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新しい通路


 コウモリの死骸は羽を落とした状態で次元収納に入れる。

 胴体も収納するが、これはあとでしっかり燃やして埋めておこう。

 そういえば、アイナに出会う前に殺した冒険者の死体もそのままだったので一緒に燃やして埋めよう。

 一緒に埋めたら寂しくないだろう。

 変な病気が広まったら困るので、城から離れた場所に埋めよう。

「狩りは楽しいです」

「そうだな。堅苦しい王様の暮らしより俺はこっちの方が合ってるよ」

「ジン様、王様を辞めてシヴと狩りして暮らすです!」

 一瞬、それも悪くないって思った。

 イクサが隣にいるので流石に口に出さないが。

「イクサは大丈夫か?」

「これは中々得難い経験です。近衛兵の鍛錬メニューに組み入れたら成果が出そうですね」

「ここに来るまでに崖を飛び越えられない部下が脱落するからやめてやれ」

「冗談ですよ」

 イクサは笑わずに言った。

 お前の冗談はわかりにくいって。


 その後もダンジョンの奥に進む。

「この道は地図にはありませんね」

 途中、地図にない脇道をイクサが見つける。

「まだ成長中のダンジョンなんだろう。生まれてから数百年間、ダンジョンは大きくなり続ける。そう言う場所には新しく生まれた財宝が眠っているものだが、その分、発動したり解除されていなかったりと生きている罠もある」

「楽しそうです」

「危険なのでは?」

「そうだな。罠を発見、解除できるレンジャーもいないし、今日はパスだ」

 そういうのはダルクが得意だったんだよな。

 あいつ、大雑把な見た目の割に、細かい作業が得意だったりする。

 きっと、白蟻が好物だからだろうな。

「レンジャーですか……確か、淫魔族の中には魔法を使って罠を感知することに長けた者が多いと聞きます。ローリエなら罠の探知も可能でしょう」

「そうなのか?」

 この時間ならローリエも起きているだろう。

 だったら――


「まさか、陛下に呼び出されたと思ったら、ダンジョン探索に国の王と最高幹部が三人集まっているとは誰も思っていませんよ」

 転移魔法を使って連れてきたローリエが少し呆れたように言う。

「ははは」

 俺は笑って誤魔化した。

 日本で例えるのなら、総理大臣と警視総監と防衛大臣と外務大臣が全員揃って護衛もつけずに登山しているようなものだからな。

「罠の探知は可能です。私の得意分野ですわ」

 ローリエが自信満々に言うので、俺たちは新しくできた通路を進む。

 新しくできた通路はさらに狭い。

 人ひとりがやっと通れるような場所もある。

「宝箱です」

 シヴが宝箱を見つけて駆け寄るが――

「待て」

 俺の言葉に、彼女は金縛りにあったようにピタッと止まった。

「ローリエ」

「はい。罠が仕掛けられていますね。解除致します」

 ローリエの爪が延びた。

 その爪を鍵穴に、そして宝箱の隙間に入れて何か作業をする。

「これで大丈夫です。念を入れて私が開けますわ」

 ローリエが宝箱の蓋を開けた。

 宝箱の蓋の裏には火の魔法晶石が仕込まれている。

 罠の解除もせずに蓋を開けたら炎が噴き出していたな。

 このくらいの罠ならまだ発動させても問題ない。

「宝箱の中身は金貨袋か」

 金貨には闇の世界の肖像画が描かれている。

 この国で出回っている貨幣だ。

 ダンジョンで見つかる貨幣は、何故かその国で流通している貨幣が出てくる。アルモラン王国のダンジョンでもこうして貨幣を見つけたが、やはりアルモランの貨幣が見つかった。

 それらの金は贋金ではなく、しっかり国内で使える。

 日本の紙幣と違って、この世界の貨幣はその金属そのものに価値があるからな。

「ローリエ、この宝箱の中に入っている火の魔法晶石も取り外してくれ。いい金になる」

「かしこまりました」

「罠は解除されているとはいえ、慎重にな」

 ローリエが火の魔法晶石を取り外した。

 中々純度が高い。

 この品質なら売り払わずに国で使ったほうがいいだろう。

 どうせ冒険者ギルドに売ったところで、このような高純度の魔石は国が買い取ることになるから手間賃が増えるだけだ。

 ただの冒険者だったころは、売った素材の行先なんて考えたこともなかった。

 王になると、ダンジョンに潜っていてもこういう面倒事も増えてくる。

 本当に王の立場が邪魔だ。

 ただ、ローリエとイクサの立場もある。

 今すぐ王の座を退位するわけにはいかなくなってきた。

「ジン様、もっと宝箱見つけるです! 元気出すです!」

「ああ、宝箱の中身に文句があるわけじゃないんだ。それより、この先に強い敵の気配がするぞ」

「敵のにおいがするです。いっぱいいるです」

 シヴも気付いていたか。

 イクサとローリエはまだ気付いていなかったようだな。

「さて、元々強い敵が出てくるダンジョン――その最深部の魔物だ。何が出て来るかな」

 ダンジョンを進む。

 この先に広い空間があった。

 そこには小さい蛇がウジャウジャしていて、その中心には双頭の巨大な蛇が眠っていた。その蛇も俺たちに気付き、顔を起こす。

 無数の蛇がこっちに近付いてきた。

 この数は厄介だな。

 極大魔法で殲滅したらダンジョンが崩壊しかねない。

「雑魚は任せてくださいませ!」

 ローリエはそう言って胸元から扇子を取り出して開くと大きく振るった。

 すると、こちらに向かって来た小さな蛇が突然動かなくなる。

 あれは眠りの魔法か。

 淫魔族は状態異常の魔法が得意だというが、この範囲の蛇を眠らせるのは流石だな。

 ただし、中型の蛇、そして双頭の蛇には効果が無いようだ。


「シヴ、中型の蛇はお前に任せていいか?」

「任せろです!」

 シヴが中型の蛇に向かっていく。

「イクサは右、俺は左でいいな」

「はい」

 俺とイクサは双頭の蛇に挑む。

 迫ると蛇が毒液を飛ばしてきた。毒は俺には効果がないが――

「かっ!」

 気合いを入れた覇気で毒液を吹き飛ばすと、左蛇の目に剣を突き立てる。

 左蛇は頭を動かし俺を振り払おうとしたので、俺は剣を突き刺したまま飛びのいた。

「立派なアクセサリーのできあがりだな。なんならもう一本プレゼントしようか?」

 鋳造物の安物の剣だ。

 いくらでも――とは言わないが、予備は十分ある。


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