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大森林防衛砦

「必要な物資はこちらになります」


 とてもではないが、馬車一台で運べる量ではないな。

 シンファイが用意した物資は穀物、野菜等の食糧、包帯や魔法薬などの医療物資、弓と矢、あとは酒だった。

 しかも、ただの酒ではなく蒸留酒らしい。

 この世界で見るのは初めてだが、存在することはガーラク砦のドワーフのトラコマイから聞いて知っていた。

 トラコマイが言うにはダークエルフの秘術で作られているらしく、滅多なことでは飲めないらしい。

 もしかしたら祝芽の儀に振舞われるのかと思ったが、それもなかったので本当に珍しい酒なのだと思っていた。

 まさか、それがこんなにあるなんて。

 トラコマイが聞いたら発狂するかもしれないな。

 全ての荷を次元収納に入れる。


「確実に届けるよ」


 俺は馬車に乗った。

 基本は里に来るときと同じ。

 馬車に乗るのは俺とアイナだけ。

 馬車の両サイドはイクサとサエリアがそれぞれ守り、その周囲はダークエルフの戦士が配置されている。

 楽なのはいいが、移動が遅いんだよな。

 暇だ。


「アイナ、しりとりでもしようか。ルールは……そうだな。俺は地球の地名、アイナは和菓子の名前でどうだ? 勝ったらおはぎを作ってやるよ」

「いいですよ! じゃあアイナから行きますね! おはぎ!」

「ギリシャ」

「八つ橋!」

「し……渋谷」

「焼き饅頭」


 地球の地名や食べ物でのしりとりとか、アイナ相手でしかできないからな。


 いろいろとルールを変えてしりとりを十回やって十戦全敗した。

 くそっ、魔神の語彙力ヤバ過ぎるだろ。

 約束通り、おはぎを大量に作ることになってしまった。王都に帰ったら暫くは厨房に籠ることになりそうだ。


「陛下、歓談中失礼いたします。防衛砦が見えてきました。間もなく結界を越えます」

「そうか」

 微精霊がいることに慣れていただろう。

 結界を越えると、まるで服を一枚脱いだかのような違和感があった。

 しかし、それも直ぐに慣れる。

 その先にあったのが防衛砦と呼ばれるところだった。

 しかし、随分と古い。

 それも仕方がないことだ。

 現在のモスコラ魔王国と呼ばれる場所は五百年前まではモスコラ王国という小さな国だった。

 この防衛砦は、サタナス魔王国とモスコラ王国との国境沿いにモスコラ王国側が建てた砦だ。

 五百年前に

 サタナス魔王国が侵略戦争を仕掛け、この防衛砦を奪い、逆にサタナス魔王国の防衛砦となり、さらにその数カ月後にモスコラ王国を落として併合した。

 ただ、モスコラ王国の中はコアクリスタルの影響の範囲外のため、魔王の力も及ばない。そのため、過去に三度人間族に奪還されては奪い返すを繰り返していた。

 そういう歴史もあるため、防衛砦が取り壊されることはなく、現代まで残っているというわけだ。

 防衛砦に到着するや否や、砦の中からダークエルフが現れた。

 どことなくシンファイに似ている気がするが、この砦にいるサエリアの兄だろうか?


「ジン・ニブルヘイム英雄王陛下であらせられますね? この防衛砦を纏めているハルナビスと申します」

「ああ、出迎えご苦労。忙しいところ急な訪問をして済まないな。ところで貴殿はシンファイ殿と似ているようだが、サエリアの兄だろうか?」

「私は族長シンファイの弟、彼女の叔父にあたります」


 ハルナビスは言った。

 叔父さんだったのか。

 ダークエルフの年齢、マジでわからないからこういうときは厄介だ。


「そうか、若く見えたからな。失礼した」

「人間族の陛下にダークエルフの年齢を見分けろというのは、斑鬣犬まだらたてがみいぬ獣人の子どもの性別を区別しろというくらい難しいことです。お気になさらずに」


 ハルナビスは気にする様子もなく、笑って答えた。

 斑鬣犬獣人は大人でも性別がわかりにくい種族の代表と言われる。

 普通、性別の区別はだいたいアレがあるかないかで区別できるのだが、斑鬣犬族は女の子にもアレが生えているそうだからな。


「ところで、支援物資を持ってきたんだが、どこに置けばいい? 倉庫に案内してくれるか?」

「いえ、陛下にそのような場所までご足労をかける必要はございません。ここに出していただければ、あとは部下が運びます」


 別に倉庫に行くくらいはいいのだが、イクサが頷く。

 次元収納があるからここまで運んできたが、本来であれば荷物を運ぶのは下っ端の仕事だ。それを最後まで俺がすることはよくないと言いたいのだろう。

 支援物資を出して地面に置く。

 ダークエルフたちが現れて荷物を運んでいった。

 線が細い連中が多い。

 ダークエルフたちは魔法兵が多いから身体はあまり鍛えていないのかもしれない。

 防衛砦の中を見学して回る。

 やはり設備は古いが、しかししっかり整備はされている。

 砦の上に移動した。

 ここからモスコラ魔王国がよく見える。

 敵兵の姿は見えないか。


「奴ら、本当に攻めて来るんでしょうか?」


 イクサが言う。


「まだわからない。力圧しで攻めてきてくれたらわかりやすいが、それはないだろう。まだモスコラ魔王国は自分たちがレスハイム王国と手を組んだ証拠を俺たちに握らせたくないはずだ。モスコラ魔王国にとって最高の結果は何だと思う?」

「はい! レスハイム王国の兵がご主人様を殺していまの魔王が新しい魔王に返り咲くことです!」

 アイラが手を挙げて言う。

 主人の俺の死を笑顔で言うな。

「それは次点だ」

「一番は我らニブルヘイム英雄国とレスハイム王国が戦い、どちらも疲弊して共倒れになることですね」

「そうだ。逆に最悪の結末は、俺たちがモスコラ魔王国を攻め滅ぼすことだ。モスコラ魔王国とレスハイム王国が表立って手を組んでいることが明らかになった場合、俺たちはモスコラ魔王国を攻め滅ぼす理由を作ることになる。だから――お?」


 噂をすれば影。

 敵の姿が見えたようだ。


「ご主人様、なんですか、あれは」

「暴食鼠だ」


 正式名称はグラトニーラットというカピバラサイズの鼠の魔物だ。

 特徴は何でも食べてすぐに増える。

 そして、その肉はマズく、病気持ちのため基本は食べずに焼却処分される。

 その暴食鼠が群れで押し寄せてきた。


「さて、どう思う?」

「敵が送り込んできた魔物でしょうね。もちろん証拠はありませんが」


 サエリアが言った。

 さっき言ったように数を増やすのは簡単な魔物だ。

 そのため、兵糧攻めによく使われる魔物ではあるが、それを砦攻めに使ってくるとはな。

 モスコラ魔王国――魔物を操るとは、さすがは魔王を名乗るだけはあるな。


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