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突然のエネルギー遮断

 城の中は随分と静かになった。

 元々、城にいた人間の何割かは魔王が死んだあとにモスコラ魔王国に亡命していなくなった。

 魔法師団の半数と一部騎士たちは大森林防衛砦に行き、人員の補充はほとんど行っていないのでこの人数減は仕方ない。

 さらに、シヴたち歩兵団も防衛砦に向かった。彼女たちの機動力なら、再度暴食鼠が現れても対処できるだろう。

 そして、ローリエは外交のために国を出ている。

 結果、残った種族の代表は魔法師団長のサエリアと近衛兵長のイクサのみとなった。


 そんな中、俺は――


「こんなものでいいか」


 おはぎを大量に作っていた。

 山積みになったおはぎを次元収納に入れていく。

 アイナとしりとりで負けて作ると約束した分を含め、今後アイナに与える分まで作っている。

 気分はもうおはぎ屋さんだ。

「陛下、言ってくれたら自分が作りましたのに」

「キュロスはキュロスで用事があるだろ? それに、戦争の報告続きで気が滅入っていたからな。いい気分転換になるんだよ。それより、市場の方はどうだった?」

「ロイ様のお陰で、大きな混乱は起きていませんが、やはり皆不安がっていましたね」

 戦時中は物価が高騰しやすい。

 ロイは国中の各商会を通じて、商品の高騰を防ぐように価格の統一をして回った。本来、こういう市場への介入は商会から嫌われる。ただでさえ、奴隷の売買を禁止したせいで一部の商人からは煙たがられていた。

 しかし、ロイの説得と、いろいろと商会への譲歩もあり、なんとか市場の高騰を防ぐことに成功。

 いつも通りの買い物ができ、いつも通りの生活ができていれば混乱は起きない。

 とはいえ、それもいつまでもつか。

 地方では働き盛りの若者が戦地に赴いたことで、農作業が追い付かず、収穫高は間違いなく下がることだろう。

 戦争が終わっても、その後のことを考えないといけない。

 餓死者が出ないためにどうしたらいいか。


「いっそのこと、レスハイム王国の食糧庫を襲うか」


 貴族共の蔵には、非常用に貯蓄している小麦が山ほど保管していたはずだ。


「陛下が言うと冗談に聞こえませんね」

「冗談だと思ったか?」


 と俺は冗談で言うと、キュロスが猫髭をピクピクさせて身震いした。

 まぁ、戦争を仕掛けてきたのはレスハイム王国側なんだし、敵砦の食糧を丸々奪うくらいはやってもいいかもしれない。

 さらに笑みが零れる。


「(こ……これが英雄王の殺戮者の笑顔(デススマイル))」


 キュロスがまだ震えている。

 少し怖がらせ過ぎたか?

「陛下、今夜の食事ですが――」

「ああ、節約料理で頼む。王だけ贅沢ってわけにはいかんからな。あ、お前らの給料が未払いになるようなことはならないから安心しろ」

「いえ、いざとなったら私の給料よりもこの国にお使いください。私は日々の食事さえ食べられたら満足ですので」


 気持ちだけ受け取っておく。


 アイナとロイにおはぎを届けてやるため、執務室に向かうと、鐘がなった。

 緊急の鐘だ。

 俺は急ぎ、招集時に集まる会議室に向かった。

 俺が入ってきたときには、アイナとロイが既にいて、イクサ、サエリアと続いて入って来る。


「何があったっ!?」

「サブクリスタルの一つから、コアクリスタルへのエネルギーの供給が途絶えました」


 ロイが即座に答える。


「どこのサブクリスタルだ!」

「ダークエルフの里です」

「――っ!」


 ダークエルフの里からのエネルギー供給が途絶えた?

 一体何があったんだ?


「原因は――敵の妨害によりエネルギーの供給が行えない状況になったのか!?」

「わかりません」

「防衛砦からの報告は?」

「まだ何も――」


 考えられる可能性はいろいろとある。

 まず、大きく分けて三つ。

 サブクリスタルの不具合。

 サブクリスタルから送られてくるエネルギーの伝達機能の妨害。

 サブクリスタルのスイッチが切られた。


 この中で不具合という事故についてはこの際考えないようにしよう。

 エネルギーの伝達の妨害か、スイッチが切られた。

 この伝達の妨害については頭の片隅に置き、スイッチが切られた理由について。

 誰が切ったのか?

 ダークエルフか、レスハイム王国、モスコラ魔王国の連中の仕業か。

 ダークエルフの誰かが切った場合の理由は?

 レスハイム王国やモスコラ魔王国だったとき、村はどうなっている?

 スイッチのオンオフの切り替えはできても、破壊はできないって言っていたので、その場合、少なくとも寺院が敵に占拠されている状態である。

 だが、その場合、大森林防衛砦から何の連絡がないのはおかしい。


「転移魔法で防衛砦に行って様子を見てくる」

「ジン様、危険です! サブクリスタルが動かない以上、防衛砦の内側も完全にコアクリスタルの範囲外です」

「大丈夫だ。勇者の力は問題なく使えるはずだ。危なくなったら転移魔法で直ぐに戻る」

「陛下、それなら私も――」

「勇者の力しか使えない場合、帰り道の魔力を節約したい。悪いが一人で行く」


 単独で何度も危険な前線に行くのは王として間違えていると思うが、しかし、一番確実な方法だ。

 俺は転移魔法を使い、一人で防衛砦の近くに転移した。


 戦いの痕跡はない。

 しかし――


 防衛砦にレスハイム王国の国旗っ!?

 まさか、既に砦が落ちているのか!?

 いや、様子がおかしい。

 ここから見た限りだと、砦の警備をしているのはダークエルフたちだ。

 まさか、ダークエルフが謀反を!?

 シヴたちは無事だろうか。

 足音が聞こえて来た。

 俺は気配を消して岩陰に隠れる。


「見つかったか?」

「いや、見つからない。あの薬を飲んで逃げられるとは……さすがは獣人族の代表ってところか――」


 シヴのことか。

 薬と言っていたな。

 毒薬でも飲まされたのか?

 隠れ場所の多い森の中? まさか、意表をついてモスコラ魔王国方面に逃げてないだろうな?

 いや――


 シヴの性格を考える。

 あいつなら――真っすぐ城に帰る!」


 転移――いや、それだとシヴを見逃す恐れがある。

 だったら――と俺は次元収納から黒装束を取り出して顔を隠す。

 種族を誤魔化すためにアルモラン王国時代に仕事で使った獣耳のついている帽子を被る。

 そして、俺は岩陰から飛び出し、走った。

 途中、ダークエルフの何人かに見つかり、何か騒がれたが無視する。

 走る。

 走る。

 走る。

 視界が開けたところでは、その範囲内に転移する。。


 途中、馬の蹄の跡を見つけた。

 俺と同じようにシヴを追っている奴がいる。

 シヴが乗っている可能性も考えたが、この足跡の食い込みからして、重装備を纏っている可能性が高い。

 となると、モスコラ魔王国かレスハイム王国の軍馬だろうか。

 既に敵兵が中に入り込んでいるのか?

 シヴを追っている可能性もある。


「無事でいてくれよ」


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