世界半統一宣言
いきなりクライマックスの魔王戦
「我を転移させたのは貴様らの仕業か?」
その声を聴くだけでも彼が強者であることが伝わってくる。
「はーい、私がやりました!」
とアイナは空気を読まずに手と声を上げた。
魔王は怒るでもなく、アイナを見て目を細める。
「貴様、人間ではないな。古代の精霊――いや、魔神か」
「はい、魔神アイナです。魔王さん、あなたを倒して世界の半分を貰いに来ました」
「魔神とは戦ったことがないな。面白い、やってみろ」
魔王からの重圧が跳ね上がる。
この世界に来て初めて感じる強敵の気配だ。
そして、そのエネルギーの源は、背後にあるコアクリスタルから注がれている。
「私は一切戦いません。ご主人様に倒してもらわないと意味がないのです」
「ご主人様とはその人間のことか? 我の重圧に立っていられるだけでもただ者ではないが――しかし、我に勝てるかな?」
「そうですね、このままでもいい勝負できそうですが、これならどうです?」
アイナが指をパチンと鳴らすと、コアクリスタルの光が突然失われた。
それと同時に、魔王から溢れていた重圧を感じなくなる。
「貴様、一体何をした!?」
「コアクリスタルの力を一時的に封じさせてもらいました。さぁ、ご主人様――出番です! 魔王を倒しちゃってください!」
「コアクリスタルの力を封じなくてもなんとか勝てそうだったが、これなら余裕で戦えそうだ」
俺は鞘から剣を抜く。
「バカがっ! たとえコアクリスタルの力を封じられてもたかが人間ごときに負けはしないわっ!」
魔王はそう言って俺の次元収納のような方法で剣を亜空間から取り出す。
刀身が俺の身の丈ほどもある禍々しい闇のオーラを纏った黒い剣だ。
先に動いたのは魔王だった。
一瞬にして俺との距離を詰めた彼はその黒い剣を振り下ろしてくる。
俺はそれを受け止めた。
剣ではなく左手に持っていた鞘で。
「正直、警戒して損したな」
俺はポツリと呟いた。
魔王はその力で数百もの種族全てを従えて魔王になったと聞いていた。
魔王は世襲制ではない。
力が全てであり、力こそが尊ばれる。
たとえコアクリスタルの力がなくても、生半可な気持ちで手を出してはいけない相手だと思っていた。
だけど――
「弱いな、お前」
「――っ!」
魔王が力を込めてその反動で後ろに跳び、俺と距離を取る。
俺はため息を吐き、鞘を捨てた。
舐めプでプライドをへし折るのもいいが、時間をかけ過ぎると警備に気付かれて増援を呼ばれる可能性もある。
「魔王さん魔王さん。ご主人様はもうトドメを差すつもりのようですので、変身とかそういうのできるのなら今のうちにしておいてくださいね」
「アイナ、何言ってるんだ。変身させずに殺せるときに殺した方が楽だろ?」
「この後、この領土を統治するときに、全力の魔王を倒したという実績があった方がいいんですよ」
アイナが魔王を倒した後のことを見据えて意見を言った。
「いいだろう! 後悔しても遅いぞ。誰にも見せたことのない我の真の姿をとくと見よ」
魔王がそう言うと、その筋肉が膨れ上がり、着ていた服が破れた。
さらにだんだんと筋肉が膨れ上がっていき、背中から翼が――
「バースト」
爆発した。
俺が爆発魔法を使った。
「ご主人様、何を――」
「いや、隙だらけだったからつい。統治もなにも、俺、別に世界の半分とか欲しくないし」
むしろ、なんで魔王は攻撃されないと思ったのだろう?
「貴様っ! よくも――」
「それに、魔王の変身後の姿は誰も見たことがないのだろう? だったらこれでいいじゃないか」
さらに魔法を放つと、再度、魔王の身体が爆発した。
魔王はドラゴンのような姿になるのだろうが、人型とドラゴンの間、翼の生えた蜥蜴人族みたいな姿になってる。
魔王の真の姿を誰も見たことがないのなら、これが真の姿ってことにしておけばいい。
「待て、待つんだ!」
俺は待たなかった。
変身途中はうまく動けないのだろう。
弱ったところで、俺はトドメを差すために近付く。
「待てと言っておるだろう!」
俺はそれを無視し、そのまま剣を振り下ろそうとするが――突如、俺の身体が炎に包まれた。
「愚か者が。無防備に近付きおって、たとえ姿を完全に変えずとも魔法の威力はもはや完全体の域にまで高まっている。我の最高の攻撃を直撃したのだ、無事では済むまい。骨も残さずに燃え尽きるがいい。しかし、こうもあっさりと決着が着くとはいささか拍子抜け。残すは――」
「拍子抜けなのはこっちの方だ。最高の攻撃がこの程度か?」
俺は炎の中を歩いて行く。
剣を魔力でコーティングして強化していたように、身体全体を魔力で覆えばこの程度の炎、当たったとしてもどうということはない。
「馬鹿な、貴様、一体何者だ――」
「俺はこの世界に召喚された勇者だよ」
「勇者――そうか、貴様が」
魔王は覚悟を決めたようだ。
「しかし、残念だったな。我を倒せば元の世界に戻れると言われて来たのだろうが、そんな方法は存在しない。貴様は騙されて――」
「知ってるよっ!」
俺は力を込めて剣を振り下ろした。
魔王の首が落ちる。
その目は俺を睨んでいるようだった。
「これで終わりか」
相手は魔王だから、ゾンビになって復活だとか、心臓が七個あって七回殺さないといけないとか可能性も考えたが、そのようなことはなかった。
「ご主人様、お見事でした!」
アイナが駆け寄って来る。
「アイナもお疲れ。まぁ、世界の半分云々はさておき、魔王はいつか倒さないといけないって思ってたから、手間が省けたよ。サンキューな」
「いえいえ。では、さっそく済ませてしまいましょう」
済ますって何を!?
と突然、部屋の中央に光の球が現れた。
その光の球には、俺たちの姿が映っている。
ただし、僅かにぼやけていて
「『テステス――こちらは魔王城からの映像を魔法により流しています。たったいま、私のご主人様――英雄ジンが魔王サタナブルスを倒しました。たったいまより、魔王領は北西のモスコラ地方を除き、英雄ジンの領土になったとともに、世界の半分をジンのものとする世界半統一宣言をするものとします』」
と彼女の言葉が光の球からも聞こえてくると同時に、俺の後ろにあるコアクリスタルが光り輝いた。
「なにをしたんだ? ていうか、世界半統一宣言ってなんだよ」
「ご主人様が魔王を倒したことを世界中にお伝えしました。これでご主人様はもうこの国の主です。そして、世界の半分はご主人様のものです!」
「そんなことで国の主になれるかっ!?」
それより世界中に伝えただってっ!?
ということは――
足音が聞こえてくる。
こちらに向かっているようだ。
警備の連中だけではない。この城にいる全員も当然、俺が魔王を倒したことが伝わったようだ。
振り返ると、大勢の城の兵たちが武器を持ってこちらに来ていた。
これはもうひと悶着ありそうだ。
いっそ、アイナの力で元のダンジョンに戻ろうか――そう思った時、やってきた兵たちは武器を捨てた。
そして、鬼族らしい男が一歩前に出ると、その場に全員が跪いた。
「魔王就任おめでとうございますっ! あなたの魔王就任、心からお慶び申し上げます」
彼がそうすると同時に、全ての兵が跪いた。
って、俺、魔王になったつもりはないんだが!?
無事世界の半分を手に入れたジン。
いよいよ王国経営がスタートします。
もしよろしければ、お気に入り登録、評価等よろしくお願いします。