プロローグ
「この子は森に愛されているわね」
セリビアはふふ、と微笑みを浮かべる。
隣で寝ている我が子の胡桃色の髪を撫で、真っ白な産着を整える。
産まれたばかりだというのに、手も足も忙しく動かして元気いっぱい。
セリビアはその小さな手に握る未来を見つめる。
駆け寄ってきた夫はセリビアの手を取り、うっすらと涙が浮かぶ目で見つめる。
「君も子も無事で良かったよ、嬉しいよ~よく頑張ったね、ありがとう」
家族をこよなく愛する夫シダー。
妊娠が分かってからというもの、それはもう大変だった。
四六時中妻の側にいたがる主。
主に仕事をさせるため、執事ローアンを筆頭に策を練り、攻略のため全員が一致団結していた。
頭の良い我が家の使用人達の様子は、まるでゲームを楽しむようだった。
陣痛が始まってからはおそらく、仕事は手につかず執務室をうろうろオロオロしていたであろう。
そんな姿が簡単に目に浮かぶ。
しょうがないわねぇ、可愛らしい人。
ふふ。
夫に微笑み返した後、セリビアは大きく息を吐く。
無事に重責から解放され、やっと肩の荷がおりる。
赤ちゃんの横に陣取った子供達の笑い声が聞こえる。
いつもは落ち着き大人びたふたりの興奮した様は珍しい。
頬を赤く染めながら、それでも礼儀正しくあれと頑張っている。
「僕が兄様だよ、はじめまして」
「小さくて可愛いわ! 私は姉様よ」
「ホーリー様、カトレア様、お手を触れる前に綺麗にしてくださいね。 旦那様もです!!」
普段はおおらかなプラネラの、慌てた声が妙に可笑しい。
夫が産まれる前からこの家に仕えるプラネラの言いつけは絶対だ。
渡されたタオルでお互いを拭き合い、プラネラも一緒に笑い合っている。
窓の外では鳥達がお祝いの歌を奏で、風が優しく舞う。
木々や花達は緩やかに揺れ踊る。
春光で包まれ祝福をたっぷり受けた小さなララ。
森はご機嫌だ。
少し休もうと目を閉じると、優しい光が真っ直ぐ先を示している。
暗闇の中に明るい光を感じて安心すると、セリビアは深い眠りに誘われた。
◇◇◇
穏やかな新緑の季節。
カンファンス侯爵家に家族が増えたこの日。
好奇心旺盛な姫がもたらす、驚きと朗らかな日々の始まりです。