第十五幕 国王様と謁見なようで
今、俺は猛烈にこの場から去りたいと思っている。
現在俺がいるところは、ハインブルグの中心地である『城』。
つまり、ハインブルグ城にいる。しかも前方には、『王冠・マント・玉座』という三拍子そろったあきらかな王様がいる。隣には王妃や王子、姫もいる。
後ろには誰が見ても貴族という恰好の貴族が真ん中の赤絨毯で別れて並んでいる。
俺はそんな中で、赤絨毯の上かつ王の真ん前で膝間づいていた。
背中には視線が痛いほど集まっている。その視線すべてが好意的なものではなく嫌悪的なものも含まれているように感じる。すごく胃が痛くなってきた。
というか、なぜこのような状況になっているのか……
思い返せば、それは数時間前に遡る。
―――数時間前
俺は、モンスターパレードでの報酬は後日という話をギルドマスターに聞いたのでいったん宿屋に戻ることにした。
「魔法を使うと眠くなるんだよな。思ったより体が疲労してるみたいだ。眠気が…」
体が眠気を求めていたので宿屋のベットで横になった。疲労していた俺は、すぐに横になると寝てしまった。
しかし、熟睡することはできなかった。ある人物によって…
どんどんどんどん…
宿屋の階段を上ってくる足音が聞こえ、俺は少しだけ目を開けた。
「うるさいな…静かにしろよ」
どんどんどんどん…
しかしその足音は、俺の部屋に近づいてきていた。その足音の人物はまっすぐハルトの部屋へと向かい扉を勢いよく開けた。
「おーい、ハルト呼び出しだぞー。ガハハ」
開けた人物は筋肉…いや、ヘルマだった。突然の侵入にびっくりして俺は起き上がる。
「どうした?寝てたか?」
「寝ていました。突然入ってくるので…」
「すまんすまん、こっちも緊急らしいからな。お前さんの魔法が凄かったせいやな」
皮肉交じりで話すがすぐに流されてしまった。むしろ、皮肉で返された気がする。
「それで、なんですか」
「まあ話は後だ。ギルドに行くぞ」
「え?なんで……うおっ!?ちょっ!」
腕を掴まれ、強引に起き上がらされた。
ギルドハウスの応接室に通された。
そこには、シャルマさんとテリーさんが待っていた。
「来たか……。ありがとうもう下がっていい」
ベルマは俺に向かって「がんばれ」と一言いい部屋から去っていった。
「えっ?なんかあったんですか?」
「まあね。君に招待状が来ていてね」
「招待状?ですか」
友達いない歴21年の俺に招待状だと……誕生日会にすら一度も呼ばれたことないのに
「そうだ。ギルドとしても是非、行ってもらいたい」
嫌な予感しかしない……
「えっと誰からの招待状でどこに行くのか教えてもらえないでしょうか」
「……王様だ。行ってもらうのは王城…ハインブルグ城だ」
うん。最悪……なんでだ。
「なんでですか?悪いことしましたか」
「いや、たぶんだが今回のモンスターパレードについてだろう。というのもモンスターパレードのクエストは王城からの依頼だ。報告された時に君の異常魔法によって被害が出ていないことが伝わったんだろう」
異常って…。まあそうだけど、人に言われるのはちょっと複雑な気分だ。とりあえずいったん帰って気持ちを整理しよう。
「いったん出直してもいいですか?」
「そうしてあげたいんだけど……だめなんだよね」
「なんでですか?」
「招待状に1時間後に迎えが来る。だからあと10分後には王城からの使いがくるんだ」
胃が痛い…。というか逃げたい。俺の責任なんだろうけど…そうだ。
「俺、正装とか持ってないですよ」
「大丈夫だ。服装は自由と書いてある」
「マナーもないです」
「気にしないで大丈夫だ」
「胃が痛いんですけど」
「回復魔法があるだろ?」
終わった……。逃げ道がない。シャルマさんも「あきらめるニャ」と言う。
そんなこんなで10分後、王城からの使いが来て現状である。
「おもてをあげよ」
王様の声に俺は緊張した顔をあげる。
「此度のモンスターパレードにおいて被害は0であった」
それを聞いた、周りの貴族がどよめいていた。
「モンスターパレードにおける被害が0であったのは今回が初めてであろう。でだ、此度の被害0の立役者こそ、お主だと伝え聞いておる。名はなんといったか」
多分、俺に問うているんだよな……。アルバイトの時のマナーでなんとか乗り切れるか?
「ハルトと申します」
「ハルトか。ハルトよ、此度の件で高度な魔法を使用してモンスターパレードの半数を撃退し、仲間のサポートでは回復魔法を使用していたと聞いた」
「モンスター半分は、倒せましたが……森を少し壊してしまいました」
それを聞いた、周りの貴族がまたどよめいていた。しかし、「静まれ」と横にいた王の秘書っぽい女性が声を出すと静かになり、王様がまた話始めた。
「それは初耳だった。しかしまずは、礼を言う。人的被害が出なかったのはお主のおかげだ」
王が頭を下げてきたのでこちらも頭をペコリとした。
周りはすこし驚いていたようだが……すぐに秘書女子の目線で静まった。
「貢献したお主に特別報酬をだそうと思うが何か欲しいものはあるか?
これは、困る。バイトの先輩に「何かおごってあげるけどなんかほしいものある」って言われてるのと近い感覚だ。
「恐れ多いですが…冒険者のため依頼内容の金銭報酬だけいただきたいと存じます」
「むぅ……。それ以外の報酬なのだが。よし!」
王様は、何か思いついたように現世の「なるほどな」というようにこぶしと平手をあわせる。
「10,000yellのほかに男爵位と屋敷をやろう。あと上乗せで300,000yell追加する」
あまりの発言に俺は動揺してしまい言葉を失ってしまった。そんな中、一人の貴族が俺の前に出てきた。
「お待ちください。いくら何でも冒険者に貴族位など……」
いかにもあくどい顔の貴族の男が不満顔でこちらを見ながら進言する。
いやそんな顔で見られても…。俺もいるとは言ってないぞ。
「ゼラよ。お前に発言権を与えてはいないが?」
「しかし王よ……」
「では、お主はおよそ4000体のモンスターを一人で狩ることは可能だったか。ハルトは、国にとって大事な人材となりうる」
「ですが……冒険者に貴族位を与えるのは品位が下がります」
「くどい!これは、決定事項だ。むしろ王の意見を遮るお前によって現在進行形で品位が下がっておる。お主の意見は通らん。下がれ!」
さすがに王様に強く言われ、しぶしぶながらゼラと呼ばれた貴族は俺をにらみつけながら下がった。
にらみつけられても困るんだが……。むしろ早く帰りたい。
「これにて、閉幕する」
ようやく終わるようだ。
「冒険者ハルトとヘレナ以外はすみやかに退出するように」
oh……まだ俺に安息する時間は来ないようだ。
俺は天井を見上げ、仰いでいた。
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