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砦への潜入

 俺とイクサは夜を待ち、二人で再び防衛砦にやってきた。

 本来、鬼族の代表をこのような危険な任務に就かせてはいけないのだろうけど、しかし、この戦いに同行させられるレベルの戦士がイクサくらいしかいなかった。

 ガーラク砦に人員を取られているとはいえ、人手不足だな。


 結界が張られているので、俺の転移魔法では砦の中に入ることはできない。

 それが普通だ。

 結界を無視してどこでも転移できるアイナの力が異常なのだ。

 と言ったら、普通の魔術師は転移魔法を覚えられないって言われそうだけど、本に理論が書かれているということは過去には使えた人がいたわけで、前例があるというのは普通のことだ。

 見張りはレスハイム王国が九割、ダークエルフの数は少ない。

 だが――


「妙だな――」

「ええ……妙に隙が多いです」


 見張りの数が少なく、大半はやる気はないように思える。

 ここの東はモスコラ魔王国、西はダークエルフの住む大森林。

 ダークエルフ、モスコラ魔王国とともにレスハイム王国と同盟を結んでいるのだとすればその間の砦の見張りに力を入れないのはわかる。

 だが、中には捕虜となっている獣人やダークエルフたちがいるし、俺が転移魔法を使える情報は既にレスハイム王国の指揮官クラスにはいきわたっていることだろう。

 かといって、あの人数の獣人やダークエルフの捕虜をこの短時間で別の場所に移送できるとは思えない。

 最悪の可能性が脳裏を過ぎった。

 この防衛砦には牢屋としての価値もない――つまりは捕虜になっているはずの獣人やダークエルフが全て殺されているという可能性だ。

 そして、もう一つが俺を嵌めようとしている可能性だ。

 俺がシヴを救ったことは既にレスハイム王国の耳にも入っているはずだ。

 罠の可能性が一番高いな。

 となると、中に入った途端、敵がわんさか現れる可能性も。

 いや、それならそれで別にいい。

 全員返り討ちにしてやる。


「イクサ、わかっていると思うがここからの別行動――」

「はい。潜入であり、そして万が一見つかって人質を取られた場合は――」

「人質を無視して、敵を攻撃することを許可する。俺たちの目的は人質の救出ではなく、砦の奪還だ」


 黒装束に身を包み、気配を消し、己の存在を闇夜に溶かす。

 イクサも同じように気配を消した。

 そして、別行動を開始する。

 正面入り口も裏口も警備の兵が複数いる。

 気付かれる前に気絶させることは可能だが、その場で見つからなくても見張りが気絶している、もしくは持ち場にいないことがバレたら騒ぎになるのは確実。捕虜が監禁されている部屋を探す時間を考えるとそれもよろしくない。

 だったら――と俺は砦の上を見る。

 窓があった。

 見張りの気配を確認しようとするが、うまく探れない。

 ただ、ここなら多分平気だろう。

 窓に跳ぶ。

 扉はガラスではなく鉄格子が嵌められていた。

 手刀で鉄格子を切り裂き、窓から中に入る。

 このくらいの潜入は冒険者時代に何度か経験をしているから、慣れたものだ。

 窓の中は無人の寝室だった。

 改めて砦の人たちの気配を探る。

 しかし、やはり気配がわからない。

 結界の影響だろうか?

 隠遁の結界は、ダンジョンの中などに使われることはあるが、こういう砦や城の中に使われるのは珍しい。

 というのも、こんなものを建物の中に遣ったら、侵入者に気付きにくくなる。

 俺にとってはある意味有利であるが、しかし気配を頼りに捕虜の位置を探ろうとしていた俺にとっては不利でもある。


「さて、捕虜はどこにいるのかな」


 こんなことなら、前に来たときに案内してもらったらよかったかな。

 しかし、一つわかることは、ここ個室ではあるが、狭いことから中隊長クラスの部屋だろう。

 よし、あの手で行くか。

 俺は部屋の扉を開け、隣の部屋をノックした。

 返事はない

 別の部屋をノックする。

 返事がない。

 別の部屋をノックする。


「誰だ?」


 返事があった。男の声だが聞き覚えがない。


「例の件についてお知らせに参りました。中に入ってもよろしいでしょうか?」

「待て、鍵を開ける」


 心当たりがあるのだろうか?

 男が鍵を開けて扉を開ける。

 五十歳くらいの髭面の人間族の男が現れ――即座に喉に手を押し当て声を出せなくすると同時に、彼を部屋の中に押し倒し、扉を閉め、鍵も掛ける。


「さて、俺の顔を見て正体に気付いたか? 気付いたら何度も瞬きをしろ」


 男は何度も瞬きをした。

 有名人はこういう時に徳だな。

 わざわざ名乗る必要もなければ、それを証明する必要もないのだから。

 さて――


「大きな声を上げようとすると、人間は無意識のうちに息を大きく吸う。あんたには俺の質問に答えてもらう。正直に質問に答えたら生きて返す。そして声を出すまで零コンマ零数秒の時間を要する。俺の剣があんたの喉を貫くのとどっちが速いか試す気があれば大声を叫ぶがいい。その時は別の奴に同じことをする。あぁ、お前は知っていると思うが、嘘は言うなよ。さっきの部屋の奴は知らなかったんだろうな。嘘を吐いたせいで死んじゃったよ」


 勇者に嘘を見抜く力はない。

 嘘を吐いている目を感じることはあるが、シンファイを相手にしたときはわからなかったように、あれは完全ではない。


「わかったなら小さな声で捕虜の居場所を言え」

「ど、どうか命だけは助けてくれ。俺には生まれたばかりの子がいるんだ」

「正直に言ったら助けてやるよ」

「捕虜は食堂の倉庫と、第三倉庫、地下の第五倉庫、地下牢に部隊を分けて監禁している」

「警備が薄いようだが、理由は?」

「わからない。俺も人員不足の指摘はしているが聞き入れてもらえなかった」

「嘘を言っている感じはないな」


 俺は頷くと、そのまま手に力を籠め、男の喉を握りつぶした。

 さて、これが罠という可能性もあるから、あと一人くらい尋問させてもらうか。


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