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漢城伊里とのストレス発散

 学校で漢城が騒いでしまうという点はあったが、結局二人で最初に来たのはボウリング。


 「何お前。ボウリング出来るのか?」


 「え?逆に吉条君出来ないんですか?」


 はっきり言えば、ボウリングなんてやったのは小学生ぐらいの頃だっただろうか?

 一度ぐらいしかやっていなかった覚えがある。


 「一回しかやったことが無い気がする」


 「……高校二年生でボウリングを全然やったことも無い人間なんてそんなにいないと思います」


 「まあ、やってみれば分かるだろ。どうせここまで来たんだからな。ストライクを取ってストレス発散しよう」


 「おお!意気込み良いですね!では負けた方がジュース奢りはどうです?」


 「お前、男子の俺に勝てると思ってんのか?」


 「いやいや。ボウリングは男女関係なく楽しめて、実力はどうかは分かりませんよ?」


 ほほう。そこまで言うとなると少しは自信があると言う訳か。だが、ここで負ければ面目丸つぶれ。絶対に負けない。


 「よし。じゃあやるぞ」


 意気込んでさあ一ゲーム目。


 結果、


 俺 30点

 漢城 150点


 ……………何故だ。


 何故、俺が投げる球は思った所に行かないのに、漢城の球は思った所に行くんだ?

 もしかして、漢城は球にでも細工でもしているのかと思い、一度漢城の球を使ったが、何も変わらなかった。


 「……何かすみません。まさか、ここまで弱いとは流石に思わなかったです」


 漢城が悪い事をしたと言わんばかりに謝罪してくるが、それが一番きつい。

 誰だ?あんな大見えきって負けた馬鹿は?


 ――――俺だ。


 何という屈辱。今日は厄日ではないかと思える程に、誰にも勝てないんじゃないんだろうか。


 「……もう一回だ」


 「え?まだやるんです?」


 「このまま負けたら俺は一生誰にも勝てない気がする」


 「一生はないです」


 「カッコよく言ってるんだから黙ってくれない?」


 本当に空気が読めない奴は困っちゃうよね!絶対に負けん!


 二ゲーム目。


 俺 50点

 漢城 168点


 ……おかしい。


 何故だ。何で勝てないんだ。俺は小野にも負け、漢城にも負け、果たしてこれから先誰かに勝てるのだろうか。

 これではストレス発散ではなく、ストレスが溜まっていく。


 「……もう止めません?私ジュース要らないですから」


 最早、今まで散々おちょくった漢城に慰められる始末。


 一体どうした吉条宗弘。俺は何時からガリ勉に成り下がったんだ?別にスポーツが出来ないと言う訳ではない。長距離走だって順位は真ん中辺り、体育の球技だってあまりミスはしない平均の成績。短距離は得意。なのに、ボウリングで女子に負けて慰められるという始末。


 「ジュースはきちんと奢る!だが、次だ!次の所では絶対に負けん!」


 「……なんか趣旨変わってません?しかも、こんなに燃えてる吉条君見るの私が初めてかもしれないです」


 「おいどうした!行くぞ!」


 「……むしろあっちの方がやる気出してますよ」


 漢城に呆れられながら、次に向かったのはカラオケ。


 だが、甘いな漢城。俺は普通に歌は歌えている自信はある。そして、一般知識程度の曲は知っている。絶対に負ける筈がない!


 一曲目

 俺 74点

 漢城 85点


 アハハハハ。アハハハハ。凄い。僕ってこんなにも点数取れてる。


 「ってなるかボケ!ふざけんな!何で、漢城はそんなに上手いんだよ!何か?お前は俺に勝てる勝負を挑んでるのか!?」


 「ちょ、マイクで喋ったらうるさいです。しかも、私ってそんなに上手くないですよ。普通ぐらいです」


 「……普通…だと」


 「はい。普通です。吉条君が音痴なんです」


 「……………音痴」


 思わず復唱してしまう。


 俺が音痴?勉強しか取り柄がないがり勉男?


 ――――絶対に負けられない戦いがここにある。


 「漢城、これで負けた方がジュースだ!勝負しろ!」


 「え?これ見てよく挑む気になりますね」


 「ここからだ!ここから挽回してやる!」


 「私弱い人から金を巻き上げてるみたいじゃないですか」


 死んでも負けん!


 二曲目。


 俺 75点

 漢城 84点


 「……俺は音痴なのか」


 絶望して思わず、膝を落として下を向いてしまう。


 「うーん。吉条君は音痴って言うより、全然歌詞とかリズムとか覚えてないです。それが原因かと」

 

 「俺、音痴じゃない?」


 「はい……多分」


 「おい、なんで最後に至らないことを言った?」


 「確証はないので」


 「……よし、決めた。今回は負けたかもしれないが次はぜ―――――――ったいに勝つ!」


 決意を込めて言い放ったが、フラグ回収とはこの事かと言わんばかりに一時間歌ったが俺が漢城に勝てることは無く、学校ではそろそろ下校時間なので途中まで一緒に帰る。


 「吉条君って何に対しても無気力かと思いましたけど、案外負けず嫌いなんですね」


 「いや、俺もそこまで負けず嫌いではないと思う。だが考えてくれ」


 「何をです?」


 「散々お前を馬鹿にして、おちょくった結果、俺は敗北。ここまでの屈辱があるか?」


 「あー。確かにそれだけ聞くと凄い馬鹿で恥ずかしいですね。私なら引き籠るかもしれないです」


 「ねえ、何で更に傷を深くするんだ?お前怖いぞ?」


 「吉条君ほどじゃないですよ」

 

 今日と言うほど自分が愚かだと思った日は無いかもしれない。


 今日めっちゃ思うこと多いな。


 思わず自分にツッコんでしまう。末期かもしれない。

 

 「ハア。マジでこれから本買うお金……って!お前!本教えて貰ってないぞ!」


 慌てて思い出した。うっかり忘れていた。こいつ策士かよ。


 「いやいや、私の当初の予定ではボウリングであそこまで時間掛ると思ってなかったんです。それに、カラオケも結構時間掛りましたし、だから本屋に行く時間なかったですし、私題名知らないので表紙を見ないことには」


 「ったく、これだから見積もりが甘い奴は困るんだよな」


 「今すぐ自分に土下座して謝って欲しいです」


 漢城がジト目で睨んでくるので、思わず眼を逸らしながら、話を変える。


 「……まあ、それは良いとして、どうして今日は俺と遊んでんだ?お前ならネタがあるかもって校舎内ウロウロしてるんじゃないのか?」


 「あー。私の中学校からの経験談なんですけど、テスト終わりって大体何も無いんですよね。だから校舎にいてもあまり意味は無さそうだし、帰る吉条君と居た方がネタがありそうですし」


 「俺ってそんなに何かある様に見えるか?ただの本オタクだぞ?」


 「だからこそですよ。だから予想外の事とか起きそうで面白そうですし、一緒に居て飽きないですし」


 「馬鹿だな。予想外の事とか起きる訳ないだろ」

 

 「それを言ったら小野さんの素顔を見れたのは吉条君あってですし、貴方自身にも興味ありますし」


 傍から見れば勘違いしてしまいそうになる言葉だが、俺は間違えない。


 彼女は俺と言う人物に興味があるだけであり、恋愛対象として興味があるわけではない。そんな間違いを犯す馬鹿なことはしない。


 「確かに小野の素顔を見れたのはビビったが、あれっきりだろ。これ以上何かあってたまるか」


 「うーん。私の直感が何かまだまだあると訴えているんですがね」


 「ないない。絶対にない。あってたまるか。合いませんように」


 「もうお願いしちゃってますよ?」


 ああ、もう神様でもいるならお願いしていい。頼むから部活だけでは飽き足らず、小野にも目を付けられる始末。本当にこれ以上面倒なことは勘弁して欲しい。


 「良いんだよ。お願いしてでも楽したいんだから」

 

 「もう、そこまで楽したいって考えれば立派だと思います。ただ、この様子だとまだ部活にも難しい案件は来てないです?」


 「分からんな。はっきり言えば、小野の件以外は俺じゃなくて南澤達が行ってるからな」


 「なら、吉条君が何か起こるというのは無さそうですし、今度は体育祭委員会で何かあるのを見つけることにします」


 「へえ、もうそんな時期か。お前も委員会に入ってるのか?」


 「はい。ああいう所にこそネタが集まってますから」


 「ネタが集まるかどうかは知らないが、こんな早くに行われるのか?」


 俺の予想では夏休みなどに密かに学校に来て色々考えているイメージだ。こんな早くに消えるとは思わなかった。


 「そうですよ。体育祭実行委員会は何もしていないように見えて、夏休みに集まったりして色々考えてるんですよ?」


 「うわー。最悪じゃないか。休みの夏休みがつぶれるとか絶対に嫌だ」


 「そんなこと言わずに吉条君も一度やってみません?」


 「絶対にやらない」


 「ま、そうですよね……あ、私はこの辺です」


 漢城は家が近いのか立ち止まる。


 「そうか。なら一言だけ言いたいんだが」


 「何です?もしかして愛の告白です?キャー!恥ずかしいです」


 「さようなら」


 ふざけたことを抜かす高城に最早何も言い残すことは無い。


 「あああ!本当に帰るとかあります!?言いたいことがあるならどうぞ!」


 言おうと思えば口を挟むんだ馬鹿は何処のどいつだろうか。


 「ハア。そんな畏まって言うことじゃないが、付き合ってくれてありがとなって言いたかっただけだ。じゃあな」


 「アハハハ。吉条君は律儀です。体育祭実行委員があるんで当分は吉条君の取材には行けないと思いますけど、美味しいネタが入ったらいつでも言ってください」


 「あ、そう言えば学校に赤の勝負下着を着てくる奴がいるらしいぞ」


 「まだ言いますか!?」


 殴られまいと少し離れた場所で伝えながら俺もまた帰ることに決定。


 全くストレス解消とまではいかなかったが、まあ……厄日ではないのかもしれん。


 翌日


 朝、教室に入れば黒板に文字が書かれており、一瞬落書きかと思ったが、良く見れば体育祭実行委員の取り決めを行ったようで、名前が書かれている。

 

 「何時の間にこんな事したんだ?」


 寝ていたということではないと思うが、全く身に覚えがない為、俺の記憶違いか……ん?


 んん?


 見間違いだろうか?うん、見間違いだ。そんな筈はない。


 体育祭実行委員

 男子 吉条宗弘

 女子 南澤真澄


 ………………………………………………………………………………………………………嘘だろ?

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