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森の国の残念姫がいく  作者: あおみどり
カンファンス家の人々
11/24

10話 ララの習い事.1

 

 むにゅむにゅって押して小さくしてまた押してー。

 何度も繰り返し、まん丸のボールにしたらちょっとお休み。


「スラン先生、これでいい?」

「嬢、うまく出来たな」

「えへへ、ぷにぷに~」


 髪をきっちり結び、黄色のエプロン姿のララは、生地をつついてスランに見せる。

 横で同じ作業をしながら教えていたスランは、顔中真っ白なララに合格点を与える。

 近くに控えていたベルは、濡れたタオルでララの顔と手を拭う。



 ここはカンファンス家の調理場。

 スランは34歳と若いながらも、この屋敷内で提供される料理全般を任されている。


 森の国の小さな港町出身で、船乗りから聞く他国に興味を持ち、各国の言葉を学んだ。

 10代で海を渡り、数カ国で修行をしながら、それぞれの食事文化の知識を得た。

 その経験の積み重ねで習得した、様々な国や地域の素材や調理法を組み合わせ、新たな料理を創り出す事を得意としている。


 たまたま隣国でスランの作る料理を食べ、感銘を受けた大旦那様と大奥様の強い推薦があり、そろそろ国に帰りたいと思っていたスランは即座にオファーを受けた。


 カンファンス家で働き早8年。

 最初こそ独創的な料理の数々にカンファンス家の皆は戸惑ったが、今では全員がスランの作り出す美味しい作品の大ファンだ。



 ここの調理場には、下準備など補佐をしている者、スランの料理を学びに来る料理人らがいて賑やかだ。

 街のレストランからの弟子志願が多く、身元保証さえ問題なければ受け入れている。

 今ではアルマクの希望で派遣された城のシェフや、他家の者までいる。

 スランは見た目は強面で口が悪いが、陽気で面倒見の良い人柄で、職人気質な料理人達をよくまとめている。



 ララは最年少の弟子だ。


 シダーから包丁と火を扱う許可はまだないが、野菜を洗ったり飾り付けを楽しそうに手伝う。

 たどたどしくも一生懸命に働くララは場を和ませ、孫や子供を持つ者や、若者からも可愛がられる。

 この家のお嬢様は調理場でも人気者だ。


 今日は初めてのパン作り。


「嬢、誰を思って生地を捏ねた?」

「あのね、お父様とお母様とお兄様とお姉様とベルとプラネラとローアンとみんな! みんなにこにこしてた!」

「はははっ たくさんだな〜」

「うん! みんな食べたら美味しい〜の!」


 嬢が作る物だったら、どんな出来栄えでも喜んで食べるだろうなぁ。


 スランは、入れ代わり立ち代わりララの様子を覗きに来る面々を思う。

 こっそり見ているつもりだろうが、全然隠れていないんだもんなぁ。

 入り口からちらと顔を出すシダーやセリビア、窓からはホーリー、飲み物をわざわざ取りに来たカトレア。

 ローアンやプラネラは用事を作っては何度も出入りしている。

 気付かないフリも大変だ。 


 つい苦笑してしまう。


「さぁ嬢、休ませたパン生地を見てごらん。 さっきより大きくなっただろう?」

「うわー、大きい! スラン先生、魔法した?」

「ははは、魔法かぁ」

「やっぱりスラン先生、魔法使い? いっつも美味しいご飯ありがとう!」

「魔法使いじゃないけど、食べて喜ぶ人の顔を思いながら料理をすると美味しくなるぞ」

「そっかー、じゃあララのパンも美味しいね!」



 嬢のパン、食べるよな?

 あの方々は宝箱に入れて飾っておきそうだが、全力で食べさせよう。

 あんなに一生懸命作ったんだ。

 頼むから、食べて喜ぶ顔を嬢に見せてくれよ。



 ◇◇◇



 カンファンス家の夕食は18時。

 家族全員が揃って食べる。


 森の国ではコース料理のように一品ずつサーブするのは好まれず、大皿から各自取り分けて食べるのが一般的だ。

 出来立てで湯気が立つ鶏肉の香草焼きをメインに、色鮮やかな野菜のグリル、春野菜のポタージュ、副菜の数々がダイニングテーブルの中央に並べられる。

 シダーのリクエストで、ララの好きなチョコレートケーキをデザートに用意した。

 最後がどっしり重めなので、爽やかなハーブを使った料理を多めにしている。


 皿の盛り付けが終わり、皆がそわそわしている。

 本当のメインを待っているのだ。



「じゃじゃーーーん」


 嬢が来た。

 両手でしっかり籠を持ち、調理場からゆっくりゆっくり歩いて来る。

 後ろを歩くベルの顔が真剣だ。


「みなさん、お待たせしましたっ。 ララのパンですよー」


 籠から小さく不揃いのパンを選び、ひとりひとりに渡す。


「これはね、お父様のお顔の形みたいでしょ? はい、どうぞ」  

「これはお母様。 大好きなお花なの」

「これはお兄様で、こっちがお姉様!」


 家族に配り、側に控える使用人達の手にもパンを渡し終え、ララは満足気だ。

 最後にスランにもひとつ。


「俺にもくれるのか?」

「うん、スラン先生のぶん。 教えてくれてありがとございましたっ!」


 あぁ、皆が感動して涙ぐむ気持ちが分かる。

 世界一可愛いわ、嬢!

 これはもう勿体なくて食べれねーよなぁ。















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