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森の国の残念姫がいく  作者: あおみどり
森へ行こう
22/24

21話 兄と妹たちで朝食を

 

 とても良い夢を見た気がする。

 ふわふわと雲の上にいるような感覚のまま、ララは目を覚ます。

 まどろみながら夢を思い出そうとするが何も浮かばない。

 諦めて身を起こすと、ちょうどベルが部屋に入って来るのが見える。


「ララ様、おはようございます。 今日のお目覚めはいかがですか?」

「おはよう、ベル! すっごくイイ夢を見たんだけど忘れちゃったみたい」

「あらあら、残念ですね。 お目覚めが良いようで良かったです」


 ララは大きくのび~をしてベッドを降り、バスルームへと向かう。

 丁寧に顔を洗い歯を磨き、髪を梳かす。

 鏡には翡翠色の瞳がじっとこちらを見つめている。

 いつもと同じ顔。

 12歳になったからといってすぐに大人になれた訳ではないと分かり、少しがっかりする。


「ララ様、お手伝いする事はありますか?」

「もう出来たよ、ベル。 いま行くね」


 いつもと同じく、ベランダで目覚めのお茶を飲む。

 空は聖なる森で見た淡青色より少し青みが強く柔らかく感じる。

 朝日が昇ったばかり。

 ご飯の時間にはまだ早い。


「今日から始まるお勉強は9時半からだよね?」


 今日からは新しい家庭教師の先生が来る予定だ。

 学園で学ぶ学科全般、淑女教育、それと護身術。

 張り切るララに、ベルはセリビアから言われた予定を伝える。


「本日はホーリー様とカトレア様とのお時間に当てるよう、奥様から言付かっています」

「え? お勉強じゃないの?」

「それが本日のお勉強だとおっしゃっていました」

「えー、嬉しい!! すごいね、忙しいのに時間を作ってくれたのかな」


 小鳥の囀ずりはララの喜びの声と同じく大きい。

 朝の賑やかな合唱で、屋敷の者が全員目覚めてしまうのではないかと思う程だ。


「昨日のお話を詳しくお聞きになりたいそうですよ」


 昨日のこと……?

 一瞬何の事かと首を傾げるが、はた、と籠に入れっぱなしの物に気付く。

 そうだ、すっかり忘れていたけど、あれをプレゼントすると喜ぶかな?

 森の物だからお兄様は興味があるだろうし、綺麗な石はお姉様も好きかもしれない!

 朝食の時間に合わせてふたりが来る事を聞いたララは、俄然わくわくし出す。


「えー、すぐだね! ララ準備しなくちゃ!」


 走ってベランダから部屋へと戻るララに、ベルが選んだワンピースがクローゼットの前に掛けられている。

 輝く春の色は、ララにぴったりのオレンジ色だ。



  ◇◇◇



「おはよう、ララ」

「お姉様、早ーい! おはようございます」

「早起きして城を出て来たのよ〜初めてだったので楽しかったわ」

「よくアルナイトが許したなぁ……大変だっただろ?」

「あ、お兄様! おはようございます」


 中庭から繋がるサンルーフから入って来たホーリーは、研究所からの道すがら摘んできたララの花を妹ふたりに手渡す。

 黄色とオレンジのラナキュラスは、蕾から少し花の色を覗かせている。

 あと数日で花開きそうだ。

 家族から愛称で呼ばれているが、ララの正式名はラナキュラス。

 輝かしい春の花から名付けられた。


「お兄様の花選びはいつも絶妙ですわね」

「そうだろうか。 お、美味しそうな朝食だな」


 かつて子供部屋として使われたこのサロンは、今でも遊び心が散りばめられた3人の隠れ家的な部屋だ。

 絵本や遊び道具が棚に並べられ、いつでも取り出すことが出来る。

 怪我をしないように靴を脱いで大きなラグの上を歩く決まりもそのままだ。


 カトレアとララはラナキュラスの花をベルに渡すと、中庭がよく見える位置に椅子を移動させる。

 サンルーフに置かれたテーブルの中央にはフレッシュハーブのサラダ、チーズとナッツ。

 ハム、ベーコン等の加工肉。

 シロップ漬けで保存されたフルーツがいくつか。

 籠には焼き立てのスコーンと柔らかそうな丸パンが山盛りだ。


 それぞれの前にあるプレートには、ホーリーの目玉焼き、カトレアのオムレツ、ララのスクランブルエッグ。

 卵の好みは見事に違うが、その横には3人の好物フレンチトーストが乗せられている。

 ベルは紅茶とミルクをセットし、ラナキュラスを花瓶に射してテーブルに飾る。


「フレンチトーストはララ様お手製ですよ! ずっと練習されていたので、どうぞご感想をお伝えくださいね」


 ベルがホーリーとカトレアに誇らし気に伝えると、ララは顔を真っ赤にして慌てる。


「えっ! ベルー、内緒にしてって言ったのに! まだ自信がないのにぃー!!」

「あら、美味しそうよ、ララ」

「ララが作る物は何だって美味しいだろうに、何で恥ずかしがっているんだぃ?」

「だってスランみたいに上手に焼けないの。 難しいんだもん」

「凄く美味しそうよ、ララ」

「そうだよ、ララ。 食べても良い?」


 ふたりはバターの香りに包まれたフレンチトーストを上品にナイフで切り分け、ゆっくりと口に運ぶ。

 じゅわっとミルクを含むパン生地は、軽いスパイスと自然な甘みを感じる。

 濃厚な卵とバターでコーティングされた表面はカリッと焼き色がついていて、食感も素晴らしい。

 じっくりと味わい、もうひとくち。

 その様子を見つめるララは珍しく緊張し固まっている


「美味しいよ、ララ」

「ええ、本当に美味しいわ」


 ふたりの言葉にほっとして、ララもフレンチトーストに手を出す。

 不安そうにひとくち食べ、次の瞬間ぱあっと明るい表情に変わる。


「美味しいだろ? ララ」

「うん、美味しい! 上手に出来て良かったぁ」

「ララが早くから私達の為に作ってくれたのよ。 美味しいに決まっているの」


 にっこりと笑うカトレアは、優しくララを見つめる。

 ホーリーは食べ続ける手が止まらない。


「人を想って作られた物はそれだけで心が暖かくなるわ。 ララにも分かるでしょう?」

「焼き加減も完璧だよ、ララ。 おかわりあるのかい?」


 ベルは残りのフレンチトーストを保温皿からホーリーのプレートへ乗せる。

 カトレアももうひとつ、と目配せしている。

 ふたりの好物を一生懸命に作ったララからはバターと甘い香りがする。

 ホーリーとカトレアは、それだけで幸せな気分になるのだった。





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