9話 カンファンス家の会議②
「ふふふふふっ」
生温かい視線を感じる。
セリビアに目をやると微笑みを浮かべている。
アルマクは腕組みをして満足気だ。
「何なんだ、何なんだふたりとも」
危険が迫っているのではない。
切羽詰まった状況じゃない。
ふたりの様子からその理解はできる。
「旦那様、そんなに悲しまないでくださいませ」
この顔は判っていたな?
セリビアは私の事をよく分かっている。
悔しいがアルマクもだ。
「私を虐めて楽しいのか? ふたりとも……」
「違いますわ、旦那様。 余りにも旦那様が可愛らしくてつい。 笑ってしまいごめんなさい」
「名誉よりも愛か。 正直なお前が大好きだよ、シダー」
「元はと言えば、お前の息子のせいじゃないか!! 私から大事なカトレアを奪い、次はまだ幼いララか?」
言っても無駄な事は分かっている。
虚しい気持ちでつい早口にまくし立ててしまう。
「私は家族がいてくれれば何も望まないと言うのに。 こんなの、悲しいに決まっているだろう……」
セリビアがぴったりと寄り添い、背中に手を添えシダーに優しく微笑む。
手の温もりを感じ、少しずつ心が鎮まる。
「子供達が離れても、わたくしは旦那様と一緒ですわ」
私の妻はなんと心優しいのだろう。
うっかり涙が出そうになる。
「でも、ララのお役目はまだまだ先のようですよ」
シダーにウィンクするセリビア。
このいたずらっ子め! なんて美しいのだ。
こんな時でもシダーは妻をこよなく愛する男。
自分にしか見せない、茶目っ気たっぷりな妻の姿にめっぽう弱いのだ。
「はははっ、ブレない男だなぁ。 来た甲斐があったぞ」
セリビアに見惚れるシダーの肩を横から強く叩くアルマク。
その勢いのまま、セリビアに問う。
「本題から逸れたが、今日は何を伝えるつもりだったのだ?」
「そうそう、危なく忘れるところでした。 話を戻していただきありがとうございます、アルマク様」
「まだ何かあるのか……」
力無くしなだれるシダーに、今度は軽く肩を叩く。
「なぁに、そんなに気に病む事はない。 そうだろう?」
「はい、アルマク様」
セリビアはにっこりと笑う。
ふんっ。
シダーは心の中でこっそり毒づく。
セリビアの美しい顔はアルマクにも見せたくない。
「旦那様」
「ん?」
惚けていたシダーは慌てて真面目な顔を作り、セリビアに向かう。
横のソファーに座るアルマクが肩を震わせているが、見えない風を装う。
「ララが離れるまで時間がありますが、その間、私達がやれる事は全てやりましょう。 それがいずれ、あの子を守る盾となるはずです」
「時間とはどれくらいなのだ?」
シダーの聞きたい事はそれだ。
可愛いララと離れたくはない。
あの子が自分達の手を離れるだろう事は薄々感じていた。
分かってはいるが、延ばせるものだったら延ばしてしまいたい。
「状況によって変わるでしょうが、10年程かと」
「10年か! ではその頃はホーリーに家督を譲り、私達がララと一緒に行動すれば良いではないか!」
「残念ながら旦那様……」
「ん? セリビアも一緒に行動すれば問題はないだろう?」
黙って聞きに徹していたアルマクが、夫婦の会話に咳払いを入れる。
「何だ、アルマク。 問題ないだろう?」
「いや、残念ながらその案は無理そうだぞ」
「なぜ」
「それは旦那様」
「ん?」
「代替わりが出来ないからですわ」
「ん?」
「おそらく、ホーリーが家督を継ぐのはもっと先だと思われます」
ホーリーは優秀で、今も学業の合間に仕事をこなしている。
全く申し分のない後継者のはずだが……
シダーは反応に困り、瞬きを繰り返す。
シダーが困った時にする癖を見たアルマクとセリビアは、今度は小さく笑う。
「旦那様、ホーリーには少し時間をお与えください」
「……ホーリーにとって、その時間が大切なのだな?」
妻の力を信頼するシダーは確認し、理解する。
「分かった。 そこは詳しく聞かずに承知しよう」
「ありがとうございます、旦那様」
「意味のないことは起こらないのであろう?」
「はい」
「あぁ」
ふたりが同時に応え、シダーは頷く。
同じ時代に『先を見通す力』を得るふたりがいること。
それが国王とセリビアということ。
王太子とカトレアが婚姻を結び、王家とカンファンス家の間で名実ともに繋がりが出来ること。
そしておそらく、ホーリーに時間が必要な事も関係するのであろう。
私もやれる限りのことをしてやろう。
可愛いいララのため、それがこの国のためであり聖なる森のお役に立てるのだ。
「旦那様、すでにローアンとプラネラにも協力を頼んでいます」
シダーの目を真っ直ぐに見つめ、セリビアが告げる。
3人の想いは同じと見て取れ、深く頷く。
「変化があればその都度話し合おう」
「そうですね。 分かっていることはまず……」
「ひとつだけ」
珍しくシダーが妻の言葉を遮る。
アルマクとセリビアは驚き、シダーの言葉を待つ。
「ひとつだけ願いかある。 これだけは譲れないのだ」
シダーの切実な願いにふたりはひとしきり笑い、綿密に計画を立てる。
その後城へ戻りサラベスに説明をすることになるアルマクは、明け方まで寝ることは叶わないのであった。




