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森の国の残念姫がいく  作者: あおみどり
北の町へ行こう
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23話 ララの習い事.2

 

 土いじりは気持ちがいい。

 ミントの葉を良い長さで切り取っていく。

 持って来た大きめの籠はもういっぱいだ。

 ララの回りは爽やかで涼し気なミントの香りで包まれる。


 目一杯ミントの香りを吸い込みのび~とすると、つい先程まで頭を悩ませていたいくつもの計算式から解放される。


 経済の勉強は好きではない。

 数字がたくさんある計算はまだまだ苦手だけれど、先生は理解するまで根気強く付き合ってくれる。

 春から家庭教師としてカンファンス家に通うエンス先生は少し厳しいけれど、話上手な紳士だ。

 ララの質問はあちこちへと散らばるが、幾通りもの方法を示し最善の道を教えてくれる。


 そうして細かい数字を俯瞰的に見るようにララを誘ってくれる。


 数字にする事で、知らずにいた良い部分や小さな問題が表れる。

 それを元に人々や町、国にどう影響を及ぼすか、未来を創造するには何が必要かがイメージする。


 そんな物の見方があるのだ、と初めて知った時は本当に感動した。

 知らない世界は果てしなく広がり、興味深い。

 もっと知りたい、勉強したいと願いの強さは増す一方だ。



 庭とその先の森は、朝食の前や勉強の合間に欠かさず訪れている。

 花や木に囲まれ、カチコチだった肩の力が抜けほっとする。

 ララは地べたに座り、もう一度のび~をする。


「おや、ちい姫様。 今は休憩時間ですかな」


 座っているララは、空に向けて伸びたミントの背丈より低い。

 葉の間から顔を出し見上げると、夏の眩い日差しが目に入る。


「もうすっかり夏ね、ノズ先生!」

「そうですなぁ、ミントが大きくなり過ぎましたな」

「そうそう! ノズ先生の言った通り」


 真夏の太陽を浴びた葉は固くなり、大きくなり過ぎると香りも弱くなる。

 そうなると食用には向かない、と先週教えてもらったばかり。


「そんなに摘んでどうするんじゃ?」

「お父様とお母様が王城からお戻りだから、お風呂用にと思って」

「ふぁふぁふぁ、よくお行きになったのぅ。 シダー様は相変わらず駄々をこねたのじゃろ?」

「朝から行きたくないって大騒ぎだったのよ……」


 朝の様子を思い浮かべ、ララは苦笑する。


 仲良しのアルマクおじ様に会えるのに、どうしてあんなに嫌がるのかしら。

 その横でお母様は落ち着いて笑っていたけれど。

 なぜそんなにお城へ行きたくないのか、今度聞いてみよう。



「きっとお疲れだろうから、ミントの香りで癒やされるかな?と思って」

「お優しいのぅ、ちい姫様は。 それに話し方も仕草もすっかり大人になって」

「えっ! 何か変わったかな?」

「そうですなぁ、もうちい姫様とは呼べませんなぁ」


 ララは立ち上がり、ワンピースのスカートをぽんぽんと軽く叩き埃と土をはらう。

 スカートを両手で持ち上げ軽く膝を曲げ礼をする。


「ご機嫌よう、ノズ先生。 ちいで良いのよ、特別にいつまでも」

「ふぁふぁふぁ、なんと光栄ですなぁ」

「ノズ先生はいつまでも私の先生だもの。 私もいつまでもノズ先生のちい姫でしょう?」


 くしゃくしゃの笑顔の中で細められた目は真っ直ぐにララに向く。

 ふたりは声を出して笑い合う。 

 ララはノズ先生とのこういう時間が大好きだ。


 土を触り、植物のお世話をして成長を確認する。

 旬の季節になり、良い頃合いに収穫する。

 単純で変わり映えがないようだが、緻密な計算と繊細な気遣いが必要とされる仕事だ。

 特にカンファンス家の庭には、他に類を見ない物が多々ある。

 長年受け継がれ、常に加わる知識と経験。

 森の国の森を護る者カンファンス家。

 庭師長を勤め上げたノズは、その膨大なデータを全て把握している。



「さて、このミントはどうするつもりですかな?」


 愛弟子に優しく声を掛ける様は、すっかり好好爺だ。


「えーとね、お風呂に入れようと思うのだけど、どうかな?」

「いいですなぁ。 シダー様はきっと心身ともにくたびれているはずですからなぁ」


 ふぁふぁふぁ、と笑い続ける。


「カッカしておるでしょうからなぁ。 熱を覚ます為にもミント風呂は良い案ですな」

「お父様って、アルマクおじさまにだけプンプン怒っているよね。 お仕事している時は格好良いし、屋敷ではとっても優しいのに」

「はて、ちっちゃい頃からですかなぁ。 あのおふたりは何も変わっておりませんなぁ」

「仲良しってことかな?」

「そうですのぅ、気が許せる相手とずっと一緒とは羨ましいことですなぁ」


 ララははっとする。

 自分にだけ、同じ年の仲良しがいない事に気付く。

 お兄様はアルナイト兄様。

 お姉様は、今は他国にいて離れているけれどミアプラリー姉様。

 お父様もお母様もおじさま、おばさまと仲良しだけど……私はこれから仲良しが出来るのかな?


「枕にもミントを入れるとどうですかな?」


 考え込んでいるとノズ先生の声に我に返る。

 はっと顔を上げると、優しく細められた目が見つめている。


「枕のひとつにミントを入れるのじゃ。 頭がクリアになってすっきりになりますなぁ」

「えー! ありがとう、ノズ先生! お父様もお母様も喜ぶと思う!」

「ふぁふぁふぁ。 これきしお安い御用ですなぁ」


 ミントの効能と他の利用法について質問すると、次々と答えが返ってくる。

ノズ先生の話は面白い。

夢中になって聞いていると、不意に後方からする男性の声に気付く。

 聞き覚えのない声だが、ノズ先生は惚けた様子で呟き肩をすくめる。

 はぁはぁと息を切らし近寄る男性を確認し、しょうがないと溜息をつく。


「そうだったわ、あやつを忘れておったのぅ」









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