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はじめての冒険者

 ダンジョンに向かうことになった。

 シヴを誘って二人で遊びに行くつもりでいたのだが、イクサもついてきた。

「イクサって暇なのか?」

「……陛下。俺は近衛兵長です。危険な場所に行くとき同行するのは当然でしょ」

 イクサが呆れたように言った。

「え? でもこれから行くダンジョンは国有ダンジョンだろ? 俺たち以外は誰も入ってないんだよな?」

「はい。普通のダンジョンと違って冒険者はいません」

 だよな。

 ロイに教えてもらったのだが、国有ダンジョンに無断で入ったらかなりの厳罰が処されるという。

「だったら安全だろ?」「だから危ないんです」

 イクサと正反対の意見が出た。

「何かあったときに発見が遅れます。遭難したとき、即座に救援に向かえる人員が限られますし」

「いや、逆だろ。ダンジョンで一番危険なのは魔物ではなく他の冒険者だ。財宝や金になる魔物は有限だ。その数少ない宝を奪い合うんだぞ? 特に発見されたばかりのダンジョンに潜る時は、騙し合い、殺し合い、仲間の裏切りなんて日常茶飯事だ。俺はダンジョンで死にそうな目にあったことが何度かあるが、原因はだいたい他の冒険者によるものだったぞ」

「冒険者と軍は違うです?」

 シヴが首を傾げて言う。

「シヴの言葉が正しい。兵とは仲間同士が助け合い戦う。一人一人は強くなくても集団となれば巨大な力になる。俺も数相手には苦戦を強いられることがある」

「ジン様が負けそうになることは想像できません」

「いや、本当に数は脅威だぞ? 臨時パーティを組んだ冒険者に裏切られてレッドアントの巨大コロニーに閉じ込められたときはマジで死ぬかと思った。三日三晩戦い続けて眠気と空腹と戦いながら、レッドアントと戦い続けたんだ。女王蟻を倒しても一向に敵の猛攻は止まらなくてな。蟻の死骸を組んでバリケードを作り食事と仮眠を摂るスペースを確保するまでは地獄だったな」

 冒険者になったばかりの頃は自重って言葉を知らずに金になりそうな依頼を受けては金にしていたからな。お陰で冒険者としての評価は上がったが、他の冒険者から妬まれた。

 俺を罠に嵌めた冒険者たちには俺以上の地獄を見てもらったので、もう文句は言わないが。

「さて、ダンジョンに行くぞ。捕まれ」

 俺たちは城、そして王都に張られた結界の外に出ると、転移魔法を使ってダンジョンがあるという場所に向かった。

 山の中に入り口があり、兵士の詰め所が併設されていた。

 兵は四人配属されているそうなので、交代で休んでいるのだろう。

 見張りの男が二人いて、ゴブリン族の男が欠伸をして暇そうにしている。

 地球と違ってスマホもないし、本も貴重なこの世界だと暇を潰す道具なんてあまりないだろうからな。

 唯一の娯楽は、仕事終わりの食事と酒ってところか。

 暫く歩くと彼らも俺たちに気付いたらしい。

「何のようだ?」

「このダンジョンに用があってな。これが許可証だ」

「これ本物か?」

「ニブルヘイム英雄国の判子が押してあるだろ?」

「悪いが、魔王国の時の判子しか見たことがないんだよ」

 あぁ、まだそのあたりの引継ぎが終わってないのか。

 困ったな。

「ど、どうぞお通りください」

 隣にいた猫獣人の男が言う。

「おい、何を勝手に――」

「馬鹿、お前は黙れ」

「黙れって変な奴を通したら連帯責任で――」

「このお方は英雄王陛下だっ! お前も魔王さ……魔王が打ち取られたときの映像を一緒に見ただろ!」

「あっ!?」

 ゴブリン族の男は気付いたらしく、姿勢を正して、

「申し訳ありませんでした!」

「いや、いい。職務に忠実な部下だとわかって安心した。ちなみに、中には誰も入っていないな!」

「はい! 猫の子一匹通しておりません!」

 猫の獣人族がそう言った。


 天然もののダンジョンは非常に歩きにくい洞窟のような場所だ。

 場所によっては這って進まないといけない場所もある。

 ここは特に難所が多い。

「この崖を飛び越える必要があるか」

 幅は五メートルはある。

 ロープを張った跡があるが、壊されている。

 崖の底は見えない。

 まぁ、俺とシヴなら落ちたところで簡単に登ってこられるが、こういう谷の底はガス溜まりになっている。

 毒が平気な俺でも酸素がなければ一時間と動けないし、シヴとイクサの場合は下手したら死に繋がる。

「イクサ、飛び越えられるか? 難しいなら俺が抱えて跳ぶぞ」

「シヴは飛び越えられるです!」

 シヴが大きく跳躍した。

 九メートルは跳んだな。

 たぶん、地球の世界記録を上回っている。

「問題ありません。このくらいならば可能です。重装備のまま堀を飛び越えるための訓練をしていますので」

 イクサが勢いをつけて跳躍する。

 六メートルってところか。

 俺もちょっとした溝を飛び越える感覚で、崖を飛び越えてシヴの隣に着地した。

「さて、行くか」

「はい」

「はいです!」

 三人でダンジョンの奥に行く。

 広い道が出た。

 こういう場所にはだいたい――

「来たぞ」

 現れたのは巨大な蝙蝠の群れだった。

「ジャンボバットか。あれは高く売れるからちょうどいい」

「蝙蝠の肉はマズいです」

「ジャンボバットは肉じゃなくて羽の部分が錬金術の素材になるから高く売れるんだよ。だから羽は傷つけるなよ!」

 俺はそう言って、人並みに大きな蝙蝠の首を斬り落とした。

 シヴは俺を倣って綺麗に首を斬り落とす。

 この戦いで一番苦戦したのはイクサだったな。

 斬りかかったところ、蝙蝠が急に体制を変えて羽を傷つけてしまいそうになって剣を引く場面が何度もあった。

 冒険者として戦い慣れていない証拠だ。

 このダンジョン探索、イクサにとってはいい経験になるかもしれないな。


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