても、魔法を使えば防げる。人質を取られていたら――


 イクサに言った言葉を思い出す。

 人質を取られていたら、自分の安全を優先し、敵を倒す。

 一人の冒険者だったら、俺はきっと別の選択をするだろう。

 自分の身を犠牲にしても、仲間と呼べる人間がそこにいたら救おうとする。

 だが、今の俺の立場を考えると、それは許されない。

 ここまで単身で乗り込むのとは違う。

 王っていうのはつくづく不自由な立場だ。

 早く誰かに押し付けないといけないな。


 酔っ払って寝ている男の隣を通り過ぎ、俺は地下へと向かった。

 誰かがいる。

 見張り一人くらいだったら、昏倒させて――と思ったがその見張りの姿を見て俺はそのまま前に出た。


「お待ちしておりました、陛下」

「出迎えご苦労。なんでお前がここにいるんだ?」


 俺は本来こんな場所で見張りをしているはずのない彼を見て言う。


「ハルナビス」


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