第十二幕 美食を求めて王都散策なようで
今日の餃子うまかった
「はぁ…」
俺は、あまりの疲れに宿屋に帰ってきて飯も食わずにベッドに飛び込み突っ伏した。ベッドは、俺の前世よりも少し硬いと感じた。
「まさか、さらに2時間も事情聴取を受けるとは…」
あの、死体の山を見た3人はまず、驚きフリーズしていた。フリーズ解除されたとたん俺に詰め寄り、事情の説明を求められた。当然、俺も今まであったことを事細かに説明した。
しかし、だんだん3人は、飽きれた目でこちらを見ていた。その後、俺がおかしいという結論でまとめられてしまった。(解せぬ!!)
また、オオカミ男については、結構お騒がせしていたみたいで殺しても罰金ということはなかった。むしろ、討伐報酬が出るみたいだった。
もろもろの結果、報酬の支払いは、明日の昼ということで解散になった。
そんなこんなで疲れ果ててしまい、明日はクエストを受けるのをやめて王都散策へと向かうことにした。
次の日、朝起きて朝ごはんを求めて街に出ていた(宿屋にご飯は、なかった)。
最初にフェイに案内された時は、ゲテモノ料理に目が行ってしまったが、まともな料理というかおいしそうな料理が多くあった。その中でも、40代前半のおっさんが肉をケバブ風に焼いて食パンに挟んでいる料理を売っており、すごくいい匂いが漂ってきて俺の食欲がそそられたため、買うことにした。
「おっちゃん、一つください」
「あいよ、600yellな」
アイテムボックスから600yellを出し、おっちゃんに受け渡す。おっちゃんは焼いている肉をそぎ落とし、パンとキャベツを挟み、紙で包んだ。
「あいよ、お待ちどう。熱いんできいつけな」
お礼を言って、さっそく一口かぶりつく。かぶりつくと肉汁が染み出し、パンに染み出す。口の中は、肉のうまみが広がった。
「なんだこれ!うめぇ! こんなの前世で食べたことねえぞ」
牛や豚、鳥なんかじゃなく食べたことない肉だ。ハンバーガーで感動していた前世を思うと涙が出そうだ。感動している俺におっちゃんは、「当然だ」と言わんばかりにうなずきながら説明してくる。
「前世ってのは、わかんねえがこの肉はうまいだろ。そんじょそこらの家畜とはわけが違う」
「これ、なんのお肉なんですか」
俺は、ここまで感動させられたお肉の正体がすごく気になってしまい率直に聞いてみた。
「聞いて驚きな、バジリスクっちゅう蛇の肉や!」
「え!?」
その言葉を聞いて、俺は二重の意味で衝撃を受けた。まさか、蛇の肉がこんなにうまいのかという驚きと昨日の今日で倒したバジリスクとの再会を胃の中でするとは思ってもみなかった。
複雑な心境の中、歩いていき、屋台の野菜スープをベンチで食べながら「ぬぼーっ」としていた。
「空が青いな…」
ただ単に俺が、黄昏ながら一言漏らしたわけではない。これは現実逃避をした言葉が出たのだ。それは周りの状況にある。
俺が今座っている場所は、王都の真ん中の噴水のある広場のベンチだ。とても景観が良い、デートの待ち合わせにぴったりだ。つまり、恋人がいっぱいいるってことだ。
「クソが! リア充め滅びろ!」
若い恋人から、夫婦、友達同士などがくつろいでいる。俺のようなボッチは、はたから見ると変なのだ。
「まさか、異世界来てまでリア充にあうとは…ん?いまなら滅ぼせそうじゃね」
ちょっと気の迷いがではじめていた。
しかし、気の迷いは、すぐに吹き飛ぶことになった。噴水広場の前で男性3人と2人の女性が揉めていたからだ。できる限り関わりたくはなかったが、絡まれてのは、見覚えのある女性だったので見過ごすことはできそうになかった。
「人と待ち合わせしてるんです」
「いいじゃん3人3人だし、どっか遊び行こうよ」
「オレ、Cランク冒険者になったからおごってあげるよ」
「いえ、あの…」
「この子、おどおどしてる子かわいいね。これ俺のな」
「だから、どっか行ってください。正直迷惑です」
「うるせえなぁさっさと来いよ!うがっ」
女性の言葉にイラついた男は、手を伸ばし女性の手を強引に掴もうとした。
しかし、腕は届くことなく遮られた。
「ハルトさん?!」
男性のうめき声を聞いて様子をみた女性は、俺の顔を見てギョッとして驚き俺の名前を呼んだ。そう、掴まれそうになっていた女性は、フェイさんだったのだ。
「テメェ、何しやがる」
「な、なにって知り合いが困ってたんで、腕掴みました」
「ふざけてんのか? 俺はCランク冒険者だぞ。痛い目みてぇのか」
チンピラは、腕を振りほどき邪魔をした俺に腹を立てチンピラ男たちはこちらにガンを飛ばして睨みつけてきた。
「痛い目は嫌です」
「じゃあ、邪魔すんな。童貞…うがっ!」
この男は、言ってはならないことを口にした。
俺は、その単語を聞いた瞬間、フェイの腕をつかみ暴言を吐いた金髪チンピラ冒険者の頬を全力パンチで殴り飛ばした。男は、噴水の水に落ちぶくぶく浮いていた。
「俺は、童貞じゃねぇ。無限の荒野で運命の相手を見つけている最中だ」
俺の言葉よりも吹き飛ばされた男に注目が集まり、俺の迷言は誰も聞いていなかった。
「てめえ、何しやがる」
「俺たちはCランク冒険者だぞ」
吹き飛ばされたチンピラ冒険者の仲間たちA・Bは、俺に詰め寄ってにらみつけている。
「はい?」
「てめえ、ホントにむかつくな。キサマみたいなボッチ野郎、俺が……ぐぼへっ」
チンピラAが言ってはならないことパート2を言ったので俺は先ほどと同様に顎にアッパーを入れ殴り飛ばした。チンピラ仲間1は、噴水周りに生えている木の上で伸びていた。
「ボッチではない。群れるのが嫌いなんだ」
それは、ボッチと認めているようなものだと騒ぎの様子をみていた周りの人間は思っていた。
「……思い出した。お前、最近入ってきたBランクのハルトか。バジリスクのクエストで4体も倒したっていう……あの」
なぜか、俺の事を知っていたらしいチンピラBは、飛ばされた仲間を見て震えながらこっちを見ている。
その言葉に周りの人間は、驚愕した目でこちらを見ている。バジリスクの件は知らなかったのかフェイも驚いていた。当たり前だ、ハルトのようにひょろ細い人間がBランク冒険者という事実に加えバジリスクを倒したなんて信じられないことだったのだ。
「なんで知ってるの?」
チンピラBは、当たっていてほしくなかったという顔で青ざめた顔をしていた。
「まあいいけど、この子たち知り合いなんだよ。だからあきらめて、お仲間つれてどっかいってくれない」
「わかった。もう手は出さない。仲間は連れて帰る。お前にボッチ童貞とは言わな……ボハッ」
チンピラBは言葉途中で俺のこぶしが顔面に突き刺さり、後ろのベンチまで吹き飛び気絶していた。
「「「「「……」」」」」
周りの人間も3人も人間が吹き飛ぶのを見て、言葉が出てこなかった。しかし皆が皆、あのチンピラBが余計な一言を言ったバカだと思っていた。
チンピラが吹き飛ばされて、噴水広場は人がいないのかというぐらい静寂に包まれていた。数秒の後、助けたフェイがその静寂を断ち切った。
「ありがとうございました。おかげで助かりました」
「通りかかったらたまたま知り合いだったんでびっくりしました」
実際、絡まれていたのがフェイだったというのが助けたっていうのはある。
とりあえず、周囲の人の目が集まってきたので、いったん助けた小柄でショートヘアの女性とフェイを連れて離れることにした。フェイもさすがに疲れたのか、もう一人と待ち合わせする場所のベンチへと俺達は向かった。
「まさか、ハルトさんがまた助けてくれるとは……」
「偶然、朝ごはん食べながらぼーっとしてたんだ」
実際は、リア充を見て根絶やしたかったと思って座っていたとは言えない。
そんなことを心の中で思っていると、フェイと一緒にいた小柄で気弱なショートヘアの女性がフェイに隠れながら話しかけてきた。
「あ…あ、あの、ありがとうございましゅた」
(あ、噛んだ)
「ごめんなさいいいい」
「大丈夫よ、メル。ハルトさんは優しい人だよ」
「はいいいい」
そんなに怖いのかな。ちょっと自分の顔が心配になってきた。さっきのチンピラBも青ざめた顔してたし、俺の顔って怖いのかな?
「ハルトさん、彼女はメル・ルトルート、わたしの友達で、家の商会の一員の娘なの。初対面の人には緊張してしまうけど慣れられたら普通の子よ」
「ごめんなさい。緊張が……」
「いえ、だいじょうぶです」
メルさんは、涙目になりながらフェイの後ろに隠れていた。その様子は、俺の〇校時代を思い出す。それは、はたから見ればイジメているような構図にも見えた。現に勘違いされていた。
「てめえ、メルを泣かせるなぁああああ」
声の女性は、俺に向かって膝蹴りを繰り出していた。女性はスカートをはいていたのでもちろんストライプの下着がチラ見えしてしまっていた。もちろん膝蹴りは、しっかり避けた。
「避けんな!」
「いや、危ないし」
至極当然のことだよね。ストライプの下着が見えたら見ることと同じで膝蹴り飛んでるのが見えたら避けるだろ。
「アカリ!やめて!なにもされてないから。というか知り合いなの」
「知り合い?なんの?」
フェイに止められて、動きは止まったがこっちを疑っているのか目を細めながらこちらをジッと見てくる。
「さっきもチンピラに絡まれてたところを助けてくれたの」
「え……」
助けた人なんて聞かされたらそうなるよな。と心で思いながら俺は様子を見る。
「それと前話したと思うけど、盗賊に襲われた時に助けてくれたのもこの人よ」
「フェイ……」
「そ、そう。助けてくれた恩人。私が緊張してて……ごめん」
メイも、俺が相手ではないため噛まない。それにかばってくれた。
「うっ……」
助けたつもりのメイにも言われ、自分がやってしまったことを振り返って、ポニテ少女は、ばつが悪くなった顔になった。
「っはぁ……悪かった」
「あっ、はい」
「ぷっ、ハルトさん。女性にまだ慣れてないんですね」
俺の返事を聞いて女性経験のなさを知っていたフェイが大爆笑していた。くそっ悔しい。けど笑っているフェイさんは、ちょっとかわいく見えるのでなんも言えない。
一通り笑い終えたフェイは、膝蹴りしてきたポニテ中学生みたいな子の紹介をしてくれた。
「この子も、うちの商会の娘さんでアカリ・ランデルです。正義感が強い子なんですが、見たものに突っ込んでしまう体質でして…。アカリも反省しなさい」
「悪かったよ。ハルトだったな、こいつらの恩人に襲い掛かってしまうとは…すまなかった」
「だいじょうぶです」
とりあえず、穏便にすませることにした。とりあえず今日あったことをアカリさんに伝えて、フェイが俺とのこれまでの話を2人に話していた。ところどころ、おかしいとか女性経験とか言ってたような気もするけど気のせいだろう……。
そんな感じで2人の話も聞いているといつの間にか日が暮れてしまい約束していたことは大丈夫なのか聞くとアカリとメルが顔を見合わせてフェイをチラ見して視線を俺に戻し「「大丈夫です(だ)」」と言ってきた。
それを聞いていた俺は、「約束だったんじゃ?」と頭をかしげたが…
フェイは顔を赤くしながらアカリとメルの肩をポカポカたたいていた。
という感じで俺の朝は終わった。
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