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Brandnew Day

作者: 如月 望深

自衛のための作品といえば、そう。

「え? ──あぁ、そう」


 彼が、結婚した、と。


 友人から聞いて驚いた。そんなこと、知っていたはずだったのに。私が知らないだけで、彼には彼の人生があり、愛する人がいて当然だ。結婚も、しかり。勝手にそれに動揺するのは、私の都合でしかない。

 彼に彼女がいたこともあるのを知っているし、彼が女にモテるだろうことも容易に想像がついた。


 けれど、何となく、彼は結婚しないような気がしていた。


 そのことに、どこかで安心していた。

 

 彼が、誰のものでもないと。


「ほら、幼馴染のあの子、披露宴に呼ばれたんだって」

 友人が大学時代の友達の名を挙げた。彼とよく一緒にいた子だ。

「奥さんがすごい美人だって言ってた。美男美女カップルだって」

 友人がその彼の幼馴染から仕入れたらしい情報を教えてくれたけど、私はそれをあまり聞く気はなかった。


 彼の人生は、私の及ばないところにあって、私の人生には関係のないものだ。


 ──そう。知っていた。そうなのだと。


 彼が幸せになるのは、良いことだと思う。それは本当に。心からそう思う。彼に幸せであって欲しいと思う。だけど、彼の幸せは私には影響しない。


 それが判って、今さらなのだけど、やっぱりそうだと確認して、何となく落胆するのは、本当に私の勝手なのだろう。


「思ったよりショック受けてないみたいだね」

 ちょっとからかうように友人が言った。

 ショック、と言えば、そう言えなくもない感情かもしれない。だけど、泣いたり取り乱したりするような激しい感情の起伏は起こらなかった。

「ショック受けると思った?」

 私が? 彼の結婚の話を聞いて?

「だって、彼のこと好きだったでしょ?」

「…好き、…だったわね、確かに」


 好きだった。

 意志の強そうなその瞳が、ふわりと優しく細められるその視線の先に、自分がいたらいいなと夢想するほどには。


「まー、でも、憧れに近い感情だったかな」


 そう。彼の瞳が誰を向いていても。私はただ、彼を眺めていたかっただけ。

 その視線の先に、自分がいることはないだろうと、最初からわかっていた。


 胸がキリリと絞られるような切なさは感じるけれど。


 だけど、たぶん、私は彼がいなくても生きていける。

 これから先、二度と会わなくても。過去に遡って出会わなかったとしても。

 たぶん、問題ないのだ。


 彼の幸せは、私の人生に波を起こすことはあっても、それで私が難破することはない。

 仮に私が幸せでも不幸でも、彼の人生にはなんのさざ波も起こさない。


 そんな世界線に、私は生きてる。



 彼は、彼の人生を新たに歩み始めた。私も、歩み出さなくてはいけない。私の新しい日々を。


過去に似たようなことがあった時に書いたものに加筆修正したものです。

それが14年も前で、それと似たような感情を覚えるって、人って成長しないなと思いました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 何年経っても色褪せない感情は素敵だと思います。
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