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森の国の残念姫がいく  作者: あおみどり
森へ行こう
13/24

12話 春のベリー

 

「お父様! 約束は覚えている?」


 パンケーキを食べ終え、ひとしきり感想を言い合った後。

 身を乗り出しながら話すララの瞳はキラキラと輝く。


「今日からひとりで森へ行ってもいいのでしょう? これからお散歩するの」

「あら、お天気が良いので楽しいわね、きっと」


 セリビアが微笑む。

 ララの隣に座るホーリーも笑いながら同意を伝える。


「ララの事だから、また何か見つけるかもしれないな」

「ふふふ、このベリーの様にね」


 春のベリーを紅茶に入れたセリビアは、ゆっくりスプーンを回し混ぜる。

 爽やかな香りがたつ。


「ララが見つけたこのベリーは、今はどこでも収穫できて手に入れる事が出来る。 ララのお陰で、美味しいベリーが誰でも食べられるんだ」

「あの時、お兄様が一緒に行ってくれたから見つけられたの! その後に育て方の研究をしてくれたでしょ〜お兄様のお陰だね!」

「ベリーは夏になるまで食べられなかったのに、春も楽しめるなんて嬉しいわ」


 3年前にふたりが摘んできた赤紫色の実は、小さく輝く宝石のようだった。

 手にするとすぐ潰れてしまう薄い皮で覆われ、とてもとても繊細だった。

 すぐに毒性が無い事を確認し初めて口にした時。

 扱いづらいその実の、弾ける甘さと瑞々しさ。

 セリビアは今まで味わったどのベリーより森の聖なる力を感じ、涙ぐむほどに感激した。

 その事を思い出しながらじっとララを見つめる。


「また何か発見がありそうね」

「ひとりで行くのは危なくないのか……」


 それまで言葉を発せずに聞いていたシダーが、ぼそっと呟く。

 ホーリーは呆れ顔をシダーに向ける。


「父上、またですか。 ララにとって森は危険な場所ではありません!」

「いや、しかし」

「何度も話し合って決めたではないですか。 今日はララの誕生日で、ひとり立ちの日なんですよ」

「いや、そうは言っても……」

「旦那様? 心配なのは分かりますわ」

「お父様、いいでしょう?」


 セリビアはいつもの微笑みを向けるが、最後のララの言葉でシダーの抵抗は終わる。

 誕生日の願い事として約束したのはシダーなのだ。

 ため息を吐き、渋々といった様子で頷き許可を出すと、ララが勢いよく椅子から立ち上がる。


「ありがとう! お父様、大好き!」


 シダーに駆け寄り、勢いよく抱きつく。


「お母様もお兄様もありがとう! 後片付けをしたら、すぐ出掛けるね」

「お昼には戻るのだぞ」

「僕は研究所へ戻るんだ。森の入り口まで一緒に行こう、ララ」

「うん! お兄様と一緒に行く。 後片付け待っててくれる?」

「あぁ、慌てなくても大丈夫だよ」


 皿を下げる給仕係を追い調理場へ向かうララ。

 急ぐララにホーリーは大きな声を出したが、聞こえただろうか。


「お前が改良した春のベリー、育てやすく保存もしやすいと評判が良いらしいな」

「ええ。 森のままでは繊細過ぎて流通させるのは難しいと思い、少し手を加えたのが良かった様です」

「農家からも商家からも礼状が届いているぞ。 国内だけではなく、他国からも購入の願いがきていると聞いた」

「本来ならばこの時期にベリーの実はなりませんからね、味も際立って良いですし」

「ララが見つけた物で、国の皆が潤うとは良い流れだ」


 紅茶をゆっくりと飲みながら、男ふたりの会話を聞いていたセリビアがぽつりと言う。


「ふふ、今日は何かしらねぇ」

「母上、何か感じますか?」

「そうねぇ、何かは分からないけど……」

「ララがひとりで行くのですから、何かを見つけてきても不思議ではありませんけどね」


 ホーリーはしたり顔だ。

 今までララが森へ入ると、それまでは見た事もない野草や実が現れるのだ。

 日々研究をしているので森の事に詳しいはずのホーリーでも、ララが居なくては探せない。

 森の意思でララに見つけて欲しいのだろう。

 そう考えるのが妥当だ。



 侯爵家を継ぐはずのホーリーが、聖なる森の研究を始めて4年。

 すべてを解明したいとは思わない。

 出来るはずもない、いや、そういう考えを持ってはいけないとすら思う。

 それよりも、今まで恩恵に授かってきた聖なる森とその力を少しでも理解したい。

 そして授かる力をこの国の民、更に森へと還元していくのが理想だ。



「手を加えると、聖なる力がほぼ無くなるのは残念ね」

「ですが母上、その力を感じる者はほとんど居ないのでは」

「王室と我が家は森で摘むベリーを食しているからな」

「温室にある物も改良していませんからね」



 ララが発見する数々のもの。

 それらは何かしらの意味があり、何かしらの宝物だ。


 この事は誰にも気付かれないよう、偶然と思わせておこう。

 聖なる森を護るために。

 そしてララを護るために。


 カンファンス家は『 森を護る者 』なのだから。








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