18話 カンファンス家の残念姫
「お前、来るのが早過ぎないか」
執務室の扉を勢いよく開けたアルマクに呆れながら、シダーは目を通した書類にサインをする。
隣で仕事をしているモードががたっと椅子を倒しながら慌てて立ち上がる。
「国王様、王妃様! ご機嫌麗しく……」
「あらモードさん、いつも言っているでしょう? この屋敷では堅苦しい挨拶は必要ないのよ。 私達は幼馴染と家族に会いに来ているんですもの」
「い、いえ、そうは言っても……」
「モード、今日はもう終いにしよう。 煩いのがいては仕事にならない」
「は、はい。 ではお茶を……」
シダーの言葉に、モードは慌てて書類を片付ける。
そこへタイミング良く扉がノックされ、ローアンがお茶を運んで来る。
「旦那様、セリビア様もすぐにいらっしゃいます」
「相変わらず素晴らしい香りだわ、ローアン」
「ありがとうございます、サラベス様」
学園に通っていた頃、休みになると3人でこの屋敷に集まったものだ。
当時からローアンのお茶は完璧で、茶葉や茶器の選択から扱う所作まで文句のつけようがない。
流れるようなローアンの動き、部屋に広がる香り、口に含むと感じる芳醇な味と滑らかな舌触り。
今では城を抜け出してこの屋敷に来るふたりにとって、カンファンス家のお茶は王族の立場を離れられる貴重な楽しみのひとつだ。
「ふたりとも、ちゃんと公務は片付けてきたんだろうな?」
「今日は夕方から体調が悪く、自室でサラベスに看病してもらっている」
ローアンとモードが退室した後、シダーの質問にアルマクは平然と答える。
大きな溜息を吐くシダーにサラベスが続ける。
「毎年この日は体調を崩すんですもの。 城の皆も暗黙の了解ですわ」
「お前がララを表に出したくない!と我儘を言うからこうなる」
「なっ!?」
「そうだろう? 本来は城で誕生祝の披露目をするはずが、7年前からララは屋敷から出てこないんだからなぁ」
以前からカンファンス家は滅多に社交の場に出てこない事で有名だが、末娘のララは5歳になる頃から全く姿を現さなくなった。
それまでは年に一度、誕生日には王族へ披露目の挨拶へ来城していたし、家族と一緒にいる様子もたまに伺えた。
それが無くなったのは、ちょうど王太子とカンファンス家の長女カトレアの婚約が結ばれた辺りからだ。
周りの貴族達は不思議がり、心配した風を装いララの様子を尋ね探りを入れてきた。
しかしシダーやセリビアを始めカンファンス家の人々は皆「残念ながら……」と目を伏せ繰り返すばかり。
これを続けると人々は尋ねる事を止め、その代わりあらゆる噂が広まるようになった。
カンファンス家の末娘は病気がちで外出は無理なのだ。
もしかしたら人に会わせられないくらいお馬鹿な令嬢なのか。
はたまた外に出せない程の醜い顔なのかも。
実は既にお亡くなりになっているのでは……。
そして今から3年前、森の国中で盛大に祝われた王太子の結婚式にも参列しなかったことから、この噂は真実として決定付けられた。
姉の結婚式にも顔を見せないララは、『カンファンス家の残念姫』と面白おかしく言われる様になったのだ。
「守る為とはいえ、残念姫と言わせておいて良いのか?」
アルマクの口から出た言葉は珍しくか細い。
アルマクとシダー、セリビアの3人で話したあの夜から、ララを守る為にこの策を取った。
シダーの強い要望からだが、この蔑称が今後どう影響していくのか予想が付きづらい。
何より『残念姫』と言われている事を本人が知ったらどう思うか……
「ふふふ、ララはああ見えて強い子ですのよ」
微笑むセリビアの静かな声が沈黙を割る。
扉が開いた事に気付かずにいた3人は驚き、近寄るセリビアを見つめ次の言葉を待つ。
「ララはこれから必要な知識をつけてより賢くなるでしょう。 わたくし達家族はララの愛らしさを知っていますし、これから出会う人々にも分かる事です」
「関係ない者が何と言おうと、ララは問題ないのよ!」
「ふふ、そうですねぇ。 サラベス様」
女性ふたりの悪戯めいた笑みに、アルマクはシダーに目配せし肩をすくめる。
「まぁそうだな。 ははっ、私とした事が! カンファンス家の男どもの心配性が感染ってしまったようだな」
「私が心配性だと!?」
「過保護とも言うぞ。 最近はシダーだけではなくホーリーも酷いものだがな!」
サラベスとセリビアの笑い声が部屋中に響き、アルマクとシダーも続く。
賑やかな様は4人がまだ重責を背負う前、若かりし頃を思い起こす。
幼馴染のアルマクとシダー、学園で意気投合したサラベス、遅れて加わったセリビア。
ひとしきり笑い合い、ソファーに座りお茶を飲みながら思い思いに話し出す。
「アルナイトとカトレアはもうすぐ来るな」
「あなたがアルナイトに仕事を押し付けてきたのでギリギリですわね、きっと」
「もうララは起きたのか?」
「先程目が覚めて、急いで準備しているとプラネラから報告がありましたわ」
「ホーリーから話があると知らせがあったぞ」
心配そうなシダーをよそに、アルマクはふむふむと頷くばかり。
セリビアは微笑み、シダーの手を優しく握る。
「ふたりは何か見えているのか?」
「旦那様、まずはララの誕生日のお祝いですわ。 その楽しいお話は後でゆっくり」
妻の様子を見てほっと息を吐くシダーは気付かない。
ホーリーの楽しい話は、シダーの望むものではない。
それを知るセリビアは、シダーを安心させようとまた微笑みを向けるのだった。
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