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森の国の残念姫がいく  作者: あおみどり
カンファンス家の人々
10/24

9話 カンファンス家の会議②

  

「ふふふふふっ」


 生温かい視線を感じる。

 セリビアに目をやると微笑みを浮かべている。

 アルマクは腕組みをして満足気だ。


「何なんだ、何なんだふたりとも」


 危険が迫っているのではない。

 切羽詰まった状況じゃない。

 ふたりの様子からその理解はできる。


「旦那様、そんなに悲しまないでくださいませ」


 この顔は判っていたな?

 セリビアは私の事をよく分かっている。

 悔しいがアルマクもだ。


「私を虐めて楽しいのか? ふたりとも……」

「違いますわ、旦那様。 余りにも旦那様が可愛らしくてつい。 笑ってしまいごめんなさい」

「名誉よりも愛か。 正直なお前が大好きだよ、シダー」

「元はと言えば、お前の息子のせいじゃないか!! 私から大事なカトレアを奪い、次はまだ幼いララか?」


 言っても無駄な事は分かっている。

 虚しい気持ちでつい早口にまくし立ててしまう。


「私は家族がいてくれれば何も望まないと言うのに。 こんなの、悲しいに決まっているだろう……」


 セリビアがぴったりと寄り添い、背中に手を添えシダーに優しく微笑む。

 手の温もりを感じ、少しずつ心が鎮まる。


「子供達が離れても、わたくしは旦那様と一緒ですわ」


 私の妻はなんと心優しいのだろう。

 うっかり涙が出そうになる。


「でも、ララのお役目はまだまだ先のようですよ」


 シダーにウィンクするセリビア。


 このいたずらっ子め! なんて美しいのだ。


 こんな時でもシダーは妻をこよなく愛する男。

 自分にしか見せない、茶目っ気たっぷりな妻の姿にめっぽう弱いのだ。


「はははっ、ブレない男だなぁ。 来た甲斐があったぞ」


 セリビアに見惚れるシダーの肩を横から強く叩くアルマク。

 その勢いのまま、セリビアに問う。


「本題から逸れたが、今日は何を伝えるつもりだったのだ?」

「そうそう、危なく忘れるところでした。 話を戻していただきありがとうございます、アルマク様」

「まだ何かあるのか……」


 力無くしなだれるシダーに、今度は軽く肩を叩く。


「なぁに、そんなに気に病む事はない。 そうだろう?」

「はい、アルマク様」


 セリビアはにっこりと笑う。


 ふんっ。

 シダーは心の中でこっそり毒づく。

 セリビアの美しい顔はアルマクにも見せたくない。


「旦那様」

「ん?」


 惚けていたシダーは慌てて真面目な顔を作り、セリビアに向かう。

 横のソファーに座るアルマクが肩を震わせているが、見えない風を装う。


「ララが離れるまで時間がありますが、その間、私達がやれる事は全てやりましょう。 それがいずれ、あの子を守る盾となるはずです」

「時間とはどれくらいなのだ?」


 シダーの聞きたい事はそれだ。

 可愛いララと離れたくはない。

 あの子が自分達の手を離れるだろう事は薄々感じていた。

 分かってはいるが、延ばせるものだったら延ばしてしまいたい。


「状況によって変わるでしょうが、10年程かと」

「10年か! ではその頃はホーリーに家督を譲り、私達がララと一緒に行動すれば良いではないか!」

「残念ながら旦那様……」

「ん? セリビアも一緒に行動すれば問題はないだろう?」


 黙って聞きに徹していたアルマクが、夫婦の会話に咳払いを入れる。


「何だ、アルマク。 問題ないだろう?」

「いや、残念ながらその案は無理そうだぞ」

「なぜ」

「それは旦那様」

「ん?」

「代替わりが出来ないからですわ」

「ん?」

「おそらく、ホーリーが家督を継ぐのはもっと先だと思われます」


 ホーリーは優秀で、今も学業の合間に仕事をこなしている。

 全く申し分のない後継者のはずだが……

 シダーは反応に困り、瞬きを繰り返す。


 シダーが困った時にする癖を見たアルマクとセリビアは、今度は小さく笑う。


「旦那様、ホーリーには少し時間をお与えください」

「……ホーリーにとって、その時間が大切なのだな?」


 妻の力を信頼するシダーは確認し、理解する。


「分かった。 そこは詳しく聞かずに承知しよう」

「ありがとうございます、旦那様」

「意味のないことは起こらないのであろう?」

「はい」

「あぁ」


 ふたりが同時に応え、シダーは頷く。



 同じ時代に『先を見通す力』を得るふたりがいること。

 それが国王とセリビアということ。

 王太子とカトレアが婚姻を結び、王家とカンファンス家の間で名実ともに繋がりが出来ること。

 そしておそらく、ホーリーに時間が必要な事も関係するのであろう。


 私もやれる限りのことをしてやろう。

 可愛いいララのため、それがこの国のためであり聖なる森のお役に立てるのだ。



「旦那様、すでにローアンとプラネラにも協力を頼んでいます」


 シダーの目を真っ直ぐに見つめ、セリビアが告げる。

 3人の想いは同じと見て取れ、深く頷く。


「変化があればその都度話し合おう」

「そうですね。 分かっていることはまず……」

「ひとつだけ」


 珍しくシダーが妻の言葉を遮る。

 アルマクとセリビアは驚き、シダーの言葉を待つ。


「ひとつだけ願いかある。 これだけは譲れないのだ」




 シダーの切実な願いにふたりはひとしきり笑い、綿密に計画を立てる。

 その後城へ戻りサラベスに説明をすることになるアルマクは、明け方まで寝ることは叶わないのであった。









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