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戦場の答え合わせ

 俺たちは崖の上から移動して、ガーラク砦の背後を見える場所に移動する。

 それと同時に、砦側面の城門が開き、騎馬隊が出撃した。

 恐らく、砦正面の敵を両側面から挟撃する目的だろう。となると、正面に敵の総大将ザックス将軍が動いたか。


「これはマズいな」

「ザックス打ち取れば、この戦いはジン様勝ちです」

 シヴが言う。

 いくら敵が多かろうと、総大将を打ち取ればあとは烏合の衆に等しい。

 頭を捥がれた蜘蛛は苦しんだ後に死ぬ運命だ。

 だが――

「正面にいる敵総大将が本物だったらな」

「――っ!?」

 シヴとイクサが顔色を変えた。

「俺の予想が正しければ、本物のザックス将軍はあの伏兵部隊の中にいる」

「まさか――敵の総大将がたったあれだけの数で、しかも伏兵となっているのですか? あり得ない」

「イクサがそう言うってことは、敵の作戦は凄いよな。伏兵っていうのは意外性があればあるほどいいんだから」

 ガーラク砦の後方が見える位置に移動した俺は答え合わせをするように戦況を確認する。

「そもそも、おかしいと思わなかったか? なんで敵軍は直ぐに攻めてこなかった? こちらが準備を終える前に攻める機会はあったはずだ」

「レスハイム王国側も一枚岩ではなかったのではないでしょうか? ジン様は人間の勇者です。人間の勇者と言えば神に遣わされた救世主とも呼ばれる存在ですから、その勇者を相手に戦争を仕掛けるには反対も多かった。その民意を纏めるのに時間がかかった」

「そんなことで戦争は止められないよ。今回の戦争には教会からの援助もあるだろうから、どうせ勇者に魔王が乗り移っているとか、勇者の名を騙る偽物とか言って存在しない筋書きができあがっている」

「じゃあ、なんで戦争が遅くなったのです? 寝坊です?」

 シヴが首を傾げる

「そうだな。シヴの言っていることは正しい。果報は寝て待て。あいつらは寝て待っていたのさ、報告が来るのを」

「報告?」

「ガーラク砦にこちらの増援部隊が到着したという報告だ」

「…………………………………………まさかっ!?」

「どういうことです?」

 イクサも気付いたか。

 まぁ、イクサは俺と違って冒険者ギルドに行かなかったから気付かなくて当然か。

 さて、動くぞ。

 騎馬部隊が森から出てガーラク砦へと突撃を開始する。

「あの先頭の男、強いです」

 これだけ離れた場所にいても、シヴは先頭の騎士の強さに気付いたか。

「あれが本物のザックス将軍だろうな。正面にいるのはザックス将軍の予備の鎧を着ているだけの影武者ってところか」

「でも、数が少ないです。あれだと城門突破できないです」

「そうだな――だが――」

「……っ!? 扉が開いたですっ!?」

 ああ、そうだ。

 内通者が開けたのだろう。

 俺が思い出したのは冒険者ギルドで会った男の台詞だ。

『頭のいい人間は人間族のコミュニティに入るべきだろ』

 人間族のコミュニティ。

 その時は、まぁ、そういうのもあるんだろうって思っていた。

 だが、シヴが冒険者ギルドに行ったときはアーマーベア退治をできる冒険者がいないくらい、冒険者が少なかった。

 俺が倒したあの人間の冒険者は、俺やシヴより遥かに弱いが、それでもアーマーベアを退治するくらいの実力はあった。その彼らがいないってことは、彼らも戦場に行ったことになる。

 しかし、妙な話だ。

 人間族という括りを大事だと語っていたあいつらが、人間との戦争にわざわざ出向くか?

 そこで気になったのが、

 クメル・トラマンとサイショ・ムノダメの密会。

 そして、貴族からの私兵の投入。

 クメルは人間の奴隷を売買を生業として都市長として確固たる地位を築いていた。当然、貴族へのコネも持ち合わせている。

 俺が奴隷の売買を禁止したことにより、貴族たちの中には今回の戦争の私兵の投入に苦労した。特に私兵の少ない貴族は。

 そこで、クメルは誰にかはわからないが持ちかけたはずだ。

 奴隷を秘密裡に融通すると。

 その奴隷こそが、王都にいた冒険者だ。

 もっとも、奴隷と言うのは嘘で、命令するための隷属の腕輪の紛い物だろう。

 そして、ザックス将軍が突撃するタイミングで謀反を起こし、扉を開けさせる。

 森の中を動く怪しい騎馬隊をシヴが見つけるまでは、あくまで最悪の予想でしかなかったんだが、その予想が的中してしまった。

「一歩間違えたら謀反が失敗し、一気にザックス将軍は不利になっていただろう。綱渡りのような作戦だが、しかしそれを成し遂げたんだ。敵ながら天晴だな」


 トラコマイも味方の謀反の可能性については考えて部隊を配置していただろう。

 だが、魔王軍時代から、この国は戦闘奴隷の扱いに慣れ過ぎていたから、奴隷が裏切るという可能性を一切考慮していなかったのだろう。

 こんな奇策は一度限りしか通用しないだろうが、しかしその一度を見事に決めて来た。


「褒めている場合ではありません」

「そうだな。じゃあ、敵の正面に俺たち三人で転移する。シヴとイクサは謀反を起こしたバカたちを制圧。そして、敵総大将自ら来てくれるんだ。相手は俺が自らやってやろう」

 俺の言葉に、イクサとシヴが頷いた。

 そして、三人で後方の城門前に転移をする。


 突然の俺たちの出現に、城門を占拠していた人間の部隊が滑稽なくらいにうろたえた。

「お前ら、どこから現れやがった!?」

 ん? この声、聞き覚えがあるな。

 こいつは――

「お前、冒険者ギルドで見た人間。やっぱり敵だった」

 シヴが声を上げる。

 振り返って確認すると俺が腕を捻って関節を外したマッチョなおっさんだ。

「シヴ……あぁ、うん、もういいや。頑張れ」

 俺が倒せって言う前に、そのマッチョ冒険者の首が巨大化したシヴの手で潰されていた。

「イクサ、お前も頼む」

「はっ、陛下も御武運を」

「おう」

 俺は軽く返事をして、迫りくる騎馬隊を見る。

 このまま突撃されるの面倒だ。

 俺は剣を抜いて、地面を斬った。

 そして、塩田を作ったときと同じように、手前の土を騎馬隊へとぶん投げる。

 土の塊は騎馬隊へと襲い掛かったが、ザックスがその土の塊を自分の剣で両断して突破してきた。

「おぉ、やるね」

 ただ、騎馬隊の動きを止めることには成功したな。

「トラコマイ以外にも貴様のような英雄の領域内の武人がいるとは……とんだ誤算だな。我が名はザックス・ドナント。貴様の名を聞こう」

「俺は――」

 普通に名乗ろうと思って、しかし考えを変える。

「俺の名はジン・ニブルヘイム。ニブルヘイム英雄国の英雄王だ!」

 その瞬間の思い付きで、俺の名がただのジンから、ジン・ニブルヘイムへと変わったのだった。


ありがとうございます。

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