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ガーラク砦攻防戦その2(サエリア視点)

 城壁前の戦いが始まった。

 ゴーレム兵は見事に善戦していた。

 敵歩兵たちの武器である剣や槍は、実際はただの土塊(つちくれ)でしかないゴーレムにはほとんど効果はない。人体にとっては急所となる胸や首を突いても効果はない。人対人、人対魔族との戦いを想定としていた訓練をしていた兵たちにとってゴーレムとの戦いは想定外の苦戦を強いられることになっていたから。

 だが、先程から私は不安を感じていた。

「ザックス将軍の位置を確認しなさい!」

 一人の英雄は戦局を覆す力がある。

 彼の位置を知る必要がある。

 必要ならば、魔力が戻ったものから千里眼の魔法を使うことも視野に入れる。

「敵将ザックスの姿を確認できました! 本体奥中央に! 白銀の鎧は間違いありません」

「え?」

 サエリアは窓から顔を出し、目を細める。

 大きな旗の下に白銀の全身鎧を纏った者がいた。

 敵将の位置としては妥当。

 いつでも前線の戦いに加わることができれば、戦局を確認し撤退の指示を出すこともできる。

 総大将となれば、もっと奥にいたとしても不自然ではなかったが、勇猛果敢と名高いザックス将軍であれば納得ができる。

 でも、不思議にザックスの位置が確認できても私の中で不安な気持ちは消えない。

 私の不安はよそに、戦いはかなり味方が有利な展開で進んでいた。

 雨のように降り注ぐ矢に敵兵は防戦一方。

「……味方の戦力が正面に集まり過ぎている?」

 当初の戦力を考えると、あの矢の数は異常だ。

「敵が正面からの一点突破を狙っているようなので、戦力を集中させているのでは?」

 副官で同じダークエルフのセレナが言う。

 そう、筋は通っている。

 むしろ、正面に兵を集めているからこそ善戦できている。

 トラコマイ殿の作戦は正しい。

 だが、このまま終わるとは思えない。

「サエリア様! 敵将ザックスが前進!」

「――っ!」

 動いた。

 そう思ったときだった。

 側面の城門が開き、騎馬隊たちが出陣した。

 その騎馬隊を率いているのはトラコマイ殿だった。

 両側面から回り込み、一気に決着を着けるつもりのようだ。

「さすがは勇猛果敢なトラコマイ殿ですね」

 セレナが感心するように言う。

 この布陣――セレナの言う通りだ。

 このままいけば早期決着も可能だ。

 だが、本当にそれで終わるのか?

 私はザックス将軍を実際に見るのは初めてだ。

 だが、トラコマイ殿の武勇は聞いている。そのトラコマイ殿が警戒するザックス将軍がなんの策も講じずこのまま敗れるとは――

「この音はっ!?」

 鐘の音が聞こえた。

 背後から敵襲っ!?

 もしかして、正面からの敵は全て囮で、背後からの攻撃が本命?

 しかし、城壁を突破できるほどの軍が背後に回り込み気付かないなんてありえない。

 隠れて動けるとしたら――

「サエリア様! 報告です! 後方より敵が現れました!」

「数は!」

「騎馬の小隊、数は百っ!」

「百? それに騎馬?」

 とてもではないが、ザックス将軍級の英雄がいたとしても城門を突破できるような数ではない。

 ただ、イヤな予感が強くなる。

「背後の守備はどうなっていますか?」

「ベンチャーラ侯爵軍が守備についているはずです」

「ベンチャーラ侯爵軍? 普段は言い訳を連ねて軍の派遣を渋っているあの侯爵の軍ですか?」

「はい。人間の戦闘奴隷を用いた部隊のようです。敵と同じ人間族ですが、隷属の腕輪をつけているので裏切りの心配はありません」

 ジン陛下の命令により奴隷の解放は進んでいるが、貴族が保有する奴隷までは完全に解放に至っていない。

 しかし、戦争に派遣するだけの戦闘奴隷をベンチャーラ侯爵が保有していたのだろうか?

「急報! 謀反です! 後方部隊がベンチャーラ侯爵軍の戦闘奴隷が裏切り、後方の城門を占拠!」

「隷属の腕輪はどうしたんですかっ!?」

「全く効果がないようです!」

「急報! 敵総大将が後方より現れました! 背後より現れた騎士隊を率いているのはザックス将軍!」

 そんな、ザックス将軍は正面に――と思ったとき、トラコマイ殿が正面にいるザックス将軍と刃を交え――落馬していた。

 その衝撃で兜が外れたが、その顔はザックス将軍とは似ても似つかない別人だった。

 はめられた!?

 マズイ。

 トラコマイ殿が不在のこの状況で、ザックス将軍に城内に入られたら彼を止める者は誰もいない。

 そのまま砦内を抜けられ正面の城門が内側から破られたら一気に敵軍が中になだれ込む。

「急報!」

「今度は何ですか!」

「背後の門に援軍が現れました」

「援軍?」

 援軍がいるなんて聞いていない。

 しかし、ザックス将軍を止められるのなら誰でも構わない。

「数は! どこの部隊ですかっ!?」

「数は三名!」

「三!?」

 三千の聞き間違いじゃないかと思ったが、伝令はまるで自分の発言が信じられないうような困惑した表情でこう続けた。

「部隊を率いているのはえ、英雄王陛下です!」


 英雄王陛下――ジン様が自ら出陣してきた!?

「直ぐに向かいます! 第一は私と一緒についてきてください!」

 私はそう言って、事実を確認すべく塔を飛び出した。

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