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開戦と伏兵


 レスハイム王国が宣戦布告をし、国境を越えてガーラク砦に侵攻を開始したと連絡があったのは、俺がシヴとイクサに戦いの準備を命じた五分後のことだった。


「ジン様、準備が整いました」

「いつでも行けます!」


 イクサは軽い鎧に刀のような装備。シヴは小刀二本、そして額当てをしている。

 どちらの装備も黒を基調としているのは、この国が闇の精霊を信仰しているからである。


「ローリエ、お前は城に残り留守を守ってくれ」

「ご主人様、私も一緒に――」

「アイナも残れ。いざという時はこの国を頼む」

「……必ず戻ってきてください。もう戦争で主人を失うのはイヤです」

「わかってるさ」


 俺はアイナの頭に手を乗せて言う。


「さて、急ごう。時間が無い」

「ガーラク砦は難攻不落の要塞都市です。そう簡単に落ちるとは思いませんが」

「そう簡単に落ちるかもしれないから俺が自ら出陣するんだ。ほら、捕まれ」

 俺はイクサとシヴの手を握り、転移魔法を使う。

 転移した先はガーラク砦のすぐ近くにある崖の上だ。

 ここからなら、俯瞰的に戦場を見ることができる。

 ちょうど開戦直後ということで、魔法師団たちの儀式魔法による魔法の打ち合いが始まっている真っ最中だ。

 無数の火の球が敵兵のいる方に向かって飛んでいき、爆炎を撒き散らす。

「派手にやっているな。普段塩作りをやっている奴らと同じ魔法とは思えない威力だ」

「魔法師団が塩づくりをしている国は我らの国くらいなものです。しかし、そのお陰で威力は上がっているようですよ。以前に見た儀式魔法よりも強い魔力の流れを感じます」

 イクサが称賛する中、今度はレスハイム王国軍からの儀式魔法が発動した。

 巨大な岩がガーラク砦へと飛んでいくが、結界魔法が展開されてその岩を結界で受け止めた。

 この世界の砦にはあのような魔力で発動する結界があり、魔法の攻撃を防いでくれる。しかし、それも万能ではない。何度も攻撃を受けると壊れてしまう。

 それを理解しているので、次のレスハイム王国の儀式魔法の攻撃を、同じ儀式魔法による攻撃で撃ち落とす魔力の消耗戦が始まった。

 暫くして魔法が止まる。

「魔法勝負は互角か」

「いえ、魔法勝負は我が軍の勝利ですね」

 出会い頭に一発ぶち込んだが、しかし、それを言うなら砦にも一発食らっている。

 互角じゃないか? って思ったのだが、イクサの言う通りだった。

 城門の前に巨大なゴーレムが現れて、敵軍に向かっていったのだから。

「土魔術師の魔力を残していたのか」

 攻城戦において、城門前で膠着状態に持ち込むことができれば、城壁の上から弓矢で敵兵を射止めることができるため防衛側が有利になる。

 従来の魔法戦とは違うが、サエリア、考えたな。

「敵将はザックス・ドナントですか」

 イクサが敵の旗印を見て言う。

「有名なのか?」

「ええ。敵ながら見事な武人だと聞いたことがあります。私の父も一度苦汁をなめさせられたとか」

 そして、ゴーレムと敵兵が衝突した。

 敵はいまだに城壁に張り付いて梯子を掛けることもできていない。

 圧倒的にニブルヘイム英雄国が優勢に進んでいた。

「ぐるるるるるる」

 シヴが唸り声をあげる。

 ここは戦場から風下に位置する。

 俺にはわからないが、血の匂いに当てられたのだろう。

 獣狼族の嗅覚は人間より遥かに優れているからな。

「落ち着け」

 俺はシヴの肩に手を置いて言う。

「シヴも戦いに行きたいです」

「待て。出番はあるはずだ」

「待つのは苦手です」

 シヴが子犬のような目でこちらを見て来るが、ここで彼女に行かせるわけにはいかない。

 彼女の出番はまだ先なのだから。

「……妙ですね」

 イクサが顎に手を当てて言った。

「言ってみろ」

「敵が正面に集中し過ぎています。一点突破といえば聞こえはいいですが、これでは我が軍も正面に防備を集中させることができてしまいます。ゴーレムの数はそれほど多くありません。それならばゴーレムを避けるように側面や背後からも城攻めをするべきはずです。敵将がザックス将軍であれば猶更です。それと攻城兵器が少ない気がします」

 そうだな。

 普通の戦争ならば不自然ではない。

 だが、これは開戦直後の戦いであると同時に、今回の戦争において最も重要な拠点と思われるガーラク砦の戦いだ。

 一気に敵の城壁の上に攻撃が可能な井闌車(せいらんしゃ)や城壁そのものを破壊する投石機のようなものはこの世界にもあるはずだが、それが一切登場していないのも妙だ。

「魔法師団を指揮するサエリアもこの違和感には気付いているだろうな。とはいえ、敵が来ない以上ゴーレムに側面を守らせることはできない」

「(すんすん)ジン様、あっちから匂いがするです」

 シヴが鼻をぴくぴくと動かし、指差した方向は森の中だった。

 鳥が数羽木々の間から飛び出していく。

 何かが通っているのだろう。

「よく気付いたな。敵の伏兵の騎馬隊か。何故森の中を――」

 イクサが目を細めて言う。

 まだイクサも敵の狙いには気付いていないようだ。

「背後に回る気だな」

「背後に? しかし、騎馬隊の一個隊では城門の破壊も難しいはず」

「城門を破壊する必要がないんだろうな」

 シヴのお陰で敵の狙っている位置がわかった。

 結界魔法のせいで砦の中に転移することはできない。そのため、サエリアに伝える術はない。

 だったら、事が起こるの待つのが一番だな。


 そして、俺の予想はニブルヘイム英雄国側にとって最悪な形で的中するのだった。

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