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ガーラク砦攻防戦その1(サエリア視点)

 私――サエリアは魔法師団を率い、ガーラク砦の防衛に当たっていた。

 ガーラク砦はニブルヘイム英雄国にとって防衛の要となる重要拠点の一つであり、魔王国時代に建城してからは難攻不落と言われた砦でもある。

 ただ、ニブルヘイム英雄国建国にあたり、多くの将がモスコラ魔王国に亡命。

 また、人間の戦闘奴隷解放により戦力不足は明らかだった。

 幸運にもレスハイム王国の侵攻は当初の予想よりも遅く、各地から十分な増援が集まり、その戦力差は拮抗しつつある。

 しかし、それだけで戦争の勝敗は決まらない。

 攻城戦においては守備側が圧倒的有利とされるが、英雄と呼ばれる武将一人の存在の出現により、その状況は一転する可能性もあるから注意しないといけないが、このガーラク砦を守るドワーフのトラコマイもまたその英雄の領域に足を一歩踏み入れている武人であり、このガーラク砦を守り続けた立役者でもある。

 彼らドワーフがモスコラ魔王国に亡命しなかったのは我らニブルヘイム英雄国にとって僥倖と言えるだろう。

「よう、頑張っておるな、サエリア嬢」

 そのトラコマイが城壁の上に訪れた。

 身長は私より僅かに低いが、もともと身長の低いドワーフからしたら長身と言えるだろう。黒を基調としたその鎧は古く、表面には多くの傷が残っているが、それは同時に彼が激戦の中で生き抜いた猛者である証明ともいえる。

 それはいいのだが、彼は瓢箪に入れた酒を飲んでいた。

「トラコマイ殿。作戦中の飲酒はお控えください」

「ガハハ、ドワーフにとってこの程度は酒とは言わん」

「真似をする部下が現れると面倒なんですよ」

「わかったわかった。それでどうじゃ、敵軍の様子は?」


 トラコマイは瓢箪に栓をして腰にぶら下げながら尋ねる。


「部下に千里眼の魔法で様子を見させていますが、いまのところ動きはありませんね。しかし、偵察の報告によると、敵の総大将はザックス将軍だという情報です」

「ザックスか……奴とは何度か差しで戦ったが、あいつが出張って来るのならこの戦い、楽には終わらんぞ」


 英雄の領域に足を踏み入れているトラコマイが一対一で戦って、どちらも生きている。つまり、ザックスもまた英雄の領域にいる武将ということになる。

 この戦いにおいて最も重要なのは、そのザックスの出方となるだろう。

 戦況を見誤ってはいけない。

「サエリア様! バンニ砦の敵軍に動き在り! こちらに向かって進行中です!」

「数は!?」

「約五万」

「サードン砦の敵にも動きがありました! 数も同じく五万です」

「合計十万の軍か。腕が鳴るわ」

「今回の戦い、白兵戦となるのは城壁に上られたときか城門を突破されたときになります。トラコマイ殿が戦うことにならないことを願っていますよ」

「ガハハハ、相手はザックスだぞ? そんな甘い考えは捨てておけ」

 甘い考えか。

 確かに、私には実戦経験が少ない。

 それでも、最良の結果を出す。

「サエリア様、私が城壁正面の指揮をします」

 敵軍の先頭が肉眼でも捉えることができた頃、若いドワーフがやってきた。

 トラコマイの息子のユークテスだ。

「ああ、頼む」

 身分でいえば、サエリアは四大種族の代表であるサエリアはユークテスやトラコマイよりは遥かに上なのだが、戦争においてはその身分の差は無くなる。

「儀式魔法の発動準備を!」

 ユークテスが言った。

 私はそれに従い、部下に指示を出す。

「一、二、四部隊、儀式魔法火の陣の準備! 相手の出鼻を挫くぞ!」

「はっ!」

 三部隊で魔法を詠唱する。

 膨大な魔力を消費する儀式魔法を放つ。

 巨大な火球が飛んでいき、敵兵が最も集まっている場所に直撃した。

「お見事です!」

「自分でも驚いている。塩づくりの賜物だな」

 私は思わず笑ってしまった。

 ユークテスが「塩づくり?」と不思議そうに尋ねた。

「敵魔法来ます!」

 と部下がいったところで、敵の魔法が砦に直撃。

 結界により阻まれたが――

「思ったより衝撃が来て、出力が落ちています。二度目を受けたら結界装置本体にダメージを受けてしまいます。次からは敵の攻撃を魔法で迎え撃ってください」

 結界装置は貴重な上、設置には時間がかかる。

 結界装置にダメージを受ければ、今回の戦いはよくても今後の戦いに影響が出る。ましてや壊れたら大変なことになる。

「わかりました」

 その後は敵の魔法をこちらが迎え撃つスタンスに変更となった。

 その間に敵軍は近付いてくる。

「ここまで敵が近付けば儀式魔法の心配はないでしょう」

 ユークテスが言う。

 儀式魔法は大勢で魔法を発動させるためか、その魔法の命中率は高くない。いま下手に儀式魔法を使えば、味方を巻き込んでしまう。

 だが、相手が儀式魔法を使ってくる可能性がゼロではない以上、魔力の温存は必須。

「弓兵、放て! 敵を城壁に張り付かせるなっ!」

 ユークテスの指示で弓兵が矢を放つ。

 こうなったら本来ならば我々の出番はない。

 だが――

「第三部隊! ゴーレム兵起動!」

『はっ』

 正門前に十体のゴーレムが出現し、正面から来る敵を迎え撃つ。

 土魔法の使い手の魔力を温存しておいた甲斐があった。

 ゴーレムなら味方の矢に当たっても壊れる心配はない。

「サエリア様。このあたりも間もなく危険になります。安全な場所にお下がりください」

「わかった」

 結界では矢は防げない。

 私たちは城壁の塔に移動する。

 ここなら敵の矢が届く心配はないし、戦況の確認でき、必要な時に魔法を使うことができる。

「団長、この戦いは我々の有利のようですね」

「ああ……」

 私は低い声を出して頷く。

 敵はバカみたいな正面突破を狙っているようだ。

 だが、この違和感はなんだ?

 何か見落としている気がする。

 私は塔の窓から外の様子を見る。

 ザックス将軍の姿はまだ確認できない。


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