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世界樹と族長

「なんでダークエルフの里の周辺には草一本生えていないんだ?」

 土を見る。

 栄養不足ってわけじゃないよな?

 馬車から降りて土を触ってみる。

 植物が育たないような荒れた地ではなく、普通に栄養もありそうだ。

 これだと、何もしていなくても雑草くらい生えて来そうな気がする。

 それに、あちこちに盛られているのは……落ち葉を発行させた腐葉土か?

 土壌を改良している途中の休耕地ってわけでもなさそうだが。


「世界樹を育てるために、里の周辺の土を育てているんです。雑草が生えても里の人間が全力で抜きます」


 サエリアが説明をした。

 そんなことまでしているのか?


「また土が病気にならないように、週に一度ダークエルフの神官が清めた聖水を撒いていますし、検査も行っています」

「そこまでしているのか」


 子どもが病気にならないように無菌室で育てていますという勢いだ。

 そこまで至れり尽くせりだと、逆に強くならないんじゃないかと思ってしまう。


「畑がないのなら食事はどうしてるんだ?」

「森の中の木の実や、あとは工芸品を売って得た財貨で小麦を買って主食にしています。幸い、我々ダークエルフは魔術の適性を持つ者が多く、そのため全ての税を兵役で賄っていますから自分たちが食べられる分の食事さえ用意できれば、それ以上の作物は必要としません」


 サエリアの話を聞いて国税の管理をしているアイラを見ると、彼女は頷いた。

 そういえば、魔法師団の中にもダークエルフは多かったな。

 俺たちを護衛している戦士たちからも人間族や他の魔族にはない多大な魔力を感じる。結界の中だと微精霊の魔法は使えないが、しかしひとたび結界から出れば優秀な魔法兵として力を発揮できるだろう。


「そんなに魔法が使えるのなら、この結界が無い方がいいんだけどな。いや、結界じゃなくて微精霊がいなくなればいいのか」

「世界樹が成長した後、木の精霊に生まれ変わってもらうためにはここに微精霊をとどめておく必要がありますからね。世界樹が成長なさったときは自動的に結界も破れ、我々も魔法を使えるのですが」


 それは何千年も先の話と。


 再び馬車に乗り、ダークエルフの里の中に入った。

 ダークエルフの里の中は、六割がダークエルフ、三割が人間、一割が他の種族。

 人間族はどこにでもいるな……と少し感心する。


「人間族のここでの役割は? やっぱり元奴隷か?」

「彼らは職人です。大森林の倒木を利用して、この里の工芸品や家などを作っています」

「え? ダークエルフが作っているんじゃないのか?」

「我々は木を傷つけることを掟として禁止しています。それは倒木であっても同じこと。だから、人間族が加工しているんです」

「その加工している家に住んだり、加工した工芸品を売って得た金で得た食糧で飯を食べる分には問題ないのか?」

「家とお金に罪はありません」

 ダークエルフの掟って、厳しいのか緩いのかわからないな。

 代わりに、この地に住む人間族は安全と、ダークエルフたちが狩って生きた獣の肉を分けてもらって生活しているそうだ。

 他の町の元奴隷たちに比べたら安心で快適な生活を送れている。

 人間族以外の種族は、行商人とその家族がほとんどらしい。

 ダークエルフは魔法師団を除けば町の外に出ることはないと言っていたし、ダークエルフから行商人になることは禁止されているのだろうな。

「町の中にまた城壁?」

「中で族長がお待ちです。この先が世界樹の聖域になりますので、馬車は入れません。そのため、ここからは徒歩での移動になります」


 俺を出迎えに来たダークエルフの戦士の戦士長が言う。

 たぶん、純粋な戦闘力だとイクサ未満。ただ、魔法ありの勝負になれば互角の勝負ができるくらいの技量はある。

 それにしても、世界樹の聖域か。

 世界樹と聞いたときから、俺はずっと考えていたんだよな。

 俺の国、ニブルヘイム。

 その名前は地球の北欧神話に由来し、そこには世界樹の根の一つが延びていると言われている。

 もちろん、北欧神話の世界樹とこの世界の世界樹は違うが、しかしその偶然にはいろいろと思うところがあった。

 一度見てみたい。

 城壁には多くのダークエルフの兵が槍を持って構えていた。

 かなり警備が厳重だ。

 もしかしたら、俺の城よりも厳重かもしれない。

 少なくとも、俺の住んでいる城の警備には匹敵する。

 城壁の上には多くの弓兵がいる。むしろ地上より多い。

 恐らく、空から鳥や飛んでくる魔物を警戒しているのだろう。

 城壁の警備も厳重で、俺たちの荷物を全てチェックされる。

 毒物などの危険物を持ち込ませないためらしい。

 王なのに自分の国の施設に入るのにここまでチェックされるとか。

 場所が場所だから仕方ないか。


 内城壁を通ると、微精霊の多さに一瞬眩暈がした。

 なんという量だ。

 そして、その微精霊の目的はやっぱり――


「あれが世界樹……」


 芽と聞いていたが、しかしその大きさは俺の身長と変わらない。

 もう若木といってもいい大きさに成長している。


「私が知っている世界樹よりだいぶ小さいですね」


 アイナが言った。

 彼女は数千年前に生きていた。

 きっと、先代の世界樹をその目で見たのだろう。


「これで小さいのか?」

「はい。成長した世界樹は、この城壁の壁をぶち破るくらい大きく成長しますよ」


 え? マジか!?

 いくらなんでも――


「そちらの魔神様の言う通り。この世界樹が真の姿にまで成長したときは、この城壁を壊すほどに大きく成長しますよ」


 世界樹の前に立っていた若手アイドル風のイケメンダークエルフがそう言った。

 この雰囲気――凄いな。

 イクサやザックス将軍よりも強い。

 こいつがあのときガーラク砦にいたら、俺の出番もなく戦いは終わっていただろう。


「お初にお目にかかります。ジン英雄王陛下。ダークエルフの族長。シンファイと申します」


 そのイケメンダークエルフは膝をついて、シンファイと名乗った。

 やっぱりダークエルフの族長か。

 ……ん? ということは……このダークエルフの青年が、サエリアの父親なのかっ!?

 ダークエルフの年齢って本当にわからないなぁ。


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