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森の国の残念姫がいく  作者: あおみどり
カンファンス家の人々
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4話 カトレアのうたた寝

 

「お姉様!」


 どれくらいの時間、このベンチに座っていたのだろう。

 カトレアはララの元気な声に顔を上げ、駆け寄ってくる小さな妹へ目を向けるる。



 「ララ、ひとり? 遊びに来たの?」

 「うん、ひとりで来たの。ぽかぽかしているから、ここで日向ぼっこ!」


 カトレアは温室内の木々の隙間から差す光に気付いてはっとする。


 「本当だわ。今日はとても気持ち良いお天気ね」

 「そうなの〜お姉様! 一緒に日向ぼっこしましょ!」


 カトレアの隣に座り、ララは大きく手を上げ足を伸ばしのびをする。


 「お姉様ものび〜ってしてね。のび〜!」

 「のび?」

 「そうそう、のび〜! のび〜ってするとね、お日さまも森のみんなも喜ぶんだって。このご本に書いてあるの」


 差し出された、空色と大きな木が描かれている絵本をカトレアは手にする。


 ああ、懐かしいわ。

 表紙を撫でながら、ララと同じ歳の頃に読んだことを思い出す。

 森で遊ぶ子やうたた寝する子が、ちょっとした可愛いイタズラをされるお話。

 大きな木に、赤やピンク、黄色やオレンジのお花がいっぱい咲いている絵がとっても好きだった。


 「お姉様とのび〜てして嬉しいな。ララね、お姉様と一緒に遊びたかったの」

 「私と一緒に遊びたいの?」

 「うん! お姉様と遊びたいの。だってずっと待ってたから」


 え、と首を傾げるカトレアにララは話し続ける。


 「お姉様のお勉強が終わったら、遊んでくださいってお願いしましょうって。ベルといっつもお話していたの」


 無邪気に一生懸命話す可愛いララを見ていると、無性に泣きたくなってしまう。

 今日は先生のお話が何も頭に入らなかった。

 勉強するがとても苦痛で、その場に居たくなくて。

 先生が席を外した隙に逃げ出してしまったわ……。

 堪えきれず涙が溢れ出たがそのまま動けずにいると、ララが手を伸ばしてくる。


 「お姉様、よしよし。大丈夫ですよ〜」


 ああ、そうだわ。

 小さい頃にお母様やお父様、お兄様がよくこうしてくれた。

 優しく優しく何度も頭を撫でられて、暖かい気持ちになったわ。


「お姉様の綺麗なお目々から涙がいっぱい出ていますよー。綺麗ですね、木もお花も喜びます」


 されるがままのカトレアはふと思い出す。

 そうだわ、あの絵本。

 森で迷子になった子供が泣き出して、綺麗な涙が森の中心まで流れ着く。

 大きな木と花はすごく喜んでゆらゆら踊り。

 泣きつかれた子供は、花や木が歌う子守唄で寝てしまう。

 そしてその後は……



 「お姉様、お誕生日は嬉しかった?」


 ララの言葉で、カトレアは意識は現実へ戻る。

 そうして王城へ行ったあの日を思い出す。


 あの後、お父様に即されてそのまま屋敷に戻ったけれど。

 ダイニングにたくさん並んでいたご馳走も、皆からのお祝いもあまりよく覚えていない。

 あの日から気が付くとどきどきして、あれこれと考えてしまう。


 アルナイト様は、いつも素敵なご令嬢とご一緒だとお父様やお兄様に聞いていたのに。

 それなのに結婚?

 私がアルナイト様と……?



 温室の木々と花達がさわさわと心地よい音を奏で、カトレアの瞼が落ちてくる。


 アルナイト様が大好きだった。

 お兄様と一緒にいると、私とも遊んでくださったわ。

 優しくて素敵で、知らないお話を教えていただくのが楽しくて楽しくて。

 大人になってからもアルナイト様とお話をしたくて、勉強を頑張ろうって決めたんだったわ……。




 ◇◇◇




 「おふたりご一緒です」


 ベルはほっとして、温室の入り口にたどり着いたホーリーに小声で伝える。

 先に進むと、ベンチに寄り添い眠るふたりが見える。


「後は君に頼んで良いかい? 少しは時間があるのだろう?」


 ホーリーは背後にいる友人に目をやり、ひと言かけた後ララを軽々と抱き上げる。


「邪魔者はいないからね。茶の用意をさせるので、ちゃんと話し合うといい」

「では私はカトレア様のご無事を皆に伝えて参ります」

「あぁベル、頼むよ。ララは僕がちゃんとベッドまで運ぶから」



 まぁ、この絵本!

 ホーリーが温室を出ていく姿を見送り、持参したブランケットをカトレアに掛けようとしたベルは、膝の上にある絵本を見つける。

 開かれた最後のページはそのままに、ブランケットを整え、距離を取って佇む客人に礼をする。

 心配そうな客人がカトレアの側へと移動したことを確認し、音を立てないように温室を出る。



 (両手いっぱいの花束を抱えていらっしゃるなんて素敵! まるで王子様だわ〜。 ん?本物の王子様に 『まるで王子様』って変よね)


 思わず出た笑いを堪え、ベルは急ぎ侍女長室へ向かう。

 ララと違い、カトレアが行方不明なんて初めてのこと。

 屋敷内はちょっとした騒ぎになっている。

 でもこれで大丈夫。

 だってララ様の絵本の通り、ハッピーエンドだもの!



 目を覚ますと会いたい人が目の前にいるのよね。

 あの絵本ではプレゼントを抱えた母親を見つけて幸せな誕生日を祝うのだけど。

 大きな花束を抱えたアルナイト様を見たカトレア様はどんな反応されるのかしら。

 あ~素敵過ぎる!!
















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