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森の国の残念姫がいく  作者: あおみどり
森へ行こう
16/24

15話 翡翠の泉

 

 水辺はひんやりと肌寒く、しんと静まりかえっている。

 緑草と花畑では賑やかだった小鳥の唄声はなく、ぽこぽこと湧く水音だけが聞こえる。

 ララが立つ場所から先、翡翠の泉の回りは白肌の木々で囲まれている。

 背が高く、真っ直ぐに空へ向かう綺麗に整列した木々。

 その隙間から幾筋も光が射し、水面は空に浮かぶ雲を映し輝いている。


 ララです。

 こんにちは!


 大きな声で挨拶する。

 ララの声は辺りに反響し、水面は震える様にさざ波を立てる。

 自分が思うより大きな声に慌て、次は囁くように伝える。


 うぅ、驚かせてごめんなさい。

 お邪魔します。



 水辺にそっと近付き、翡翠色を覗き込む。

 透明な水の中には橋のように横たわる倒木がいくつも見える。

 手前は底まではっきり見えるが、中央に行くほど深くなり影のようにぼやけていく。

 ララは指先で水に触れる。


 冷たいくて気持ちいい!


 指先から伝わる水の感触は柔らかく心地良い。

 ララは安心して泉へ手を入れる。

 水の中で手のひらと甲をこすりながら汚れを落とす。

 土で汚れた指と爪を確認しながら洗っているとキラキラと光が目に入り、慌てて泉から手を出す。

 ララは水面が落ち着くまで水底を見続ける。

 少しするとゆらゆらと揺れる水面が静かになり、底にある石が光っているのが見える。

 手を伸ばすと触れそうだ。


 ララはワンピースの袖を捲り、右手をもう一度水の中へ入れる。

 肘まで水に浸けると固い物に手が触れる。


 冷たい!

 うわぁ〜、つるっつるだ!


 手に触れたいくつかをそのまま握り持ち上げる。

 水から採り出した物を見てみると、手のひらには小さな石がいくつも乗っている。


 わぁ〜ピカピカして綺麗。

 座ってゆっくり見よう。



 手のひらの石を大事に握りしめきょろきょろと辺りを見渡すと、少し先に横たわる倒木を見つける。

 右手に光る石。

 左手に籠を持ち、転ばないように向かう。


 座らせてね。


 ペコリとお辞儀をして倒木に腰掛けたララは、籠の中からナフキンを取り出す。

 左手だけでたどたどしく膝に広げ、手のひらをゆっくり広げる。

 数えると12の小粒な石。

 ナフキンの上に静かに置くと、目に入るのは白、濁った赤、若草色、紺色。

 金色の筋が入る物、小さな穴がある物もある。


 これは宝石?

 お兄様に調べてもらいたいけど、おうちに来てくれるかな?


 じっと石を見つめると、ほんのり膝が暖かく感じる。

 優しく撫で、そのままナフキンに包み籠に入れ声を掛ける。


 ありがとね。

 ちょっとの間ここでお休みしていてね。



 ララは籠の中から飲み物が入ったボトルを取り出す。

 筒状のボトルは、耐水性のある木で作られている。

 その木は2年前に聖なる森で出逢い、シダーとララが屋敷へ持ち帰った。

 加工すると水が漏れないだけではなく、汚れや匂いが残らない。

 それは比類する物がない、利用価値の高い木材だと考えられている。

 木の特色をそのままに、無理なく自然に繁殖する方法を見つけようと研究されている。

 ホーリーが寝食を後回しにする原因のひとつだ。



 蓋を開け、同じ木製の小さなカップに注ぐと、すっきりしたハーブとベリーの爽やかな香りがする。

 水に一晩漬けたフレッシュウォーターだ。

 ララはごくごくと一気に飲み干す。


 はー、美味しい。

 すごく喉が乾いていたんだ。

 夢中で気付かなかったけど、もうお昼くらいかなぁ。


 クッキーの袋を手に取り、シダーとの約束を思い出す。


 お父様はお昼には帰るようにって言ってた。

 んー、まだ帰りたくないけど。


 クッキーを齧りながらララは考える。

 さくさくと甘く小さなナッツが練り込まれた、ララの大好きな味だ。

 もぐもぐと口を動かし、どうしようかと考えたララはボトルのフレッシュウォーターを全てカップに注ぐ。


 今日は帰ろう!

 約束したから守らなくちゃ。

 でもまた来たい。

 来ても良い?


 泉に目をやると、さざ波で応えてくれている。

 ララは頷くとクッキーの残りを食べ、フレッシュウォーターを飲み干す。

 袋はきちんと畳み、籠にしまう。

 少し迷ったがボトルは泉の水で洗い、その水でいっぱいにして籠へ戻す。



 今日は時間がなくてごめんなさい。

 今度はゆっくり来るので、一緒にクッキーを食べようね。

 スランの作る物はすごく美味しいの。


 小声で挨拶をしたララはペコリとお辞儀をする。

 手前の泉は明るい翡翠色に澄み渡り、さざ波が泉全体に広がる。

 その先の白肌の木々はさわさわと揺れ、葉がリズム良く音をたてる。

 ひんやりとした空気と優しい風が頬を撫でる。


 ララは笑いながら頷き、白い花畑に戻ろうと振り返る。


 すぐさま出迎えるように蝶が舞い寄ってくる。

 黄色、オレンジ、ピンクの蝶はララの目の前から先へ移動して楽しげに舞う。

 


 きっと屋敷までの近道を教えてくれる。

 ララは安心して蝶について行くのだった。








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