episode 0 「序幕」
「——おのれェ虚夜の裁め……」
男は血を吐き出し、悶え、訴える。その顔面には、箍の外れた悍しい表情を浮かべ
「許さぬ……許さぬ…………必ず、この手で……この剣で、俺が必ず斬り払ってやる……」
果てのない闇に向かって、拳を突き上げる。しかし貪慾な闇はその拳を瞬く間に呑み込むと、憎悪に塗れた男を葬り去るのだった。
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人間の頭蓋と同程度の水晶玉が、淡い光を纏っている。そこに両手のひらを添えた女は、秀麗な顔を歪ませて、水晶玉に浮かび上がる、闇に蝕まれゆく男の最期を眺めている。
「なんってことなの……」
それが女の率直な感想だった。眼前に飛び入る、あまりにも無惨な畢りに対し、応答できる言葉が思い付かなかったのだ。
「アンヌリドネ様! これがSランクだと仰るのですか!? こんな、こんな恐ろしい厄災が……!」
水晶玉の惨憺たる光景を傍観していた少年が、身を震わせながら女に問いかける。
「……ホズ。今からあなたに重大な任務を課すわ」
女は強張った表情の少年に向かって言い放つ。
「あなたに世鏡の間への立ち入りを許可する。いくつかの異世界へ降り立って、片っ端から強そうな勇者を引っ張り出してきなさい!」
それを聞いた少年の顔は、見る見るうちに青ざめてゆく。
「ひとつの世界に複数の勇者を転移させるというのですか!! ですが、それは禁忌ですよ……!」
「このカタロフ……虚夜の裁……Sランクを遥かに凌駕する攻略難度よ。【剣聖】のスキルを宿した勇者ですら、全く歯が立たなかった……」
「……やるんですね。アンヌリドネ様!」
「ええ。この世界を救うには、それしかないわ」
——集えよ最強の勇者たち。虚夜の裁を、討ち滅ぼすのだ。