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鼠狩り

 鼠狩りが始まった。

 俺は運動不足解消に参戦したかったが、ここはダークエルフの戦士たちに任せることにした。サエリアとイクサにも待機させている。

 ただ、暴食鼠相手にダークエルフたちは苦戦を強いられた。

 何千と押し寄せてくる鼠相手にほとんど効果が出ていない。

 範囲攻撃魔法を使って倒しているが、それでも全滅させるのは難しいか。


「もどかしいですね」

「サエリアの魔法兵団どう指揮をとる?」

「塩田作りで鍛えたノウハウを用いて堀を作ります。あの数の鼠ならば、かなりの数が中に入るでしょう。そこに火魔法を打ち込んで全部焼き殺しますね」

「うちの魔法兵団は土木作業得意になったもんな」


 ダークエルフは土魔法が得意なものが多いが、尖った石礫のようなものを放って鼠に撃ったり、強いものはゴーレムを使って戦わせるだけだ。


「魔法で操られているのは数匹だけか。おそらく、あいつらが暴食鼠のリーダーで、それに率いられてこの砦に来たってところか」

「だとしたら、そのリーダーを倒せば解決ですか?」

「ここまで接近されたらそれだけで解決ってわけじゃないな」


 どうやら俺と同じように魔力を検知したダークエルフがいたのだろう。

 操られている暴食鼠だけを的確に射抜いている者が現れた。

 ハルナビスたちだ。

 彼もそうだが、その取り巻きらしき男たちも中々の弓の腕前だ。


「ハルナビスの隣にいるのは?」

「兄たちです」


 サエリアが言う。

 なるほど、全員イケメンだ。

 しかし、敵のリーダーが倒れたところで、ここまで来た暴食鼠が退却するわけではない。人の戦争とは違う。

 彼らが目指すのは、この砦の中の食糧だ。

 さぁ、どう対処する?


「火を放て!」


 ハルナビスたちがそう言った。

 野生の魔物に火は有効だが、ダークエルフは森の中で暮らす種族だから火魔法が苦手なはずだ。

 火矢程度では威力は足りないぞ?

 どうするんだ?

 と思ったら、彼らが投げたのは火のついた瓶だった。


「ははっ、トラコマイが見たら発狂するぞ」


 瓶の中に入っているのは酒だった。

 俺たちがここまで運んできたものと同じものだろう。

 飲用ではなく、火炎瓶の材料として使うのか。

 しかし、火の威力が普通の火炎瓶に比べて段違いだな。

 酒の中に魔力を通わせているのか。

 暴食鼠たちの勢いが和らいだ。

 その後、ダークエルフたちの抵抗により、暴食鼠たちは砦に近付くのを諦め、森の方へと逃げていった。


「森に逃げて大森林は大丈夫でしょうか?」

「暴食鼠はよく食べよく増えるが、強さでいえば大したことはない。森の中の獣の方が強いからな。あの程度の数ならあとは自然に淘汰されて適切な数になるはずだ。元々どこにでもいる魔物だから森の中にもいたはずだ。それより――」


 また敵の群れが見える。

 暴食鼠だ。

 どうやら、さっきので打ち止めではないらしい。


「何故一度に投入しなかったのでしょう?」

「敵もこちらの手の内がわからないんだよ。さっきの魔法以上の広範囲殲滅の魔法をこちらが使えたとしたら、大量投入しても全滅が在り得る。それがないとわかっての二度目の投入だろう。打った矢を回収する暇も与えないあたり、イヤな性格だよ。それでもまぁ、さっきと同じ手段で対処できるとは思うが――」


 俺はハルナビスのところに向かう。

 彼はさっそく暴食鼠の第二波の殲滅のための指揮を取ろうとするが、


「ハルナビス殿。これ以上の指揮は必要ない。あとの殲滅は俺に任せてくれ」

「陛下、それはどういう――」

「なに。馬車の移動で身体が鈍ってしまってな。皆の戦い方の見学も済んだし、ちょっと運動をしようと思って。一人で戦わせてもらおう」

「しかし、陛下。あの数を一人で倒すのはいくら陛下でも」

「なに、レッドアントの群れと戦ったときはあの百倍はいた。問題ないさ。それに――」


 どうせ見張っているんだろ?

 レスハイム王国とモスコラ魔王国の奴らがグルになって。

 お前らが一体誰を敵に回したのか、目に物を見せてやる。


 俺は砦の上から飛び降りた。

 燃えた鼠の焦げた臭いが鼻腔を刺激する中、俺は真っすぐ新たな暴食鼠の群れに向かっていく。

 まずは剣で。

 いつも使っている鈍らの剣を取り出して、魔力を纏わせる。

 刀身が伸びていく。

 実際は剣の長さは変わらない。

 ただ、魔力による見せかけだ。

 それでも切れ味は普通の剣より遥かにある。

 魔力だから伸びた分の刀身に質量はないため、力任せに振り回しても肉体への負担はない。

「せりゃあぁぁぁぁぁあっ!」


 剣を振り回すと、大量の暴食鼠の群れが薙ぎ払われた。

 うーん、これだけでも全滅できそうだが、運動不足解消にはならないな。

 俺は伸ばした剣を元通りにして次元収納に入れ、変わりに短剣を持ち出す。


「よし、第二ラウンドだ。せいぜい俺の運動の相手になってくれよ」


   ※ ※ ※


「これが新たな王の力か」


 ハルナビスは恐れるように言った。

 最初に大剣で暴食鼠の半数を切り伏せただけでなく、さらには短剣で次々に倒していく。その姿はまるで舞いのようだ。

 この地はニブルヘイム英雄国のハズレ。

 コアクリスタルの力はほとんど届かない。

 となれば、あれは勇者としての力ということになる。

 この世界に召喚された勇者が直ぐにレスハイム王城から逃げ出したことは何年も前にマルシアから伝え聞いていた。

 その時、戦いから逃げ出した臆病な勇者だと思ったものだが、しかし、その勇者が魔王サタナスを倒したと聞いたときその考えを否定された。

 サタナスの奴は気に食わない王ではあったが、その実力は認めていた。

 たとえコアクリスタルの力がなくても竜人族の中でも圧倒的な力を持っていた。魔王に相応しい実力があったのだ。

 それを倒しただけでもハルナビスはジン陛下の実力を認めていた。

 しかし、暴食鼠との戦いでその認識を改めさせられる。

 認めるどころではない。


 もしも彼が自分たちの王ではなく、自分たちを滅ぼす勇者としてこの砦に現れたらどうなっていただろうか?

 全軍の力を、いや、ダークエルフ全ての総力を用いても彼を止めることができただろうか?

 想像したら、まるで訓練場の木偶人形のように無残な姿になる部下の姿が脳裏に浮かんだ。

「敵に回したくはないな……」


 ハルナビスはそう言って胸に手を当てる。

 彼の兄――族長シンファイから届けられた開封済みの便せんの内容を思い出すように。


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