13話 魔法使いの小径
カンファンス家の主庭園の奥、ハーブ園や温室があるエリアの端にホーリーの研究所がある。
仕事に打ち込むホーリーは、ララと手を繋ぎここまで歩く少しの時間が唯一の息抜きになっている。
「お兄様は森の事をたくさーん知っているから、お話もっと教えて欲しい」
「研究所に遊びにおいで。 ララだったらいつでも歓迎だよ」
「でもお兄様はいっつも忙しいでしょ? おうちに帰って来ないってプラネラが言ってた」
「ん? そうかなぁ」
「お兄様、ご飯食べてる? 寝る時はどうしているの?」
ララの質問攻めは心配性のプラネラそっくりだ。
ついつい時間を忘れて没頭してしまうので、最近は屋敷に戻るのが面倒になっている。
研究所の2階に簡単な寝床を作り、食事はまぁ適当に済ましてしまう。
書類や本が散乱して足の踏み場もない寝床は、ララには絶対に見せられない。
「さぁ着いたよ、ララ」
屋敷から歩いて来た道は研究所で終わり、その先はカンファンス家の象徴である楠の群生林となっている。
雄大に空へ向かう楠の群生林はしっかり管理され、カンファンス家でも限られた者しか入ることが出来ない。
僕はここまで。
今日からララはひとりでこの先へ行く。
ララは聖なる森の子だ。
僕がそれをはっきり確信したのは15歳。
当時の僕は、およそ自分らしくない人生を選択して苦しんでいた。
それが正しいと疑問にも思わず、淡々と日々を過ごしていた。
妹のカトレアも同じようなものだったと思う。
そして僕達がそこから抜け出すきっかけは、ララが与えてくれた。
何気ないララの一言がどれだけ僕達を救ってくれたか。
あの頃はすぐに気付く事は出来なかった。
けれどその後のララに対する父上や母上の言動や、これまでの細かな事も思い出すと導かれる答えはひとつ。
すとんと府に落ちた時は今までずっとあった霧が晴れたようだった。
霧に覆われた世界は色が無く、晴れた世界は何と美しいことか。
僕は近い将来、カンファンス家を継ぐ。
ララの兄として、精一杯カンファンス家の役割を全うしようと思えた瞬間だった。
◇◇◇
「お兄様、いってきます!」
研究所の前で見送るお兄様に大きく手を振り、渡された籠を反対の手でしっかり握る。
ナプキンを捲り中を覗くと、飲み物が入ったボトルとクッキーが見える。
スランの手作りクッキーだ!
柔らかくて、ひとくち齧るとさくさくってするの。
お散歩して少し疲れたら食べよう。
わーい、ピクニックみたいで楽しいな。
ララは迷わず木々の間を抜け、一番の巨木を見つける。
手を触れると、木肌はごつごつとしているが温かい。
いつもする様に楠の巨木に抱きつき挨拶をする。
「こんにちは! ララだよ。 今日はひとりで来たの!」
さわさわと風が舞い、葉が音を立てている。
楠の巨木から離れたララはキョロキョロと辺りを見渡し、先にある一筋の道を見つける。
人ひとりが辛うじて通れる細さで、草が生い茂っているのが見える。
この道から先、植物は青々としていていつ来ても枯れた様子を見た事がない。
ララはこの道を「魔法使いの小径」と呼んでいる。
きっと魔法使いのおばあさまが、みんなが雪で滑って転ばないように、固い石で怪我をしないように緑の絨毯を敷いているんだよ!
魔法はみんなにバレるといけないんだもん。
お父様も誰にも言っちゃダメ!
一緒に来たお父様に教えてあげたの、いつだったかな?
お父様はすごく喜んで、ふたりの時はこっそり魔法使いのお話をしたなぁ。
魔法使いのおばあさま、お邪魔します。
礼をして小径に足を踏み入れる。
じゃあいってきます、と後ろの楠の巨木に手を振り、ララは緑の絨毯の上を歩く。
ふかふかで歩きやすい!
今まではお父様やお兄様と魔法使いの小径を歩いたの。
でも今日はひとり。
ちょっぴり寂しいけど大丈夫!
この先が森だもん。
そうだ、魔法使いのおばあさまに会ったら、お薬の作り方を教えてくださいってお願いしよう。
プラネラが目が疲れるって言ってた。
良いお薬があればいいなぁ。
あとね、ハーブを使ったお料理の作り方も知りたいの。
ハーブを上手に乾燥させるにはどうやるのかな?
ララと仲良くしてくれるかなぁ。
うきうきと楽しい考え事をしながら歩くと、急に明るい光の数々が目に入る。
あまりの眩しさに驚き、ララは手で顔を覆い目をきつく閉じる。
あ〜、びっくりした!
どきどきと大きな音を立てる心臓に手をやり、大きく息を吐く。
おそるおそる目を開けてみると、視界には一面緑で覆われた拓けた場が現れる。
周囲の木々の隙間から光が射し、その近くにある水溜まりに反射して輝いている。
水のせせらぎと、辺りを飛び回る小鳥の歌で賑やかだ。
「わぁ〜もう森の中だ! 良かったぁ」
ララはほっとしてその場に座り込む。
えへへ、ひとりでも来れたよ。
ちょっと疲れちゃったけど、ちゃんと来れた!
お読みいただきありがとうございます。
面白い、続きを読みたい、と思った方はぜひ!
ブックマーク、評価★★★★★をよろしくお願いします。
とても励みになります!




