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ダンジョンは金になる

 ボスの蛇はそこそこ強い。

 周囲の雑魚蛇、中型ボスの連携、そして大型ボスの強度。

 しかし、ローリエの魔法が、シヴの機動性が、そしてイクサの一撃の力がうまく機能している。俺がいなくても倒せるレベルだ。

 ここにサエリアの広範囲の魔法の威力が加われば――なるほど、いいメンバーが集まっている。

 もしも、魔王と一対一の戦いではなく、イクサと先代の四天王三人が加わり、五対一の戦いを強いられることになったら、コアクリスタルの力がなくても少し危なかったかもしれないと思えるほどに。

「感慨深く思っているときに襲い掛かってくるな」

 片目をやられて突っ込んできた蛇の首を斬り落とす。

 このボス戦、せっかくだから仲間の強さを見るために俺は最低限手を出すつもりだったが、つい首を落としてしまった。

「イクサ、そっちはやれるな!」

「はい!」

 ローリエは、眠っている蛇を一匹一匹丁寧に槍で突いていってるな。

 じゃあ俺は、中型の蛇でも倒すか。

 シヴ――

「はいです!」 

「残りの中型の蛇は7匹いる。どうだ? また勝負するか? どっちが多く倒すか」

「するです!」

「前はルールを明確に決めていなかったからな。今回は致命傷を負わせた数ではなく、首を落とした数で決めるぞ!」

「わかったです!」

「そうだな、俺に勝てたらちょっとしたご褒美を考えよう」

「結婚です!」

「結婚はしない」

「うぅ……」

「その代わり俺の美味しい肉料理をご馳走してやろう」

「勝つです!」

「負けたら、そうだな……シヴの尻尾を好きなだけもふもふさせてもらおうかな?」

「え……勝つ…‥です!」

 シヴ、いま負けてもいいって考えなかったか?


 俺とシヴの再戦が始まった。

 シヴの足は速いが俺ほどではない。

 だが、それでも俺と勝負にやるのは、野生の勘というかその動き。

 適格に最短距離で相手を追い詰めるその力は狩猟の本能とでもいうべきか。

 しかも、彼女は全体の動きを把握し、敵がどの方向に逃げるか、どの方向に襲ってくるかを直感的に理解している。

 もしも彼女がその直感を本能だけでなく理性でも自分でも認識し、言葉に表すことができたのなら、有能な軍師に副官になれただろう。

「勝負はシヴの勝ちです!」

「いや、最後の一匹にトドメを差したのは俺だろ!」

 明らかに俺が先に蛇の真っ二つにした。

 0.03秒遅れてシヴが攻撃を加えた。

 さすがに今回は――

「ジン様が斬ったのはお腹です! 首を落としたのはシヴです!」

「あん?」

 よく見る。

 蛇が三つにぶつ切りになっていた。

 胴体を真っ二つにしたのが俺。

 首を斬り落としたのがシヴだ。

 なるほど――首を斬り落とそうとしたが、0.01秒足りないと踏んで先に胴体を斬り落としたのだが、シヴの奴、ルールをちゃんと理解していたか。

「はぁ、負けだ。くそっ、なんで俺から蛇が逃げていくんだよ」

「陛下の殺気、強すぎるです。蛇が逃げるの当然です」

「あぁ、気配を消すってやつか。戦う前ならなんとかできるが、戦いながら気配を消すとか無理だろ。深呼吸しながら息を殺すようなもんだぞ」

「必要なときだけ気配を出して、あとは消すです」

「理屈はわかるんだがな――」

 気配を出したり引っ込めたりって、意識的にできるがどうしても戦いのときは出しっぱなしになってしまう。

「まさか、ジン様が負けるとは思いませんでした」

 ボス蛇を倒してきたイクサが言う。

「狩りの腕は互角だよ。シヴは俺が出会った獣人族の中でも五本の指に入る腕前だ」

「一騎打ちでは絶対に勝てないです!」

 シヴが言う。なんでそこでドヤ顔になるんだ?

「だいたい、こっちから賭けを提案して勝負する場合は、相手と勝負になると思っているか、もしくは相手をカモにしたいと思ったときだけだ」

 余興で勝負をするときは、腕相撲の準備をして「俺に勝ったら金貨10枚やるぞ!」なんて言って、相手が負けたときの要求は特に何もしない。

 いつも盛り上がる。

 いろんな意味で目立つので王都の冒険者ギルドではやらなかったが、初めて行った町の冒険者ギルドでやれば、一気に名を売る事ができるし、何よりその冒険者ギルドの冒険者の力を把握することができる。

 最初の頃はレスハイム王国からの追っ手にビクビクして隠れて過ごしていたからそんな風に目立つことはできなかったけれど、ある程度自分の力を把握して、どれだけレスハイム王国の刺客が来ても返り討ちできることに気付いたら、怯えて暮らす必要もなくなったからな。

 むしろ、こうして目立った方が割りのいい仕事も見つかるし、変なタイミングで目立って嫉妬されることもなくなる。

「では、俺との一騎打ちに何も賭けなかったのは……いえ、そうですね」

 悪いが、コアクリスタルの力を使わなくてもイクサ相手なら片腕で倒せるくらいの力差があった。

 まぁ、あの時は例え互角の戦いであっても賭けは必要なかっただろう。

 俺に勝てたら王の座を譲ってやるところだったし、俺が勝ったら王の座を押し付けるところだった。

「みなさん、この蛇たちを倒すの手伝ってください! 目が覚めてしまいます!」

「ああ、そうだな」

 一番時間がかかったのは、蛇を殺して回収する作業だった。

 放っておけばいいのではって?

 この蛇は解毒薬の素材として優秀な素材だぞ?

 これらを捨てるなんてとんでもない。


「ん? ここは?」

「ここは奥の魔法晶石の採掘場のようです。どうやら、新しくできた通路は採掘場への近道だったみたいです」

 イクサが地図を見て言う。

 なるほど、これは助かった。

「よし、みんなで採掘して持って帰るぞ。七割は王宮用、三割は商会に流す」

 俺はそう言って、ピッケルを人数分取り出してみんなに配った。

 まだ属性の込められていない魔法晶石は加工されて属性を付与された後、様々な魔道具を動かす素材になる。

 そして高値で売れる。

 これだけ採掘すれば、きっと巨万の富が手に入る。

 これでみんなにボーナスを払うことができるぞ!


「陛下が自由に使える余剰金は既にありません!」

 今日もまた、メイド服宰相補佐のロイくんがそんなことを言ってきた。

 緊張感の募るガーラク砦に陣中見舞いとして酒と食いものでも振舞ってやろうと国王用余剰金――つまり俺が自由に使えて、領収書も必要のないお小遣い予算からお金を引き出そうとしたところで、ロイに言われた。

「なんでだ! 冒険者ギルドには魔物素材を大量に売ったし、商会にも魔法晶石をあれだけ売ったからかなりの額になっていただろ?」

 魔法晶石を商会に売った金は、これまで不当に給料を貰えなかった家臣に褒章という形で送ることにした。アイナに試算を出してもらったが、あの魔法晶石を商会に売った額の半分で十分足りるだったはずだ。

 ちなみに、その試算を出してくれたアイナは、現在死んだように机に伏せて寝ている。俺が取ってきた魔法晶石の使い道について、商人に売る以外の分の割り振りを昨晩遅くまで各部門の代表と話し合っていたからだ。

 魔法晶石の使い道が色々あるのは知っていたが、まさかあそこまで取り合いになるとは思わなかった。先に三割商会に売っておいてよかった――と思ったのだが、その余剰金が無くなった。

「支払わなかった給金でいえばそれで足ります。ですが、不当に昇給を見送られたり減給処分となったり、さらには罰金を命じられていたケースが1,872件ございましたのでそのお金は全部使い切りました。陣中見舞いであるのなら、国庫からお金を引き出しますが――」

「……国庫の金を使うと、領収書の提出とか面倒だし……経理に新しく配属された兎獣人のおばちゃん、めっちゃうるさいだろ? 領収書の日付が抜けてるとか、判子がないとか」

「はい。お陰で不明瞭だった経費の流れが明確になり、不正も大きく減りました。陛下も気に入ってるんでしょ?」

「それはな。国王だからって経費を好き勝手使っていいわけじゃないからな。国王を相手にしてもあれだけハッキリと言える胆力は舌を巻く。ただ……国王が経理部で注意されて謝って領収書を書き直す姿はあまり部下に見せたくないんだよ」

「だったら、酒や食べ物を部下に買いに行かせればいいのでは? それなら領収書の管理は彼らがしてくれます」

「……俺の思い付きに部下を振り回すのも気が引ける」

「陛下は……私やアイナ様には気兼ねなくなんでも言ってきますのに。それは嬉しいんですけどね」

 ロイが照れるように言う。

 非常に女の子っぽい――少年だけど。

「ロイ――他に金になる国有ダンジョン、他にないか? 多少遠くても転移魔法で行くから大丈夫だ」

 暇なときはダンジョンに潜って金を稼ぐのが俺の日課になった。



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