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レスハイム王国の使者

 イクサとの模擬戦はお預けとなり、レスハイム王国の使者を出迎えるための準備を行った。

 一番緊張しているのは料理長のキュロスだ。

 キュロスは普段は魔族用の料理しか作っていない。人間の王族用の料理を作ったことがない。


「陛下……宮廷料理ってどんな料理かわかりますか?」


 いつもはピンと伸びている自慢の猫髭が垂れている。

 余程参っているのだろう。

 と言っても、俺も宮廷料理は食べたことがない。

 ただ、貴族の料理なら食べたことがある。


「正直、貴族の料理はうまいもんじゃないんだよな。あいつら、肉にも魚にもこれでもかっていうくらいハーブやスパイスを使うのが美味しい料理だって思ってるんだよ」


 高価なスパイスを大量に使うことで、自分たちはこれだけ凄いんんだぞ! というステータスにしている。

 料理は権威ではなく味だというのに。


「じゃあ、自分たちも大量のスパイスを使いますか?」

「いや、いつも通り作ってくれ。俺がそんな飯食いたくない」

「わかりました……陛下。大丈夫……なんですよね?」

「大丈夫とは?」

「戦争になったりしないですよね?」

「相手の出方次第だな」


 俺はキュロスにそう言ったが、既に悪い情報がいくつか入っている。

 レスハイム王国及びその同盟国から多くの兵がこの国との国境沿いに集まってきているらしい。

 周辺諸国には、共同軍事訓練だと伝えているが、集まっている物資の量を考えるとそのまま戦争を仕掛けることもできる。

 明日訪れる使者が何の目的かはわからないが、交渉如何では宣戦布告されてもおかしくない。

 そして、ニブルヘイム英雄国の軍備は決して優れてはいない。

 俺が王になったことで、軍の編成が大きく変わったからな。

 何人かの将軍や幹部クラスの兵が、魔王の息子が領地を支配するモスコラ地方――今はモスコラ魔王国と改名した――に亡命をしたためだ。

 ちなみに、モスコラ魔王国が俺の領土ではない理由が、モスコラ地方は既に魔王からその息子に領地を割譲ではなく譲渡されていたことと、そしてモスコラ地方を加えたらニブルヘム英雄国の国土が世界の半分を超えてしまうからだ。

 なんでも、モスコラ地方を除いたニブルヘイム英雄国の国土がちょうど世界の半分なのだとか。

 まぁ、反英雄王派閥の受け皿になってくれたため、国内に反乱分子の大多数を抱え込まなくて済んだのはよかったとも言える。


 先触れの連絡が入ってから一週間後。

 レスハイム王国からの使者とその一行がニブルヘイム英雄国王都に訪れた。

 謁見の間で彼を出迎える。

 傍にはサエリアとイクサを控えさせた。

 その使者の姿には見覚えがあった。

 俺が召喚されたとき、国王の傍にいた男の一人に似ている気がする。

 そして、それは間違いではなかった。

 その男は立ったまま俺に言う。

「お久しぶりです。勇者ジン殿。レスハイム王国の宰相の一人、サイショ・ムノダメと申します」


 レスハイム王国はニブルヘイム英雄国程ではないが、広大な領土を持つため、四人の宰相がいると聞いたことがある。

 そのうちの一人がこの男か。

 だが、このサイショという男、舐めているのか?

 使者が訪れた国の王を前にして跪かないとは。

「久しぶりだな、レスハイム王国宰相。勝手に故郷から拉致された挙句、騙されて隷属の腕輪を嵌められそうになって以来か」

 俺は皮肉を込めて言った。

「勇者ジン殿は誤解しておられる。確かにあれは隷属の腕輪でしたが、それは勇者であるジン殿の人となりがわからなかったからです。もしも残忍な人間であったことが判明した場合、その勇者を止めるための道具が必要だったのです。あなたが正しい心を持ち、我々のために力をお貸しいただけるのであれば隷属の腕輪の力を使うつもりはありませんでした」

「それじゃあ、魔王を倒したら元の世界に戻れるって言ったのはどうなんだ? 魔王を倒しても元の世界に戻れないじゃないか」

「それも誤解です。魔王を倒したあなたを元の世界に戻す方法はあります。ジン殿を召喚した我々には転移魔法のノウハウがあるのですが、ジン殿を元の世界に戻すには莫大な力が必要です。それを補うのがコアクリスタルなのですよ」

「なるほど。つまり、コアクリスタルの力があれば俺を元の世界に戻せると?」

「はい。そのために、まずはコアクリスタルの権利を我々に譲渡していただく必要が――」

「嘘だな」

 俺はキッパリと言い放つ

「嘘ではございません」

「よく顔色一つ変えずに言えるな。だが、鎌をかけているのではなく俺には俺なりに地球に戻る方法について調べた。結果、コアクリスタルの力如きでは元の世界に戻れないことは知っている」

 コアクリスタルが膨大な力を持っている。この力を使って日本に戻れないかとアイナには既に尋ねていた。

 答えは不可能。

 全然力が足りないらしい。

「悪いが、貴様らにこの国をくれてやるつもりはない」

「後悔致しますよ」

「お前にこの国を譲渡したほうが後悔するよ。話はこれで終わりだ。食事を用意している。どうか召し上がっていってほしい」

「結構です。早急に今回の件を陛下にお伝えしないといけませんので」

 そう言ってサイショは部下とともに去っていく。

 残った俺は、傍に控えていた家臣に言う。

「イクサ、サエリア。戦争の準備をしておけ。国境沿いに戦える人を集めておけ」

「かしこまりました」

「やはり戦争ですか?」

 サエリアが尋ねる。

「相手が攻めてくるとしたら、国内がゴタゴタしている今しかないだろう。あの使者も最初から交渉だけで国を手に入れられるとは思っていない。あくまで開戦前のパフォーマンスだろう。自分たちは勇者と融和を望んだが、無下にされた。勇者は魔族と手を結び我々の敵になったと――まぁ、事実だから否定はしねぇよ。俺は最初からあの国の敵だからな」

 俺は不敵な笑みを浮かべて言った。

 いざとなったらアイナの願いの力を使って相手を退けることができる。

 とはいえ、それに頼り切っていたら彼女の魔力が尽きたとき何もできなくなる。彼女が以前仕えていた古代の王国がそのせいで滅んだように。

 だから、これから起こる戦は極力、アイナの力を使わずに勝つ。

 それも、完勝という形で。


 尚、キュロスが使者にと用意した昼餐の料理は俺と家臣(スタッフ)が美味しく食べた。


ありがとうございました。

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