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森の国の残念姫がいく  作者: あおみどり
カンファンス家の人々
8/24

7話 セリビアの見えるもの

 

 扉が閉まり、私室でひとりになったセリビアは、お茶を飲みながら考えをまとめる。


 耳や目に加え、脳に浮かんだり心で感じる数々のこと。

 情報は常に入ってくるので、あまりの多さに最初は混乱してしまった。

 今は意識してひとりの時間を作り、整理をしている。

 落ち着いて考える時間があるだけでもだいぶ違うものだ。



 上品さと優美さはまさに貴族、セリビアを人々はそう称賛する。

 もともとおっとりした性格で行動や言動がスロー気味。

 見た目の良さと振る舞いの美しさに加え、限られた社交の場しか顔を出さない事が功を奏し良い解釈をされている。

 都合が良いので真実を告げるつもりは今のところない。

 お陰様で何不自由なくカンファンス家の女主人として過ごせてきたのだから。


 そんなセリビアが敏感になりだしたのは嫁いできてからすぐのこと。

 『先を見通す力』が少しずつ強まり、戸惑いながらもゆっくり受け入れてきたが、ララの出産後に飛躍的に高まった。



 森の国は他国とは違い、魔法や不思議な力をもつ者はいない。

 その代わり『先を見通す力』がある。

 他国には知られていないこの力は、森の国でも多くを語られていない。

 まだ解明さえもされていないのだ。


 この特別な力は、気付き、意識を向け、磨く事で更に力が増していく。

 もしかしたら誰しもが持っているが、発揮されずに終わっているのかもしれない。

 せっかく持っている力も、修練しなければ真の力とは言えないのだ。

 代々この力に恵まれているカンファース家だが、ここ100年ほどは強く力を持つ者は出現していなかった。




 強く使える者が全くいない時代もあるけれど、今はセリビアが知る限り、自分ともうひとり。


 わたくしはもともと勘は鋭い方だったけれど、体が弱いこともあり、意識して磨いたことは無いわ。

 嫁いでから強まったのは、聖なる森のご加護をカンファンス家が授かっているからかしら。

 それとも、森とこの力との相性が良いわたくしだからこそ、必要あってこの家に選ばれたのかもしれないわね。


 セリビアは雪に見立てた真白く小さな甘菓子をつまみ、口に運びながら考える。



 『先を見通す力』はセリビアの場合、最初は脳に浮かぶ。

 ただしそれはぼんやりと霞がかかっている様で、さらには幾通りにも道があるように思う。

 その点、次の感覚ははっきりしている。

 好き、嫌い、良い、悪い、面白い、つまらない等、セリビアの直感が重要だ。


 セリビアは脳に浮かぶ道の中からいくつかを選び、ひとつずつ進んだ先を想像する。

 だいたい2、3通りを進んだ先に意識を向け、どう感じるか静かに心に問う。

 今までこの直感を外した事はない。



 聖なる森、それとララ。


 セリビアは閉じていた日記帳を手に取り、新しいページを開く。

 大切な事は走り書きでも残す様にしているので、嫁いでからもう何十冊になるだろう。

 少しざらついた紙質を指で確かめ、目を閉じる。



 さすが国王様だわ。

 きちんとタイミングを鑑みて行動していらっしゃる。

 わたくしの見えることと同じ。

 やはり最初から道は示されているし、もう始まっているのだわ。


 旦那様と国王ご夫妻しか知らないわたくしの力。

 未来のために、今からするべき事を教えてくれているのでしょう。


 柔らかく、ほのかな甘味の菓子を味わった後、自分好みの茶を含みながら結論を出す。



 ララが産まれた時に急激に強まったこの力。

 体が耐えきれずに体調を崩す事が多かったけれど、もうだいぶ慣れてきたわ。


 わたくしに出来ることは、この力を使って場を整えること。

 考えうる危険は取り除き、必要あるものを用意する時間はある。

 何事も準備が肝心。

 そしてその後は進め!だわ。


 ふぅーと息を吐き、日記に思いつくまま書き込む。


 自分の幸せは、自分で手にするものだもの。

 未来のために一歩ずつ進まなくてはいけない。



 まずはそうねぇ、旦那様と近々お話しましょうか。

 ふふふ、旦那様は渋るでしょうが、しょうがないのよね。


 セリビアはシダーの反応を予想して、思わず笑みをもらす。


 あの方は家族愛で溢れている。

 わたくしはあの方と結婚できて本当に幸せだわ。

 ただし、だからこそわたくしの話を聞いて難色を示されるはず。

 それも強くね。

 ローアンとプラネラにも手伝ってもらいましょう。

 旦那様の説得には、あのふたりの協力が不可欠だものね。



 自分のものとは思えないほどの乱雑な文字を眺め、日記帳を閉じたセリビアは笑みを浮かべる。


 今はやる事は多いが、大きな動きは先のはず。

 ひとつずつ順序立ててやりましょう。

 皆の笑顔のために物事は進むのだし、その為にわたくしはこの力を授かったのだもの。

 なにはともあれ、旦那様に納得していただかないとね。



 ふふふ。

 なんだか楽しくなってきたわ


 お茶を飲みきり、自然と心から笑みが溢れる事に気付く。


 旦那様ったらどんな反応をするかしら。

 気付かないふりをしていらっしゃるけど、何かしら感づいているはずよ。

 旦那様の困ったお顔も可愛らしいもの。

 楽しみだわ!


 知る人はあまりいないが、セリビアは本来、おっとりとして些細な事を気にしない。

 そうしていたずらっこの気質があるのだった。

 

 


 

 






お読みいただきありがとうございます。


面白い、続きを読みたい、と思った方はぜひ!

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