19話 誕生日を祝う
大きなダイニングテーブルの上にはララの好物が並ぶ。
大皿には海老と貝のハーブバターグリル、スパイスを効かせたラムの蒸し焼き、大きな仔牛肉のホワイトソースがけ、野菜たっぷりで色鮮やかなスープ、各種ポテトのフライやフルーツサラダ。
チーズやナッツなど小皿料理の数々に、ふかふかのパンやパリッとしたクラッカー、パンケーキやハーブピラフ。
見るからに美味しそうな品々はスラン達料理人の力作だ。
部屋中に広がる食欲をそそる魅力的な香り……いつもの席に座る面々は皆、大きな笑顔を浮かべる。
「ララちゃん、お誕生日おめでとう!」
「もう12歳か~大きくなってまた可愛らしくなったなぁ」
「ありがとうございます! アルマクおじさま、サラベスおばさま」
「素晴らしい料理を目の前にして待ちきれないわ! あの子達が来る前に乾杯しちゃいましょうよ」
「そうだそうだ、息子達は放っておこう!」
「ふふふ、おふたりとも子供みたいですねぇ。 始めましょうか、旦那様?」
友人夫妻とセリビアの言葉に、シダーがワイングラスを軽く持ち、立ち上がる。
森の国ではお酒を好む者が多い。
仕事や勉学を終えた後、愛する家族や気の合う仲間と美味しい食事ととびきりのお酒1杯をいただく。
これが森の国で暮らす者の1日の締めくくりであり、生きる喜びでもある。
その為古くから酒造りも盛んで、各地で競い合うように特徴的な酒を造り出している。
皆のグラスになみなみと注がれているのは西の町のワインだ。
この町のワインは森の国でも名産と誉れ高く、晩餐会や祝い事によく用いられる。
お酒にそれほど強くない者や成人前の子供には、ワインとフレッシュジュースなどを合わせたデュアル酒だ。
ララの目の前には春のベリーで作ったジュースと赤ワインのデュアル酒、隣には白ワインに春のベリージャムをたっぷり入れた甘い白デュアル酒が用意されている。
ララは赤デュアル酒のグラスを手に立ち上がる。
すると入り口から賑やかな声が聞こえてくる。
カトレアとアルナイトが到着したようだ。
「なぁに、みんな。 僕達が来る前に始めるつもり?」
「遅い遅いっ! お前が時間通りに来ないのが悪いのだ」
「父上、仕事を押し付けておいてそれは無いですよー」
「可愛い私のララ! お誕生日おめでとう。 そのドレス、とても似合っているわ」
「お姉様! このドレス、サイズもぴったりです。 素敵なプレゼントありがとう!」
「あ〜本当だ。 ララちゃん可愛いね! ふたりで選んだ甲斐があったなぁ、カトレアの次に可愛い」
「今日もブレないな、アルナイト」
ふたりの後ろからホーリーの咳払いと冷静な声が追いかける。
これで全員が揃ったようだ。
控えていた給仕達が用意された席にそれぞれを誘導し、グラスに好みのワインを注ぐ。
「ララ、12歳おめでとう。 健康で元気に育ってくれて嬉しいよ。 これからの1年もたくさん笑い顔を見せておくれ」
「おめでとう、ララ。 ララの未来が明るく光り輝いているわ。 ふふ、これからの1年も楽しみね」
「お父様お母様、ありがとうございます。 皆様も来てくれてありがとうございます! 」
ララの大きな笑顔を合図に、皆がグラスを合わせ乾杯だ。
美味しい料理と楽しい会話で、カンファンス家のダイニングルームは笑い声が止まる気配はない。
◇◇◇
「ララちゃん、学園に行かないって聞いたけど、後悔はない?」
誕生日の晩餐が終わり離れのサロンへ移動すると、既にローアンとプラネラがお茶の準備をしている。
茶葉を選び、ゆっくりとティーカップを温めるふたりの様子はいつもと変わらず、この場の和やかな雰囲気に相応しい。
「はい、サラベスおばさま。 お勉強はここで先生から教えてもらうの。 ララは他にもたくさんお勉強したい事があるので、お父様やお母様に相談して学園には行かないと決めたの」
「そう。 ララちゃんは何をお勉強したいの?」
「えーと、植物の育て方や使い方、美味しい料理の作り方。 あとお兄様みたいに森に詳しくなりたいし、お姉様みたいに素敵になりたい」
「あら、ララ。 淑女のお勉強をする気になったのね?」
「うん、頑張るけど出来るかなぁ」
「ララちゃんはそのままでも充分可愛いけどなぁ」
「そうね、アルナイトの言う通り。 でもお勉強すると、自信が持ててもっと素敵な女性になれるわ」
「お姉様、ララね、あとは国中の町へ行ってみたいし、他の国にも行ってみたいの!」
「まぁ〜楽しそう! まずはどこへ行きましょうか」
「えーとねぇ……」
ララが楽しそうに話す様子を、シダーは微動だにせずに見つめる。
顔には笑顔を貼り付けているが、ワイングラスを持つ手は無駄に力が入っているのが分かる。
「その笑い顔は怖いぞ、おい」
「ふん、何とでも言え」
「旦那様、もうすぐケーキが運ばれて来ますわ。 ララを怖がらせないでくださいねぇ」
子供達は毛並が豊かなふかふかのラグに座り、リラックスしている。
そこに加わるサラベスも楽しそうだ。
ラグに合わせ、くの字型に置かれたソファーに座る大人達は子供達を見守りながらお茶を飲む。
ローアンが淹れたお茶は、甘いケーキに合わせた渋味が少なくコク深いものだ。
これから運ばれてくる甘いケーキは皆を幸せにする。
そしてララの笑顔も同じく、周りを幸せにする力がある。
ここにいる皆は、その意味を知っている。




