大森林の偵察部隊
レスハイム王国の兵がここにいるってことは、モスコラ魔王国を越えてきたってことか。
モスコラ魔王国とレスハイム王国が手を組んだというのは事実ということか?
だが――
「ジン様、ここは危険です。一度下がりましょう」
「いや、倒そう。あの程度の人数なら俺たちで殲滅できる。幸い、ここは結界の中だ。通信の魔道具も使えないから救助を呼ぶこともできない。それに、敵の目的を知るチャンスだ」
敵の数はざっと三十人ってところか。
小声で作戦を伝える。
「イクサ、お前は森の中を通って敵の背後に回り込め。サエリアは木の上にあがり、弓矢で俺を援護。五人前後、生かして捕らえるぞ。手足は折って構わない」
「「はっ」」
と作戦を開始しようとしたところで、
「待て」
俺は二人を止めた。
「気配が近付いてくる。数は同じくらいだが、手練れが多い」
「……っ!? 敵の増援でしょうか?」
「いや、移動の仕方が森に慣れている気がする。恐らく――とにかく、作戦変更だ。正面から敵を迎え撃つ」
俺は無限収納から大盾を取り出した。
「サエリアはイクサの後ろに。イクサ、これを構えてサエリアを守ってやれ。相手がいきなり矢を射てこないとも限らない。」
「ジン様の分は?」
「俺に矢が通用すると思うか?」
「言ってみただけです。」
イクサはそう言って笑った。
そして、敵が来た。
「貴様ら、ダークエルフが一人混じっているが何者だ!?」
小隊の隊長らしい男が大声を上げた。
「我々はダークエルフの村に向かう行商人です。皆様こそ一体何者ですか?」
自分で言っておきながら、大根役者丸出しの演技だと思う。
そもそも、ここで千両役者の演技を見せたところで、
「嘘を吐け! 荷馬車もない上に、そんな剣や大盾を持った行商人がどこにいる!」
とまぁ、装備品でバレバレなわけだが、問題はそこじゃない。
「嘘ではございません。その証拠に、皆様にお見せしたい商品があるのです。よろしいでしょうか?」
「そこから動くな」
「ええ、動きませんよ。商品というのは矢の雨ですから」
俺がそう言うと、レスハイム王国の兵たちに大量の矢が降り注いだ。
兵たちの悲鳴が上がる。
むっ、これはマズいな。
俺たちは敵の隊長の前に跳んでいき、矢を剣ではじき返しながら言った。
「俺はニブルヘイム英雄国の王、ジン・ニブルヘイムだ。ダークエルフの兵諸君、攻撃はそこまでだ! こいつらは生きたまま捕らえる!」
「なっ、英雄王――」
敵兵の隊長が俺の正体に気付いて声を上げたが、俺は剣の柄で男の鳩尾を殴って気絶させた。
矢の雨が一度止むが、誰も姿を現さない。
「族長の娘のサエリアです。この方は正真正銘英雄王陛下です! 姿を見せなさい!」
「そういうことだ。全員降りてこい」
サエリアと俺がそう言うと、ダークエルフの弓兵が木の上から降りてきた。
なるほどな。
「俺は王の命令で全員降りてこいって言った。万が一木の上に残っている者がいるのなら、それは敵国の人間とみなして攻撃することになるがいいか?」
俺がそう言うと、さらに五人のダークエルフが降りてきた。
「陛下、このたびは遠路はるばる――」
「そういうのはいい。まずはお前ら、レスハイム王国の兵の生存確認。生きてる奴がいたら、助けられそうなら助けろ。情報を得るために捕らえる。助からない奴は殺してやれ。武士の情けだ」
俺はそう命じるとダークエルフたちはそれに従って動いた。
「お前らのリーダーは?」
「私がこの小隊を纏めていますアルマと申します」
比較的若い――と言ってもダークエルフの年齢は見た目ではわからないが――男が俺の前に跪いて言う。
「現状を説明してくれ。お前らはどうしてここに?」
「はっ。森を巡回していたところ、怪しい痕跡を見つけたため、追いかけてきた結果、ここに来ました」
「レスハイム王国の兵を大森林の中で見たのは今回が初めてか?」
「こやつらはレスハイムの兵なのですか?」
どうやらアルマはこいつらの正体も知らなかったようだ。
ずっと森の中にいたらレスハイム王国の鎧の形や紋章も知らないだろうからな。
「陛下、敵指揮官を含め四名の治療を終えました」
「そうか。じゃあ、そいつらはダークエルフの里に連れて行って、とりあえず牢屋にでも入れておけ。残りの死体は俺が次元収納に入れて回収する」
「感謝いたします。それでは、これから里にご案内を――」
「こんな夜に歩けるわけがないだろ。せっかく家も用意したんだ。俺たちはここで一泊するから、明日の朝、迎えに来てくれ。馬か何かあったら助かる」
「かしこまりました。それでは護衛を何人か残しますので、好きにお使いください」
そう言って、ダークエルフの兵が五人程残り去って、生きているレスハイム王国の兵を担いで里に戻っていった。
鍵を開けて家の中に戻ると――
「ご主人様、なんで戦いが終わって静かになったのに直ぐに戻ってきてくれないんですか!? 外から知らない男の人の声が聞こえるし、なのに誰も全然帰ってこないからすごく心配したじゃないですか!」
アイナに怒られた。
すっかり忘れていたって言ったらさらに怒られた。