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森の国の残念姫がいく  作者: あおみどり
カンファンス家の人々
7/24

6話 プラネラの心配

 

「何か面白いものでも見つけましたか? 」


 窓の外をじっと見つめるセリビア様にお声をお掛けします。

 つい先程までは難しいお顔でしたが、柔らかな微笑みを浮かべていらっしゃるご様子。

 すると、外からホーリー様とララ様の楽し気な笑い声が聞こえてきます。


「まぁまぁ! ホーリー様が笑っていらっしゃる?」

「あの子が声をあげて笑うなんて珍しいわねぇ」

「ええ、奥様。驚きました!」


 珍しい事もあるものです。

 氷の君との呼び名があるほど、ここ数年のホーリー様は無表情が板についていらっしゃいます。

 次期当主としては相応しいのかもしれません。

 けれどホーリー様はまだ15歳。

 子供らしく過ごせるのは残り少し。

 貴重な今この時を楽しんで欲しい、と旦那様、特にお優しい奥様は願っていらっしゃるはず。


 ふふと笑いながら、セリビア様がソファーへ戻られるタイミングに合わせ、お茶の準備を始めます。

 光が窓から射し込み、部屋を照らしています。 

 セリビア様のお顔の色もだいぶ明るくなったのを確かめ、心からほっとします。



 この国の国民は勤勉で温厚と言われています。

 四季があるとは言え、比較的過ごしやすい気候。

 農業や酪農、漁業が盛んで豊富に食べ物があり、そのお陰で商いも盛んです。

 国が安定している事で、人口の多い王都ですら穏やかな雰囲気なのは素晴らしいことです。


 私が長年仕えるカンファンス家は家族仲が非常に良く、同じように使用人との関係も良好です。

 常日頃、使用人を家族の一員だと口にしてくださるシダー様とセリビア様の元で働けるのは幸せなこと。

 なんとかこのご恩をお返ししたいと日々働かせていただいています。


 侍女長としての仕事は多岐に渡ります。

 この屋敷で働く女性使用人をまとめるのはもちろん、ご家族皆様の状況は常に把握し、執事のローアンさんと連携を取ります。

 ローアンさんとも長いお付き合いですので、阿吽の呼吸で打ち合わせにそう時間は必要ありませんが、小さな事でも逐一報告し合っています。

 ご家族をお守りする事が最重要との認識は同じですので、ローアンさんや他の使用人とも上手くやれていると思います。


 私は特に、嫁いでいらした時からお側で仕えているセリビア様をお守りしたいという意識が強く出てしまいます。

 華奢で儚げな外見でいて実はとても芯がお強い。

 旦那様を立てながらも、この家を本当の意味で動かしているのはセリビア様だと感じます。

 その分ご負担も多いでしょう。

 周りに対する配慮がとても繊細なお方ですので、気を遣い過ぎて体調を崩される事があります。

 大抵は休息を取っていただく事で回復していますが、未然に防ぐためにもご無理はしないでいただきたいのです。

 ご一緒の時くらいはゆったり穏やかに過ごしていただけるよう、動作のひとつひとつや話すスピードにも気を付けています。


 「次はララの誕生日ね」

 「早いもので、ララ様はもう5歳になられますね。 お産まれになったのが懐かしく感じてしまいます」

 「あの時は大変だったわ」

 「あの時は本当に心配しました」


  同時に口にした言葉に、顔を見合わせ笑いあう。


「そうだったわね、あれからもう5年。 ララはすっかりお転婆さんね」

「まぁまぁ! 毎日元気でよろしいことです」


 茶葉を入れた茶器にお湯を注ぎティーカップへ。

 3回繰り返し、もう一度茶器に戻す。

 5分程蒸らしティーカップへと注ぐ。

 セリビア様の好きな茶葉は、どっしりと深みのある冬のお茶。

 少し余分な手間暇を掛けるとより美味しくなるため、少しお待たせしてしまいますがこの手順でやっています。


 ララ様の出産後は本当に大変でした。

 セリビア様は一度も目を覚ます事なく、なんと3日間も眠り続けてしまわれたのです。

 聖なる森のご加護をいただいていると分かっていても不安を隠せないシダー様のご様子や、産まれたばかりのララ様とお子様達のお世話に没頭した事が思い出されます。

 久々の出産は相当お体に負担があったのでしょう。

 目覚めた奥様の神々しく、晴れやかなお顔は今でも鮮明に覚えています。



「お待たせしました」


 お茶と冬の茶菓子をテーブルにセットして話題を変えます。


「カトレア様のお勉強はこれまで通りで宜しいですか?」

「そうね、問題ないわ。 アルナイト様とお話して気持ちが落ち着くはずですもの」

「後でお連れいたします。 この件は奥様が直接お話されますか? 」

「そうね、そうするわ。 いつもありがとう、プラネラ」


 ピンクグレーに金の縁取りをしたティーカップを持つセリビア様がこちらを向き、優雅に微笑みます。

 いつもの涼やかでおっとりした声音です。

 ここ数日は考え込むことが多いご様子でしたが、お子様達の明るいお顔をご覧になってだいぶ気を楽にされたようです。


「では奥様、一旦失礼致します」

「ええ、お願いね」


 セリビア様の私室を出て、次の部屋へ向かいます。

 さて、カトレア様の件、万事うまく運ぶように進めましょう!








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