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森の国の残念姫がいく  作者: あおみどり
森へ行こう
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20話 カンファンス家の会議③

 

 誕生日の夜は更け、主役は幸せそうな微笑みを浮かべ眠りについた。

 これからが大人達の時間だ。


「淡雪の花だって!?」


 アルナイトはつい大きな声を出してホーリーの話を遮ってしまう。

 他からは感嘆や溜息が漏れている。

 そちらに目をやると、やれやれと腕を組む国王とシダー、ふふふと微笑むセリビアと困惑気味のカトレア。

 王妃はお茶に夢中で、話すら聞いていない様子だ。


「え、驚いているのは俺だけ!? みんな知っていたの?」

「驚きのあまり、俺って言っちゃってるぞ。 良いのか? 皆の憧れの王子様」

「皆の憧れはカトレアだから大丈夫だ。 それに今は家族の団欒なんだから、品行方正な王子でいる必要はないだろ?」

「いつもご苦労様! アルナイトちゃん」

「母上……俺はもう22歳ですよ……」

「ほんっとうに、しっかり者のカトレアちゃんがお嫁に来てくれたなんて奇跡だわ! あなた、これからも大事にしなくちゃダメよ」

「全くなぁ、私の助言が無ければプロポーズのタイミングすら逃していたヘタレ具合だろう? 飽きられないようにな、息子よ」


 いつもの王族家族喧嘩が始まる前に、とホーリーは本題に戻そうと話を遮る。

 今日中にこの話を伝えて、皆の了承を得ないといけない。

 脱線する時間はないのだ。


「ララが持ち帰って来た淡雪の花は5株。 ノズ爺がハーブ園の奥にある小川の手前で育てたいと言っています」

「ノズ爺は何と行っているのだ?」

「聖なる森がララに持たせた物には意味があるはずだと」

「どんな意味なのだ?」

「そこまでは分かりませんが、未来にとって良い意味があるはずだと言っていました」


 ホーリーの言葉を聞き、シダーは無言になる。

 目を瞑り大きく息を吐く。


「ノズ爺に任せよう。 あれの直感は馬鹿にできないからな」

「ふむ、ノズ爺も仕事が出来て若返るな!」

「ふふふ、そうですわねぇ。 まだまだ老け込むお歳ではないですもの」

「アルマクもセリビアも異論はないのだな?」


 悪い兆候は見えていないのだろう。

 頷くふたりを見てシダーは安心すると、今まで聞き役に徹していたカトレアが口を挟む。


「お義父様、お母様、ララに危険はないんですね?」

「はは、ララの色は相変わらずだぞ! 好奇心たっぷりで楽しそうに輝いておる」

「そうねぇ、これから学ぶ事がたくさんありそうね。 忙しくなりそうだけど、危険な感じはしないわねぇ」

「それにまだあるだろ?」


 アルマクが豪快に笑いながらホーリーを見つめて問いかける。


「まだ、とは」

「ホーリー、明日にでもララと話す時間を取った方が良いぞ」

「え、確かに森から戻ったララとはゆっくり話せていませんが」

「ははは、光る物はひとつでは無いぞ!」


 ホーリーは淡雪の花にばかり気を取られていた事に気付く。

 なんて事だ。

 顔色が蒼白に変わり、珍しく慌てた様子を見せるホーリーに気付きアルナイトが続く。


「ホーリー、俺も一緒にララの話を聞いても良いか?」

「アルナイト?」

「淡雪の花だけでも、使いようによってはこの国を左右する力があるだろ? 他にもあるならば大事だ。 この国の未来のためにも俺を同席させて欲しい」

「まぁ、立派になりましたね、アルナイト様」

「あら、アルナイト。 それは素晴らしいけれど、あなた明日は公務があるはずよ」


 母親ふたりの反応に、照れながらも頭の中で明日のスケジュールを確認する。

 明日は朝から宰相と隣国の使者についての会議、次いで東の町へ事業の視察。

 むむ?


「アル、代わりにわたくしがララのお話を聞いても良いでしょうか?」

「カトレア〜」


 美しい妻の言葉に、先程までの凛々しい姿が一気に崩れてしまう。

 ふむ、いつものアルナイトだ。


「さすがカトレアちゃんだわ! あなたの予定は大丈夫?」

「はい。 明日は隣国の歴史と語学のお勉強ですが、先生にお願いして変更していただきます」

「カトレアは優秀だからな、問題ないだろう」

「ありがとうございます、お義父様、お義母様。 久し振りに兄妹で話が出来ると嬉しいです」

「なんて優しいんだ。 ありがとう〜カトレア」


 助け舟を出しながらも控えめに主張する優しい心遣いに、アルナイトは礼を言いカトレアの手を握る。

 周りは生温かい視線を送るが、話を進めるべくホーリーは告げる。


「いったいどんな話が飛び出すんだ。 聖なる森へ初めてひとりで行ったというのに、僕の妹は急ぎ過ぎじゃないか?」

「今までお主達は見た事がないのだろう?」

「僕は淡雪の花畑も、翡翠の泉もたどり着いた事がありません」

「私もだ。 いま生きている者で見た者はいないだろう」

「絶滅したはずの淡雪の花が聖なる森になぁ」

「本当に翡翠の泉があるのね……」


 皆の呟きに答えはない。

 知っているのはララだけなのだ。

 明日ララの話を聞いて明らかになる事があるのだろう。

 しかしそれは楽しみでもあり、恐ろしくもある。



「ララは学園に行かずに大丈夫なの?」


 ラグに座り、息子を茶化していたサラベスが急に話題を変える。

 サラベスがずっと気に掛けていた事を知るカトレアも静かに加勢する。


「確かに、家庭教師で勉強は学べるわ。 でも友達を作ったり、家を離れて生活する事で学べる事があるはずよ」

「そうですね、わたくしもお義母様と同じく心配です。 ただでさえララは他人と付き合いがありませんもの」

「ララがこのまま大人になって大丈夫なの?」


 ふたりの話に判っています、と頷くセリビアはソファーからラグへ移動し、サラベスとカトレアの横に座る。

 ふかふかのラグは直接座ると肌触りが良く、気持ちまで癒やされる。


「心配していただき、ありがとうございます。 サラベス様、カトレア」


 セリビアの穏やかな笑みは安心感を与える。

 サラベスもほっとすると、セリビアの手を握る。


「最初は旦那様の我儘からでしたが、ララを守る為には必要なことでした。 それに、学園で学べる以上の出逢いがこれからありますわ。 そうですわね、アルマク様」

「ふむ。 あの時シダーに反対しなかったのは、そういう事だ」


 ははは、と豪快に笑いながらアルマクは続ける。


「今まで言わなかったが、ララはこれから色んな所へ行き、出逢いと学びがあると思うぞ」

「お前達……また私に大事な事を言わずにきたな」

「シダーに伝えると心配するからなぁ。 それにお前だって、一生ララがひとりでいるのが幸せとは思っていないだろう?」


 ぐぐぐ、と言葉に詰まるシダーを横目に、サラベスは大きな目を更に大きくする。


「ララちゃんだって素敵な殿方との出逢いがあるに決まってるわ! あんなに愛らしいんですもの」

「お父様が独り占め出来るのもあと少しですね」

「いや、でもそれは……」

「お兄様もですよ。 今の内に満喫しておいてくださいませ」


 むむむー。

 カンファンス家の男性は家族をこよなく愛し、心配性で過保護なのだ。

 それはもうこの場にいる皆が知っている。


「旦那様、わたくしが居ますわ」

「ホーリーも早く結婚した方が良いぞ! 俺のように愛する人とな」


 カンファンス家の夜は更けても話は終わらない。

 いつもの事である。







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